崇拝する俺の女神
セレン目線(後編その二)です
いつもより短いですがキリがいいので
10カ月、去年は留守番を言いつけられたが、今年は旦那様のお供で俺もお嬢様と一緒に王都に行けることになった。
まぁ正しくは宝物箱に目を付けた荷運び要員ではあるが。
あの竜巻の危険度を加味して砦の補強をすることとなり、王都の東にある森に木材を買い付けることになったのだ。
俺の宝物箱は、お嬢様と旦那様と魔法の先生と他数人しか知らないことなので、買い付けは俺とお嬢様だけに課せられた極秘任務である。
道中、大した問題もなく──俺の索敵魔法に引っかかった盗賊を、討伐と捕縛をかねてワザと襲わせたが、お嬢様一人で元気よくヒャッハーしておられた……勿論、普通の両手剣で──王都に着いて、次の日にはさっそく買い付けに出かけた。
話はすでに通ってるし旦那様からの書付があるとはいえ、子供二人ではまともに相手にしてもらえないだろうと変装魔法をかけるのは当然で。
これは魔法の先生に教えてもらっていた隠密系の補助魔法の一つで、暗部や影と言われる者達の必須魔法だ。
お嬢様の熱烈な希望で、お嬢様は成長した上での男装、俺は成長した上で茶色の目と髪に変装した。
成人化は見た目だけではあるのだが、月光の如きプラチナブロンドの長い髪にくっきりとした紫瞳の猫の目、立ち居振る舞いは元が女性であるがゆえに優雅で見惚れてしまう。
お嬢様が麗しの美青年すぎて大公の使者として十分すぎるほどだろうが、むしろ大公や王族の御落胤とかの噂がたちそうで怖い。
東の森は通称『魔の森』と呼ばれていて、普通の森より成長が早く放っておくとどんどん侵食してくる上、無暗に切り倒したり浸食を防ごうと若木を切ったり燃やしたりしたら、その倍の速度で脅かされることになる。
しかも森の奥に足を進めば進めるだけ、そこは魔物の領域となる。
だから専属の木こりがいて、一部の騎士団と魔法師団も常駐している。
ただ浅い場所では、冒険者達が経験値や素材稼ぎとして活躍しているらしい。
すでに伐採され枝葉を落とされた丸太が五百本ほど、効果抜群なお嬢様が支払いや書類の手続きをして周囲の注目を集めている間に、「大公家の秘術でして」等と色々濁しながら、さっさと宝物箱に収納しておいた。
さてこれで極秘任務は恙なく終了したわけだが。
「さぁ、森の奥に行くわよ!」
と目をキラキラさせているお嬢様に俺が逆らえるはずもなく、森から出るふりをして人目のない場所まで行って隠蔽魔法をかける。
これは魔力の膜で体を覆って単純に見えなくする魔法で、先生が使う認識障害の魔法効果には程遠く、魔力の高い者には効きにくいし、感覚の鋭い魔物には効果が薄い。
要は普通の人間に対しての目くらまし程度なのだが、単純ゆえに意外と使用頻度は高い。
ある程度、森の奥に分け入り索敵魔法で近辺に魔物の姿も冒険者の姿も見当たらない場所で、俺とお嬢様の全ての魔法を解く。
「セレン、大太刀出してー。 ここなら他人の目を気にしないで帯剣できるわ」
宝物箱から爪を取り出しお嬢様に手渡すと、瞬き一つ大太刀へと変化する。
肩に担ぐことは帯剣するとは言えません、とは口が裂けても言えないが。
すると索敵魔法に明らかな異変があった。
約一キロ先にいた小規模な魔物の群れが一目散に索敵魔法範囲外に向かって逃げ出したのだ。
群れの大きさと光点の強さからして、恐らく狗頭鬼だと思うが……。
その後も、お嬢様が進む方向の魔物が次々と逃げていく。
「魔の森っていうのに、全然魔物が出ないね」
「……お嬢様、もしかするとその大太刀には魔物除けの効果があるのかもしれません」
