通報
「通報、した方がいいんじゃない?」
再び、千鶴は言った。
畠山は胸がドキッとした。
正直、自分がやってない以上今一番犯人である可能性がある千鶴にとにかくこの場から離れてほしい。
できるだけ刺激しないように畠山は言った。
「うん。そう。そうなんだけど。今通報すると、絶対に犯人扱いされて、大変な事になると思う。だから千鶴は帰った方が」
「別に構わないけど」
「べ、別にって」
「やってないんだから」
「、、、」
「じゃあ」
畠山はズボンのポケットを弄り、自分の体温で少し熱くなったスマホを取り出した。
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ダイヤルを押し通話ボタンを押そうとした。
「いや、、、やっぱり帰ってくれ」
「どうして」
「君が何故ここに来たのか、何故入れたのか、正直、聞きたいことは山程あるんだけど。
とにかく今は帰ってくれ」
千鶴は黙っている。
「また連絡するから。頼む。今日は帰ってくれ」
少し怒気を混じらせた声になる。
「わかったわ」
何故か頑なだった千鶴は、突然玄関の方へ歩き出した。
下駄箱に入れていたらしいミュールを取り出し、淡々と履いた。
下駄箱に入れていたから帰ってきた時に気付かなかったのか。畠山は思った。
「じゃあね」
「ああ」
畠山は玄関の方は向かずに挨拶を返した。
ドアの開く音がして、閉じる音がした。
廊下の扉は開かれたままだ。
「くそ。なんだってこんな事に」
「どうすればいいんだ」
畠山が千鶴を無理にでも帰らせたのは二つの理由があった。
一つは千鶴が犯人かもしれないと思い一刻も早く離れたかったからだ。