【第四部】 追跡 一章 科学と魔術 4
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「き、昨日は、綿貫さんと俺、会ってた」
慌てて白井は自分のスマホを見る。
「夕方までホテルで、俺と一緒にいて」
『ホテル』と聞いて、驚きと、にやつきが浮かぶ面々。
「ばかっ!ちげえよ! 俺のばあちゃんの占い、綿貫さんが受けたいっていうから、ホテルのラウンジで、ばあちゃんと三人で、会ってたんだ」
白井と白井の父が住む場所へ、白井の母と一緒にやって来た柏内は、親子水入らずで過ごすようにと、一人ホテルに宿泊していた。
文化祭の時は、ろくに柏内に挨拶も出来なかったことを、綿貫は気にしていて、柏内の泊まるホテルまで、白井に連れて行ってもらったのだ。
「へえ、わたわたの方から、ね」
瑠香の目が、蒲鉾のような形になる。
白井の顔は真っ赤だった。
「それで、柏内さんの占い、受けたの?」
恭介がとりなす。
「う、うん。進路とか、将来とか、なんか聞いてた」
柏内も、初めて孫が連れてきた女子を見て、目を細めた。
しっかりとした家庭で、育てられたと思われるお嬢さん。
手土産に渡してくれた、ブーケもセンスの良い彩だ。
占い?
そんなものに頼らなくても、あなたの未来は安泰ですよ。
そう励ました瞬間。
綿貫がくれた花束から、蜘蛛が一匹滑り落ちた。
柏内は白井や綿貫が気付く前に、手刀で蜘蛛の糸を切っていた。
「占いしてる間は、俺、あんまり側にいなかったけど、帰りは綿貫さんの家の近くまで送ったよ。それで、あとからお礼のメッセージが届いたのが、夜の八時」
「私が送ったメッセージが、昨日の夜十時か。それに既読がつかないってことは…」
その時、白井のスマホが鳴った。
発信者は、綿貫だ。
あわてて応答する白井。
「わ、綿貫さん!?」
「こんばんは。はじめまして、かな。白井くん」
「え、え、何、誰?」
「君の学校の生徒会長でーす」
藤影侑太だった。
「知ってると思うけど、俺の生徒会役員、ほとんどいなくなっちゃってね。新しいメンバー探してるんだ。そこで、今回は外部生からも抜擢しようと思ってさ」
白井は震える指で、スマホの音声をスピーカーモードに変えた。
恭介と悠斗や瑠香も、侑太の肉声を聞いていた。
「君と、君のお友達の松本君、一緒に生徒会を支えて欲しいんだ」
「い、嫌だと言ったら?」
「君の彼女、綿貫さん、どうなるのかな。詳しいことは、悠斗にでも聞くといいよ」
悠斗の顔が険しくなる。
「じゃあ今夜、零時に学校で打ち合わせしようね」
侑太からの通話は切れた。
「なんだよ! なんなんだよ!」
白井が叫ぶ。
いきなりの出来事に、白井の頭がついていかない。
「ヒロ、綿貫さんのスマホの位置、分かる?」
恭介は冷静に尋ねた。
「チックショ―!」
白井は歯を食いしばって、アプリを開く。
「よ、横浜」
「フェイクね、それ」
瑠香がきっぱりと言った。
「俺もそう思う。スマホの位置を特定されることは、きっと承知の上だろう」
侑太は嫌な奴だが、決して馬鹿ではないことを、恭介はよく知っていた。
「深夜、学校っていうのは?」
悠斗が険しい目付きで恭介に向かう。
「それは本当だろう。ただ…」
「ただ?」
「学校にいるのは、多分侑太じゃない」