「へ!?」
俺が今までの経緯を話すと、お嬢様は大太刀をまじまじと見つめる。
「おー流石、元竜王の爪。 でも、まぁ、全魔物に効くわけじゃないでしょうし、当たるまで走るわよセレン」
森の奥に向かった駆け出すお嬢様に追随する俺。
いくら走ろうとも相変わらず索敵魔法内の光点は逃げ散らかし魔物との遭遇はないが、別の異変を感じた。
森の奥に行けば行くほど、木の幹は大きくなり葉は茂り緑は濃くなるはずなのに、ある一線を越えたころからそれは現れる。
「ねぇ、セレン……なんか木が枯れてきてない?」
そう所々、立ち枯れた木が目立つようになって、中には倒木しているものもある。
走りながら周囲を見回していると索敵魔法に光点が引っかかった。
「! 前方一キロに魔物が一匹。 かなり大きな個体のようですが……動きがありません」
「逃げる気がないのかしら? それとも逃げられないのかしら?」
「分かりませんが、百……五十……十……そろそろ見えます」
走りついた先、立ち枯れた木に囲まれて僅かに開けた場所の中央に大穴があり、その穴の中から巨大な爬虫類の尻尾の先が見えて揺れている。
そして穴の奥からガリガリと何かを齧るような音が響いていた。
「どうやらお食事中で気付いてないみたいね。 セレン、アレ、竜か蛇か蜥蜴か、他なんだと思う?」
「竜にしろ蛇にしろ蜥蜴にしろ、巨体であることは確かでしょうね」
「じゃっ、サクっとヤっちゃいますか。 アレ、穴から出して」
「はい」
俺は見える範囲からできるだけ穴の奥深くまで、氷魔法で尻尾を氷漬けにした。
そして風魔法を駆使して穴の中から引きずり出すと、ソレは姿を現した。
身の丈五メートルほど、胴の太さは軽く俺とお嬢様を丸呑みできそうなサイズの大蛇だ。
食事を強制的に中断させられた大蛇は体半分ほどが氷漬けになりながらも、鎌首をもたげて威嚇してくる。
が、お嬢様はそんな怒り狂う大蛇に一言。
「お食事中ごめんなさいね、では御機嫌よう」
颯爽と跳躍したお嬢様は、そのまま大蛇の首を一刀両断の元に刎ねた。
僅かに刃を傾けることで、首も体も反対方向に飛ばし血飛沫がお嬢様にかかることはない。
大太刀についた血を空で切りながら、刎ねた首と大穴を交互に眺める。
「一体、何を食べていたのかしら?」
大蛇の口元に血痕はついていないし、大体、蛇というものは基本丸吞みだ。
ガリガリと齧るようなものではないのだが、俺は周囲の様子を鑑みて一つの予想を立てた。
「もしかすると、木の精気を吸っていたのかもしれませんね」
「えっ、まさかの草食!?」
「ある種の精霊や死霊は、他種からの精気や生気を奪いますから」
「じゃぁ木の根っこを齧ってたの?」
俺が大蛇の死体を宝物箱に入れている間、お嬢様は深々とした穴を覗き込んでいるが、五メートルの竪穴の底は見えない。
「セレン、水樽出して」
「はい?」
「それと体力回復薬五、六本ちょ-だい」
「はぁ??」
不思議に思いながらも、ご要望の品を宝物箱から出した。
お嬢様は水樽の中に体力回復薬を混ぜ込むと、その水を穴の中に注ぎ込む。
「お嬢様!?」
「んーただの水より、滋養強壮入りの方が効くかなーと思って」
「木に体力回復薬は効くのでしょうか?」
「……もの凄く、よーく効くみたいね」
「え?」
お嬢様の顔が穴の方に向いていて、その視線を辿ると先程まではなかった細い木の根が穴の奥から伸びていて、いつの間にかお嬢様の足首に巻き付いていた。
「っ!」
「待って」
根を断ち切ろうととっさに短剣を構えた俺を、お嬢様が手を出し止める。
どちらも動かず膠着状態のまま、根の様子を眺めていると。
