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心酔する俺の女傑

セレン目線(後編その一)です

……なぜ終われず長くなるのだろうorz

 元竜王の爪である大太刀は様々な検証の結果、俺の宝物箱(アイテムボックス)に収納することになった。

 正しくは、それしかできなかったのだが。


 あれはお嬢様が触れていると、必ず大太刀へと変化した。

 試しに俺が預かると両手大の爪に戻る、幸いなこと切断された指部分は消えていて一安心だ。

 だがお嬢様が触れると必ず変化する、素手であろうと布の上からであろうと変わりなく。

 つまりはペンダントやアクセサリー等に加工する事も出来ず、ポケットに入れようものならスカートを突き破って大太刀になるのだ。

 だからと言って、俺が普通に持つのにも問題があった。

 たかが爪、されど竜王の爪……その切れ味は半端ないのだ。

 俺が預かる時にうっかり落としてしまったら、その爪はバターに温めたナイフを入れるかのようにスッと荒野の大地に突き刺さったのだ、ほぼ根元までがっちりと。

 万が一、足の上にでも落としたなら余裕で貫通しただろう。


 さらに、お嬢様から百メートルほど離れると、大太刀はお嬢様の手元に飛んできた。

 爪の状態でも同じことが起こり、俺が爪を持ったまま離れても結果は同じで、まぁこれで盗難の心配はしなくていいわけだ。

 宝物箱(アイテムボックス)に収納した時のみ、何百メートル離れても大丈夫だったのだ。

 ……宝物箱(アイテムボックス)を突き破ったらどうしようと、少し思っていた。

 現実問題として、あんな大太刀が空を飛んだら非常に目立つ。

 そうでなくとも、持ってるだけで目立つ。

 大太刀の状態でなくても、あんな巨大な爪ってだけで目立つ。

 それは何の素材だっ!って冒険者共が殺到しそうで、想像するだけで面倒くさい。


 安全面や周囲への隠匿の意味合いから考えて宝物箱(アイテムボックス)に収納することになったが、自力で帯剣できないお嬢様は不満そうだ。

 だが流石に、この大太刀を肩に担いで歩き回るわけにはいかない。

 これは早めに、お嬢様考案の魔法鞄(マジックバッグ)を開発しなければならなさそうだ。



 で、屋敷に戻り身支度を整えたお嬢様は早速、旦那様に来年の誕生日プレゼントをおねだりしていた。


「お父様からいただいたジャマダハルが壊れてしまいましたの、ですから来年の誕生日プレゼントはまた剣が欲しいですわ」

「今度は、どんな剣がいいんだい?」

細剣(レイピア)がいいです。 ただ刃はいりませんから、出来るだけ重くしてほしいです」

「重い方がいいのかい?」

「はい、可能な限り重く。 鍛練用の剣にするのですわ」

「……重く、か」


 旦那様は一思案し何かを思いつくと、壁際に控えていた執事に声をかける。


「宝物庫にアダマンタイトがあったな」

「はい」

「それで細剣(レイピア)は作れそうか?」

「お時間を頂けますなら」

「クレリットの誕生日までに間に合わせてくれ」

「畏まりました」


 従者としての俺の先生でもある執事は顔色一つ変えることなく、旦那様に受け答えをするとサロンを出て行った。

 同じく壁際に控えていた俺は何とか表情を繕っていたが、お嬢様は大慌てで旦那様に詰め寄った。

 ソファーに座っていた旦那様は、傍にきたお嬢様を抱き上げ膝抱っこにして、目を細めながら頭を撫でる。


「お父様、何も伝説級の金属でなくてもよいのです!」


 正直、俺も驚いた。

 まさか希少な超硬度金属を持ち出してくるとは思わなかった。


「だが重い方がいいのだろう、私が知る限り一番重い金属だからねぇ。 アダマンタイトも宝物庫で死蔵されているより、日の目を見た方がいいだろう。 ただ非常に硬い金属だからね、細剣(レイピア)に鍛錬するのに少々時間がかかると思うのだよ」

