2日目の喫煙所
入社2日目のことだった
仕事道具であるPCが10台、ずらりと並ぶ仕事部屋から出て廊下を3メートル程進んだところに1日目は遠慮して行けなかった喫煙所がある。
昼休みの時間。朝に寄ったコンビニで買ったカレーパンとコーヒー牛乳の質素な昼食も終わり、時間が少し空いたので喫煙所と書かれているその部屋に入ってみた。
ひんやりとしたドアノブを回した先の部屋には銀色をした長テーブルの空気清浄機の様なものがあった。
自分以外には誰もいない。
改めて長テーブルを見てみると、どうやら両端に煙を吸う機能を持った灰皿らしきものが付いてるらしい。
畠山は初めて見る設備に感動しながらポケットから出したメビウスに火をつけた。
ゆっくりと煙を吸い込み
吐き出した
自分はこの会社でやっていけるのだろうか
不安と期待で満ちていた1日目。
2日目には早くも不安が優勢になっていた。
ガチャ
威勢良く扉が開き、少し疲れた顔の中年が入ってきた。
くたびれた長袖のカッターシャツにスラックスといった出で立ちだ。
視線をあげて畠山と目が合う。
「お、おつかれさまです!」
畠山は挨拶をし、反射的にタバコを消そうとした。
「あぁ、おつかれさま」
やんわりとした笑顔でそう返され畠山はタバコを最後まで吸おうと思った。
「ええと、君は、、畠山くんだったな。ありがとうな。うちみたいな会社に入ってくれて」
「い、いえいえ!恐縮です。こちらこそ入社させて頂けて嬉しく思ってます!頑張ります!」
心にもない事を口にする。
社会人として当たり前の事だがこの人の柔和な表情を前にすると嘘をつく事に少し胸が痛む。
「はは。そんなかしこまらなくていいさ。もっと肩の力を抜けばいい。ただでさえ慣れない生活が始まるんだ。休憩時間まで疲れる事はないだろう」
「はあ、ありがとうございます」
畠山は忘れられて灰がすっかり長くなったタバコを、灰皿の上で二回叩き、灰が落ちたのを確認して口元に持っていった。
肺まで煙が届いた時には緊張もすっかり消えていた。
笠井というその上司の名前を覚えたのは一足先に仕事部屋に帰りさっきの上司のデスクを確認してからだ。
その日から、昼休みに喫煙所に通うのは畠山の日課になった。