知ってる死体
「あれだ」
そうに違いない。
畠山は以前笠井から聞いた話を思い出していた。
指にキラリと光るこれは間違いなく笠井のものだろう。
という事は
「この人、、、多分、会社の上司だ」
千鶴は何も言わない。
「こ、この指輪。見覚えがある」
目の前の死体が笠井だと気付いた瞬間、畠山は体から血の気が引いていくのを感じた。
立っていられなくなり思わずその場に座り込む。
死体との距離が近くなった事からか慣れてきていた血の匂いが再び鼻の奥をついた。
「なんでっ、、、こんな事に」
ポロポロと涙溢れる。
信頼していた上司が、死体になって自分の部屋にいる。
突然突きつけられたあまりにも理不尽な状況に悲しみと怒りが交錯する。
人前で泣く事など滅多になかった畠山だが感情を抑えることが出来ない。
「大丈夫」
久しぶりに発した千鶴の声は、質問なのか、肯定なのかはっきりとはわからなかった。
「通報、しないの?」
「うん、、、」
「千鶴は帰った方がいいんじゃないか?」
「どうして」
「どうしてって」
どうして、どうして?なんて聞けるんだ。
畠山はわからなかった。
「君がやったんじゃないんだろう?」
違うと言ってくれ。そう願いながら聞いてみた。
「ええ」
その答え方に感情は感じられない。
あまりの出来事に麻痺してしまっているのだろうか。
それも畠山にはわからない。
「なら」
なら、帰ってくれ。疑われるだろう。
そう言おうと思ったが言葉が出てこなかった。
他でもない自分が千鶴を疑っている事に気付いたからだ。
突然、体中を恐怖の感情が駆け回った。