『……助かったぞ、小さき人の子よ』
穴の奥からずいぶん皺枯れた声、いや念話が聞こえてきた。
「どなたですか?」
『この森の最初の一木、樹人の長じゃよ』
「樹人」
『あの忌々しい蛇めが、儂の根を末端から次々と貪り食いおって、その所為でかなり枯れてしまったわい』
「樹人は根っこで増えるのですか? 筍みたいですね」
『たっ……たけの、こ』
一呼吸の沈黙の後、穴の奥からそれはそれは楽しげな笑い声が響く。
『クッワハハハハハハハッ! 筍か、これは傑作! 蛇も舌鼓を打ったことじゃろうて』
「えーっと、ごめんなさい?」
『いやいや、なかなか胆の据わった子じゃ、これだけ笑ったのは何百年ぶりか。 どれ礼もせねばの、そこの坊主も一緒に儂の元に招待してやろう』
穴の奥からもう一本の根が伸びてきて俺の足首に絡む、瞬間、空間が揺らぎ目の前には、まさに天を衝くほどありえない大きさの巨木があった。
巨木の中央には老爺と思しき人面があって、瞼がゆっくりと上がり口が開く。
「ようこそ人の子よ、先程は助かったぞ」
念話ではない肉声は、思いのほか重厚で力強かった。
お嬢様は乗馬服なのでズボンではあるがスカートの裾を摘まむように淑女の礼をしたので、俺も一緒に頭を下げる。
「お初にお目にかかります樹人の長様、わたくしはエルランス大公の娘、クレリットと申します。 ここにいるのはわたくしの従者、セレンですわ」
「よいよい、堅苦しくなどせずによいぞ。 所詮、儂はただの長生きな魔物だしの」
「では失礼して、一つ訊ねてもよろしいですか?」
「何じゃ?」
「先程の魔法は転移ですかっ!」
目をキラキラと輝かせるお嬢様に、俺は眉間を抑えた。
お嬢様自身は身体強化以外の魔法は使えないが、魔法に対する造詣と知的好奇心が深い。
初めて体験した俺以外の移動魔法に興奮が抑えられないのだろう。
「転移と呼ぶものとは厳密にいえば違うの、儂は招くことしかできん、それも根の届く範囲内限りでの」
「つまり空間を斬って繋げてる? 次元ドアみたいなもの? でもそれにしては……」
ブツブツと一人で思考の海に沈んでいくお嬢様を樹人の長は興味深げに眺めている、がこうなってしまったお嬢様は結構長い間考え込んでしまうので、気まずくなった俺が代わりに口を開く。
「あの、すみません」
「ん?」
「お嬢様は魔法が大好きなものでして、その、悪気があるわけでは」
「よいよい、賢い良い子じゃな。 それに何やら不思議な子でもあるようだしのぉ」
「え、不思議ですか……えぇ、まぁ、色々と破格なお嬢様ですから」
「ふむ、人と竜と神の血が混ざっておるな。 それに魂の色も違うのー」
「は!?」
人と竜の血は分かるけど、神って何だ? それに魂の色って??
俺があまりに驚愕の顔をしていたからだろう、長は噛んで含めるように話を続ける。
「あの子は大公の娘であろう、養女でもなんでもなく。 ならばドラドンとエルの血に連なるのだから、人と神の血が混じっているのは当然じゃろ」
「えっ!? 初代王と王妃? えぇ、人と神って??」
「……そうか、口伝でも書物でも伝わらぬほどの時が経ってしまったのだな……まぁ竜の血は分からぬが」
「あ、それは心当たりがあります」
「そのようじゃの、坊主にも竜の血は混ざっておるようだしな」
「……はぁっ!」
は! え!? いつの間に? 頭の中で走馬灯のようにグルグルと今までの回顧録が巡る。
そしてふと天啓のように一つの事実が頭の中で蘇る、俺が魔力暴走してお嬢様に押さえつけられ口に拳をねじ込まれたあの出来事が。
黒歴史かぁぁぁぁぁっ!
