きみとはなしができたなら『オレンジ』
オレンジ
反抗期でもどんな時でも、帰ればいつも欠かさずに言っていた、ただいまの言葉。
それが、今日は。
無言で玄関のドアを開けて帰ってきた君。
それはそれは、難しい顔を浮かべている。
帰るやいなや、いきなりカバンを放り投げてから、ただいまと言って、いつもは二階へと駆け上がるのに。
難しい顔のまま、無言でリビングに置いてあったスマホを握ると、外へと飛び出していった。
何事があったのかと心配になり、サンダルを足に引っ掛けて、ドアを開ける。
家の前の、そう広くはない道路の真ん中で。
君は仁王立ちしながら、スマホを西へとかかげている。
カシャ、カシャ。
その音と、西を見つめるその真剣な眼差しに促され、私も君の隣で西の空を見上げてみる。
燃えるようなオレンジ。夕焼けの空。
うわすごいと声を出し、それからそっと、君の横顔を見た。
一生懸命に、西の空を撮る、その横顔。
スマホを通して、茜を睨んでいる。
眉に入る力。唇を噛んでいる。睨みつけているのは、オレンジ。
燃えるようなオレンジは、見ているだけで闘志が湧いてきて、それこそ心が奮い立つ色で。
ああ今日という日が、たとえ辛い一日だったとしても。
両足を開き、足を踏ん張って、君は立っている。
オレンジを睨みつけながら、少しだけ強く、スマホのシャッターを押す姿。
ああ君は。
こんなにも、強くなったんだなあ。
お母さんも今日ね、仕事で失敗しちゃってさ。
君がただいまと言ったら、おかえりとともに、苦笑いで話そうと思っていた言葉が、喉の奥へと押し込められた。
押し込められたんだ。
夕焼けの同じような写真を25枚も送りつけてきて私を困らせる、君へ