「全然急ぎませんの! 刀鍛冶の方にも、無理を言わないようにお願いしますわ」


 旦那様の無茶だけど一応無理のない正論と有無を言わせないような笑顔に、お嬢様の勢いも弱まっていく。

 そんな二人の様子を眺めながら、じゃぁ俺は次の機会の為に火廣金(ヒヒイロカネ)でも手に入れておこうと思う。 

 金より軽く、金剛石ダイヤモンドより硬く、永久不変で絶対に錆びない、と言われているこちらも伝説の金属だが、お嬢様と一緒にいると手に入りそうな気がするから。



 その後は、お嬢様基準の長閑?な時間が過ぎていく。

 


 1カ月、宝物箱(アイテムボックス)を基礎にして急遽作り上げた魔法鞄(マジックバッグ)は、盗難防止のため持ち主のお嬢様で記憶して魔力値を元にしたので、大きな容量はできなかったが何とか大太刀が入る容量のポシェット型を作り上げた。

 が何故か相性が悪くて、大太刀でも、俺が一度受け取って爪に戻しても、魔法鞄(マジックバッグ)には入らなかったのだ。

 まぁお嬢様の体積分の物は入るので、重宝してくださってはいる。



 2カ月、出来ないものは仕方がないと、いつもの荒野で俺は主に転移の改良に力を注いでいた。

 俺一人が数百メートルの転移など、徒歩と変わらないではないか。

 最低でもお嬢様を伴って数キロ、目指すは国を跨げるほどに。

 で、お嬢様は嬉々として大太刀で色々試し切りをしていて、俺が隠れていた大岩を真っ二つにしていた。

 


 3カ月、転移の飛距離は数キロに延びた、が未だお嬢様を伴うことはできず、どうしても他の魔力があると自分の魔力の座標がずれてしまい飛べなくなるのだ。

 ただの移動方法だけではない、いざというときの緊急避難の手段なのだから、お嬢様が一緒でないと意味がないのに。

 そんな悩み深き俺の横で、お嬢様は大太刀で荒野を耕していた。

 何でも魔法の先生と開発した、乾燥に強い魔法植物を植えてみるのだそうだ。

 そういえば少し前に、魔物化した食虫植物に物凄い興味をひかれていた様子だったな。

 食人植物みたいなのが生えないといいが。



 4カ月、一月もすると荒野の一角に小さな丸い瘤のような植物がびっしりと茂っていた。

 よく見てみると、体力回復薬(ポーション)の素になる苔なのだが、よりによって水辺にしか生えない植物を乾燥に強く改良するとは!? 