「……まぁ坊主の場合は混じっていても馴染んでないから、一過性のものであろうが」
長が何か言っていたが、後悔と羞恥と罪悪感とほんの僅かな愉悦で、色々ぐちゃぐちゃな感情で頭を抱えて悶絶している俺と、相変わらず思考の海に沈んでいるお嬢様。
中々静かなカオス状態がしばらくは続いたのであった。
「で、二人とも落ち着いたかの?」
「申し訳ありません」
「ごめんなさい」
「それで、改めて礼をしたいのじゃが、何がいいかの? 生憎と儂はこの場から動けぬから礼と言っても限られるが……地位ならば、どこぞかの王家に伝わる秘伝でも教えるか? 名誉ならば、太古の英知はどうじゃ? 財産なれば、幾星霜の時を経た金剛石の鉱脈を教えてやろうぞ」
長は朗らかと、とんでもないことを言ってのける。
どれもこれも使い方次第で、国盗りが出来そうなものだ。
お嬢様は少し考えてにこりと笑う。
「でしたら、わたくしとお友達になってくださいませ」
「……友?」
「はい」
「……儂と?」
「はい」
「……それが礼と?」
「はい!」
お嬢様と長は正面から見つめあって一沈黙、そして。
「クッワハハハハハハハッ! 魔物の儂と友達か、それか礼とは、なんと愉快で欲のない」
まさに腹を抱えて大笑い状態の長に向かって、お嬢様はちょっと悪い笑顔を向ける。
「あら、王家の秘術を握っていて、太古の英知にあふれて、金剛石の鉱脈を知ってる方とお友達になろうだなんて、これほど強欲なことはないですわ。 でも取り敢えずは」
「ん?」
「先程の魔法を解析したいのですわ!」
目をキラキラとさせて年齢相当の好奇心丸出しのお嬢様に、長は喉奥で笑う。
「ほんに、面白くて賢い子じゃの。 どれ友の証をやろう」
そういうと細い根が地上に現れ、お嬢様の額に軽く触れると緑の光が根の先から溢れ包み込む。
光が収まった後、何も変わらないお嬢様がそこにいて。
「これは!?」
「儂の加護じゃよ。 この森の全樹人はお主に危害を加えぬし、助力をしてくれる者もおるだろう。 それとお主の住まう地には、根を伸ばさぬと約束しよう」
東の森が通称『魔の森』って呼ばれているのは、普通の森より成長が早く放っておくとどんどん侵食してくるから。
無暗に切り倒したり浸食を防ごうと若木を切ったり燃やしたりしたら、その倍の速度で脅かされることになる。
魔の森に一番近い王都は言うまでもないが、同じ大陸内にある大公領でも二百年後ぐらいには森に沈むといわれている。
お嬢様が不思議そうな顔をしていると、長は少し懐かしそうな眼をして。
「友は共にあるもの、とな……これも古き盟約の一つでの、儂は意外と義理堅いのじゃ」
「でしたらわたくしは、時々遊びに来ますわ、友達ですもの」
「魑魅魍魎が蠢く魔の森に、か」
「この大太刀で薙ぎ払いますから平気ですわ、それにわたくしには裏技もありますのよ、セレン」
「はい」
「ここまで跳べますの?」
俺はこの魔力の坩堝である長の空間を仰ぎ見る。
「そう、ですね、長の許可があれば、多分」
「儂の許可と?」
「セレンは凄いんですのよ、一度行ったことのある場所なら大体どこでも転移で移動できますの」
「ですが流石にこれだけ個の魔力濃度が高いと、それは結界と同じで本人の認証がないと安全には無理です。 この空間の前までなら跳べますが」
「安全にと?」
「俺一人なら押し通ろうと思えば、力任せに腕の一本でも吹き飛ばして無理やりでも通れます、ですがお嬢様が一緒ですから」
