起
謎解きミステリーホラーです
真相までお付き合いいただけると幸いです
もう終電の時間だというのに、ジメジメとした空気が漂う
最寄り駅から家に向かう道は街灯の間が長く、街灯同士の中心部分はほとんど見えなかった。
畠山拓也は汗をにじませながら家路を急いでいた。
不快な汗を早く洗い流したかったからだ。
東京で社会人になって約3カ月、子供の頃に思い描いていた大人とは随分違う大人になっていた。
誰かが作ったシステムを、誰かに売るという月並みなものだ。
仕事内容が入社前に聞いていたのとは違い、本当は入ってすぐに辞めてやろうと思ったが、他にやりたいこともなかったし、今週までは頑張ろうと、あの電柱まで走る感覚で過ごした。
そう思っているうちに3カ月が経っていた。
社員は10人程の小さな会社だ。
畠山は人付き合いが得意な方ではなかったけれど意外と溶け込む事が出来ている。
それは上司である笠井進の存在が大きかった。
実際に年齢は聞いた事が無いが少し白髪の混じった頭髪、笑うとくっきりと目尻に浮かぶ皺。
畠山は笠井の事を50歳前後だろうな、と漠然と思っていた。
ちょうど親子くらいの年の差だと。
笠井は入社直後からよく話しかけてくれたし、無理に飲みに行こうと誘う事もなかった。
酒があまり得意では無かった畠山はそれもありがたかった。
そのかわりにタバコはよく吸った。
休憩時間に喫煙所に行くのが習慣だった畠山は同じ習慣を持っていた笠井と否応無くいつも顔を合わせていた。
初めての会話はどんなだったか
そんな事を考えながら歩いていると気付かないうちに家についていた。
築50年は経っているであろうボロアパートだ。
母子家庭で育った畠山は幼少の頃より貧乏だった。
それでも元気に明るく自分を育ててくれ、大学まで行かせてくれた母に少しでも楽をさせたいと選んだアパートだった。
「はぁ、、、」
畠山はとても疲れていたし、眠気もピークだった。
アパートの雨風も防げない螺旋階段をカンカンという音と共に3階まで上り、自室である302号室の前にフラフラとたどり着いた。
明日は休みだ。
手探りでカバンから鍵を取り出して、古くてスムーズには入らない鍵穴に差し込んだ
静かな廊下にガチャリという音が響く