 お嬢様に曰く魔法の先生に提案して、魔物化した食虫植物と苔を掛け合わせて、必要な「水」の代わりに「魔力」を食べるように改造したらしい。

 正直その考え方に驚いた。

 農業をしている者ならば、偶然多く実をつけた物とか、美味しくできた物とか、丈夫に育った物とかを選んで次に植え付けることはあるだろう。

 だがそれを、こちらに都合のいいように改良しようとするなんて。

 もちろんそれを行使できる魔法の先生がいたからだろうが、理論を構築しているお嬢様がすごい。

 思わず瞠目していると


「今、ここは魔力飽和状態じゃない、勿体ないなーって思って」


 と、笑う。

 まぁ、俺もお嬢様も荒野だし他人の目もないからと、やりたい放題してるしなぁ、と思いながらお嬢様と一緒に丸い苔を収穫した。



 5カ月、苔は非常に効果の高い体力回復薬(ポーション)になって俺の手元に戻ってきた。

 もちろん騎士や兵士、主要各所の方にも配られたが、それでも余りある量の体力回復薬(ポーション)ができたらしい。

 お嬢様も魔法の先生も喜んだが、それ以上に狂喜乱舞したのが商業を担当している文官達だ。

 なにせ、水はいらず人の魔力で育ち、少量で効能の高い体力回復薬(ポーション)の素になる苔の育成確立なのだから、販路拡大は確実だろう。

 だが、どのぐらいの魔力で効果が上がるのかは未確認。

 魔力量の多い俺の分は想定内だろうが、そこにお嬢様の魔力が加わった結果が今回の成果だ。

 お嬢様の魔力量は少ないが、質は竜王のソレと同じモノだと思われる。

 何故なら、お嬢様の鑑定結果は未だに解析不能(エラー)のままなのだから。

 まぁそれでも、お嬢様がこのまま進むというのなら、俺はただ魔法を研磨するだけだ。



 6カ月、日々研磨しているのだから俺の魔法は磨かれていき、気が付けば聖魔法を除く全属性持ちという有様で。

 最も得意なものは、自分だけで完結する魔法で、宝物箱(アイテムボックス)などそろそろ屋敷一軒分は収納できそうなほどだ。

 転移も領内の端から端まで跳ぶことが可能になっていた。

 対象の状態を気にしなくても関係ない、攻撃や防御魔法も得意だと言っていい。

 索敵魔法(サーチ)だったら一日中展開していても平気だし、鑑定は魔法の先生も弾かれないようにできた。

 反して、対象の状態を気がけないとならない場合、一気に不得意となる。

 補助魔法は護衛騎士達との訓練時にかけたりする時は、苦手とはいえまぁ問題はない。

 俺がその系統の魔法は特訓中だとわかっているので、かかりが悪くても、かかってなくても、護衛騎士たちに揶揄われるだけだ。

 だが、お嬢様相手となるとてんでダメになる。

 魔法鞄(マジックバッグ)は改良しても未だに爪は収納できず、清浄魔法(クリーン)も最初に成功した時と効能はほとんど変わっていない。

 自分一人なら得意なはずの転移も、お嬢様と一緒だと発動さえしない。

 魔法が失敗した時、万が一の事態を恐れてるからだと分かっているのだが……。



 7カ月、俺の急成長と諸々の焦燥感からか、ちょっとまずいことになった……魔力暴走を起こしてしまったのだ。

 いつものように荒野に行き、いつものようにお嬢様を伴っての転移の練習をして、いつものように発動さえしなくて、いつものように溜息を零した瞬間、俺の心臓から黒い魔力が溢れ出した。

 その凄まじさは可視化できないはずの魔力が他人にも見えたほどで、お嬢様もひどく驚いていた。

 暴力的な黒い魔力はもはや俺の意志程度ではどうにもならず、心臓から次々と溢れ手足に絡みつき全身を覆っていく。

 『黒髪黒目は魔を呼ぶ』成程こういうことかと、頭の冷静な一部が納得する。

 今の俺を見れば、そう思われても当然だ。

 さてこのままではお嬢様を巻き込んでしまう、海の沖まで跳べば大丈夫だろうか?と転移を発動させようとしたら、当のお嬢様が俺の腰に抱きついてきた。


「セレン、アナタね! 大方、海にでも転移してそこで死ぬつもりでしょうけれど、そんなところで暴走したら津波が起きて港が大事になるのよっ!」

「では、どこかの山中でも」

「土砂崩れが起きるわ、ってかそれだけ冷静なら自分で魔力暴走を鎮めなさい!」


 お嬢様は俺を腰払いすると、地面に転がし腹の上に馬乗りになって両手を縫いとどめる。

 はたから見ると、黒い魔物を押し倒す幼女の図……誰得だ。

 ああ、本当にこのままだとお嬢様を暴走に巻き込んでしまう、俺は最後の手段を取るべく口を大きく開けた。

 が次の瞬間、お嬢様の小さな拳が俺の口にねじ込まれる。


「自死なんか絶対に許さないわよ! 私と心中したくないなら、とっとと鎮めなさい!!」 


 いや、お嬢様は多分死なないと思います……とは口が裂けても言えないし、現実に口がきけない状態でもある。

 でも、お嬢様と一緒ならそれはとても幸せなことだろうと一瞬頭によぎるが、己の主人に髪の毛一筋の傷さえつけることなど許せそうにない。

 お嬢様が俺に触れている以上、転移も発動しない。

 ともかく俺は半日かけて、心臓からあふれる魔力を少しずつ消費していった。

 最も魔力消費の多い、体内での体力回復薬(ポーション)生成し続けた。

 俺の作る体力回復薬(ポーション)なんて効能は下の下だし、入れ物を用意する余裕なんてないから、そのまま地面に垂れ流しだったが何とか魔力を使い切って暴走を鎮めることに成功した。

