千鶴
響いた声はどこか聞き覚えのあるもの気がした
「、、、」
畠山は驚きのあまり声が出ない
しばらくの沈黙が続く
「開いてたから、、」
再び声が響いた。
「だ、だれですか」
その場に立ったまま畠山は出来る限り声を振り絞った。そう思ったが実際にはそんなに大きな声は出てこなかった。
「千鶴です」
「千鶴だって!?」
畠山は耳を疑った。
驚嘆と疑念が頭を駆け巡る。
しかし先程までの不安と恐怖は頭から消えていた。
千鶴は大学の頃の恋人だった。
仲は良かったし、喧嘩もほとんどしなかった。
だけど距離だけはどうしようもなかった。
社会に出ればただでさえすれ違う事が増えるだろうと思っていたし、お互いに決まった就職先は随分と遠い場所だった。
千鶴は地元に帰る事にし、畠山は東京に残る事にしたからだ。
千鶴はなんとかなるだろうと言っていたが畠山はそうは思わなかった。
何度か話し合い、卒業まで半年ほど置いて別れた。
それ以来顔を合わすことはあっても話したりはしなかったから実際に話すのは約1年ぶりと言う事になる。
畠山は正直なところ少し嬉しかった。
「久しぶり」
聞こえるか聞こえないかの声で呟き、
居間へと続く半開きのドアを押して
中へ入った。