大きなダイヤ
入社して一月ほど経った頃。
いつものように昼休みに喫煙所でタバコを吸っていたある日、畠山は笠井の左手の薬指にキラリと光るものを見つけた。
随分大きなダイヤモンドの指輪だ。
結婚指輪って石が付いているものだっけ。
畠山は分からなかった。
指輪を気にしている素振りを見せる畠山に笠井は気付いた。
「これが気になるか?」
笠井は手をヒラヒラとしながら悪戯っぽい顔で言った。
「はい。大きいですね。それってダイヤですか?」
「そうだぞ。しかし」
「しかし?」
「おもちゃだ」
そう言って笠井は笑った。
「え、」
何故そんなものを、畠山は言いかけたが笠井が何か話し始めるのを待つことにした。
「これはなぁ。女房と出会った頃。本当に貧乏だった。指輪なんて買えなかったからな」
まさかそれでプロポーズしたのか?
畠山は想像して少し微笑ましい気持ちになった。
いやまさかな。そう思った。
「これでプロポーズしたんだよ」
「当たってしまった」
「ん、なんだって?」
「い、いえ。あ、でもどうしてその、、おもちゃを」
「うん」
笠井はとても優しい顔で微笑みながら言った。
「プロポーズは見事成功し、俺は最高の女を手に入れた。しかし、結婚直後に女房は死んだ」
「あ、、、そうだったんですか」
畠山は気まずい沈黙が続くかと思ったが笠井が明るい声で打ち消した。
「交通事故だった。もう何十年も前の話だ。結局ちゃんとした指輪は買ってやれず残ったのはこのおもちゃだけ。俺の指には合わないから石だけ取ってこの指輪にくっつけた。それでたまに思い出したようにつけてんだ。女々しい話だよ我ながら」
確かに女々しい話だと思った。
しかしストレートにそういう訳にもいかない。
素敵な話です。
それも違う気がする。
なんて言おうか迷ってる間に笠井のタバコはほとんど灰になっていた。
「暗い話して悪かったな。午後からまた頑張るぞー。まあ俺がまたこの指輪をしてるのを見たら思い出し笑いでもしてくれ。じゃあお先」