 可視化できるほどの魔力が消え、俺の姿も元通りに見えるようになって、お嬢様はようやく俺の口から拳を抜く。

 気が緩んで感覚が戻ってきたのか口の中に僅かに鉄錆の味がして、見るとお嬢様の手の甲に俺の歯形が残り微かに血が滲んでいる。

 ああ、その辺の水たまりは俺の体力回復薬(ポーション)だけど泥にまみれて汚いし、宝物箱(アイテムボックス)を開けたいけれど、もうその魔力すらない。

 絶望的な顔色に染まる俺のことを勘違いしたのか、お嬢様は怪我の事など欠片も気にせず、励ますかのようにニッと笑う。

 

「やればできるんだから、そう簡単に諦めるんじゃないわよ。 諦めたらそこで試合終了ですよ、ってエライ先生も言ってんだからね」


 エライ先生って誰ですか? 何の試合なんですか?

 そして魔力枯渇で指一本動かせない俺は、お嬢様に背負われて帰ることになった……黒歴史である。



 8カ月、先月、俺が垂れ流した体力回復薬(ポーション)が苔の育成に変異をもたらしたらしい。

 いつもなら瘤の大きさが親指大なのに、今回はお嬢様の拳大である……黒歴史の古傷が痛むが無視しよう。


「これ以上魔力を注ぐと正確なデーターが取れないから水魔法は使えないし、かといって枯れるのも勿体ないし、少しでも雨が降らないかな」


 と、空を見上げるお嬢様。

 どうやら一度でも雨が降れば収穫できるらしいが、この荒野では年に数回しか雨は降らない。

 本日の鍛錬を終え、領主館(マナーハウス)に戻った俺は、明け方の日も登らないうちに再び転移で荒野に来ていた。

 魔法の先生に尋ねたら、雨は雲の中にある氷の粒が自重に負けて落ちる間に溶けて雨になるとの事。

 俺はその辺に散らばっている雲を風魔法で集めた。

 もっとあった方がいいだろうと、転移まで使って周辺の雲も集めたが雨は降らない。

 雲の中の氷の粒が落ちるのだから、冷たい方がいいのだろうと氷魔法でガンガン雲を冷やした。

 やがて雲の周りの空気が凍り、だんだんと雲の大きさが増してくる。

 雲が大きく重く黒くなり、内部で雷鳴が轟き、周囲で冷たい風が吹き、耳鳴りがした。

 流石にこのあたりになると何かがおかしいと思い始め、気づけば俺が集めた雲は天にまで届く重黒い巨大な塊になっていて、恵の雨をもたらすどころか不穏な気配を漂わせている。