「おぉ、坊主は随分と物騒じゃな」
「えーっと、でも、とっても、いい子ですのよ」
基本、俺はお嬢様以外の全ての事において無頓着だ。
その気になれば全てを切り捨てる事も厭わない、例えそれが自分の身体や命であろうとも。
ただお嬢様が気にしているから気に掛けるのであって、お嬢様が大事にしているから守ろうとするだけだ。
巨大な爆薬庫を抱えた危険思想な人間、物騒は正に言い得て妙だろう。
「ククク、よいよい、許可しようぞ。 好きな時に遊びに来るとよい」
「先程の魔法を魔法の先生と解析して、理論立てて証明して実践して見せますわ、セレンが!」
「魔法の行使は、坊主の専売か」
「残念ながらわたくしは、身体強化一択なのですわ」
しょんぼりとするお嬢様に頭を、長の細い根がポンポンと叩く。
「それぞれに役割はあっての、出来る者が出来る事をすればよいのじゃよ。 さて、そろそろ日が暮れる、遅くならないうちにお帰り」
「はい……セレン」
呼ばれた俺は、そっとお嬢様に近づき手を取る。
「また、遊びに参りますわ」
「枝葉を長くして待っておるぞ」
長の言葉を見送りに、俺は街屋敷の人目のつかない荷小屋裏へと転移した。
11カ月、魔の森での出来事を報告したからだろうか、旦那様は王都から戻れず、お嬢様と俺と護衛についてきていた人員の半分が陸路で領に戻った。
お嬢様と俺だけなら転移で跳べたが、転移自体が極秘事項で旦那様他数人しか知らない魔法なので使うわけにもいかず、だからと言ってお嬢様と俺だけで領に戻る、とは言えないので仕方がない。
が、上に立って止める人物不在ということで、お嬢様が嬉々として態々ドレスアップまでして、行く先行く先で目立つ囮として振舞った。
結果、領に帰るまでに三つも盗賊や野盗が襲ってきたので討伐しておいた……お嬢様一人で元気よくヒャッハーと。
この街道筋も随分と平和になることだろう、うん。
王都で買い付けた丸太で砦の補強が進む中、お嬢様と魔法の先生は長の魔法の解析に勤しんで、その理論を基にできた魔法を俺に教え込んだ。
12カ月、旦那様が戻られぬまま、王都からお嬢様の迎えの馬車がきた。
王宮からの召喚状付きで、護衛も王宮の騎士達でお嬢様の世話をするのも向こうが用意した侍女で、こちらからの付き添いは不要との事。
衣食住は王宮騎士や侍女に任せても問題はないが、俺が付いてないと大太刀も渡せないし大体必要な荷物は全部、宝物箱の中にあるのに。
仕方がないから少しばかり容量の増えた魔法鞄の中に様々な物を詰め込んだ。
武器は両手剣を、おやつは焼き立てのアップルパイを、強化された体力回復薬もありったけ入れておいた。
そして万が一の保険として、出来立ての魔道具であるペンダントをお嬢様に着ける。
「お嬢様、何かありましたらこのペンダントを意識して俺を呼んでください。 それが何処であろうともすぐ参ります」
「新しい魔道具ね」
「長の魔法理論で作ったペンダントです。 一回限りですが俺を召喚できます」
「プッ! セレン召喚獣になっちゃうのね」
「俺がお供できればいいのですが……いっそのこと隠密魔法でこっそり付いて行きましょうか?」
「んー大丈夫だと思うのよ……心当たりがなくもないの時期的にねー、あーあ二年しか持たなかったか。 まっ、ちょっと行ってくるわ」
お嬢様はそう言って、王宮の馬車に乗り込んだ。
そして、その日を最後にお嬢様が領に戻ることはなかった。