表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/32

大きなダイヤ

入社して一月ほど経った頃。


いつものように昼休みに喫煙所でタバコを吸っていたある日、畠山は笠井の左手の薬指にキラリと光るものを見つけた。


随分大きなダイヤモンドの指輪だ。


結婚指輪って石が付いているものだっけ。


畠山は分からなかった。


指輪を気にしている素振りを見せる畠山に笠井は気付いた。


「これが気になるか?」


笠井は手をヒラヒラとしながら悪戯っぽい顔で言った。


「はい。大きいですね。それってダイヤですか?」


「そうだぞ。しかし」


「しかし?」


「おもちゃだ」


そう言って笠井は笑った。


「え、」


何故そんなものを、畠山は言いかけたが笠井が何か話し始めるのを待つことにした。


「これはなぁ。女房と出会った頃。本当に貧乏だった。指輪なんて買えなかったからな」


まさかそれでプロポーズしたのか?


畠山は想像して少し微笑ましい気持ちになった。


いやまさかな。そう思った。


「これでプロポーズしたんだよ」


「当たってしまった」


「ん、なんだって?」


「い、いえ。あ、でもどうしてその、、おもちゃを」


「うん」


笠井はとても優しい顔で微笑みながら言った。


「プロポーズは見事成功し、俺は最高の女を手に入れた。しかし、結婚直後に女房は死んだ」


「あ、、、そうだったんですか」


畠山は気まずい沈黙が続くかと思ったが笠井が明るい声で打ち消した。


「交通事故だった。もう何十年も前の話だ。結局ちゃんとした指輪は買ってやれず残ったのはこのおもちゃだけ。俺の指には合わないから石だけ取ってこの指輪にくっつけた。それでたまに思い出したようにつけてんだ。女々しい話だよ我ながら」


確かに女々しい話だと思った。


しかしストレートにそういう訳にもいかない。


素敵な話です。


それも違う気がする。


なんて言おうか迷ってる間に笠井のタバコはほとんど灰になっていた。


「暗い話して悪かったな。午後からまた頑張るぞー。まあ俺がまたこの指輪をしてるのを見たら思い出し笑いでもしてくれ。じゃあお先」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