 よく見ると雲の中央から漏斗の形をしたものが下に向かって降りてきて地面に着いた瞬間、それは竜巻となった。


 急ぎ俺はお嬢様の部屋に転移する。

 もちろん普段は主に部屋に直接転移することなどないが、やらかしてしまった現実にかなり動揺してしまっていた。

 ベッドで丸くなって眠っているお嬢様を揺さぶり起こす。


「お嬢様、お嬢様、申し訳ありません起きてください!」

「ん……セレン? どうしたの?」

「竜巻を発生させてしまいました」

「……へ?」


 取り急ぎ経緯を説明しながら、お嬢様考案の念写魔法を展開する。

 俺の見たものを静止画として空間に映し出す魔法で、そのうち動画にも挑戦するつもりだ。

 俺の説明と何枚かの静止画を見てお嬢様が呟く。


「天候まで操るなんて、何て出鱈目(チート)な」


 そして寝巻のまま飛び起き、窓を開けて空を見る。


「風向きは」

「南東です」

「まずいわね、西の砦がある方角じゃない」


 荒野は西にあって、その手前には領への入出審査する場所の一つ、西の砦がある。

 お嬢様と俺は認識障害の仮面をかぶって通り抜けているのだが、一方的な顔なじみがいるのも事実で。


「セレン、宝物箱(アイテムボックス)を開いて大太刀を出すわ。 あなたは先に転移で跳んで、砦の兵士の避難誘導を」

「お嬢様は」

「走って追いかけるわ」


 俺の転移は、まだお嬢様を伴えないから……グッと唇を嚙むと、宝物箱(アイテムボックス)を開く。

 白い空間にお嬢様が手を突っ込み、その小さな手には似合わない大太刀が引き出される。 

 その姿を確認した俺は、瞬き一つで西の砦壁の上、鋸壁の回廊に跳んだ。

 目視で確認すれば、十数キロ先、百メートルほどに成長した竜巻の姿が見えた。

 日のさしていない時刻、砦の門は固く閉じられ常駐している兵士もほとんどがまだ寝ているのだろう。

 逆に夜間の見張りは、やや明るくなった事で外への注視が疎かになっているのかもしれないが、ともかく誰も竜巻に気づいた様子はなかった。

 俺は回廊にある緊急事態を知らせる鐘を打ち鳴らし叫んだ。


「緊急避難、竜巻がくるぞ!」


 鐘と俺の声に気づいた何人かが鋸壁の狭間から覗き、竜巻を確認して大騒ぎになった。

 それでも何とか全員の兵士が避難し終えた時には、もう竜巻は目と鼻の先に迫っていた。

 この砦は吞まれる、そう諦めかけた時、砦の門を抜けて竜巻の目の前に白い影が飛び出した。


「っ!」

「せーのっ!」


 お嬢様は両足を大地に踏ん張り、両手で握りしめた大太刀を頭上に高々と掲げ、渾身の力を込めて振り下ろす。

 竜の咆哮の如く大地を削りながら放たれた剣圧は、空を切り裂きながら竜巻をも真っ二つにした。

 一瞬にして威力が半分に()がれた竜巻は、直後の真空に巻き込まれた風圧と土砂によって瞬く間に相殺されていく。


「おー竜巻も切れるとは、凄いなこの人斬り包丁」


 呑気にでも嬉しそうに大太刀を振り上げるお嬢様。

 俺は砦の回廊から飛び降りて、大慌てでお嬢様を抱き込むと、無我夢中で寝室に転移した。


「なんて格好してるんですかっ!」


 そう、お嬢様は白い寝間着姿のままだったのだ。


 で、結局、俺の容貌は目立ちすぎた。

 黒髪黒目の子供なんて俺しかいないわけで、あっさりと身分がばれた俺は時の人に祭り上げられた。

 『領の危機に駆け付け、砦の兵士を避難させ、竜巻を颯爽と魔法で薙ぎ払った』と。

 なんて酷い自作自演(マッチポンプ)


「認識障害の仮面をつけてないからよ」

「そんな余裕なかったです」


 いつものように荒野に赴いて苔に水を撒きながら、ブツブツと文句をたれる。

 あの時、お嬢様はちゃっかりと仮面をかぶっていたので誰にも気付かれなくて、結局俺だけが目立ってしまい、功績とついでに羞恥が俺一人に降りかかってきたのだ。


「まぁ、皆に承認されるのはいい事だから、諦めなさいな」

「俺がやったわけでもないのに」

「よっ、竜巻殺し」

「やめてください! そんな小っ恥ずかしい二つ名はっ」

「あははははは! まぁ、これに懲りたら、一人で怪しげな魔法を使おうとしないことね」

「……はい」


 そう魔法で雨を降らそうとしなくても、こうやって俺の宝物箱(アイテムボックス)で水樽を持ち運べは済むことだった。

 こうして俺は領での知名度と好感度と恥ずかしい二つ名と、お嬢様に対して魔法を展開できる度胸を手に入れた。

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