銃職人
「お待たせー!」
突然部屋に響く大声に、アメリアはビクッと跳ねた。反射的に音の方を向けば、レディが満面の笑みを携えて近付いてくる。
良く見ると両手でウェインと、後もう一人大柄な男性を引きずっていた。アメリアの座るテーブルまで来てから、対面のベンチに掴んでいた二人を投げる。自由になった両手で煙草を持ち直し、吸い込んでいた煙をプハーッと吐き出した。
「えっと、その……」
どこから何を言えばいいかわからないアメリアに、レディはにっこりと笑いかける。
「随分とお待たせしたね。さて、折角ここに来たわけだし、自己紹介でもしようか」
「じ、自己紹介?」
想定していた事態と違ったのか、アメリアは気の抜けた声を出す。ウェインもレディに顔を向けるが、その表情に今までの覇気は無かった。連れて来られた大柄な男性は、目を閉じたまま両腕を組んでいる。
「じゃあ、そうだね。君は知らないだろうから、このおっさんから紹介しようか」
忙しなく頭をグルグルさせていたアメリアが、男性の方を向いて動きを止める。
短く刈り上げた白髪の混じる髪。皺の刻まれた顔は、まるで毛というものを嫌うように眉や髭が剃ってある。組んだ腕は太く、体には隆々とした筋肉がついていた。
二人分の視線を集めた男性は、薄く目を開いてレディを見てから、気乗りしない様子で口を開く。
「スミスだ。上で銃を売ってる」
声量は適切の筈なのに、その声はどこか聞き取りづらい。まるで音自体が質量を持って、耳に届く前に地面に落ちていくようだった。
重苦しくなった空気の中、アメリアがおずおずと問いかける。
「えっと、それだけ、ですか?」
「これ以上何か言うべき事があるのか」
「いや、その、名前とか」
「さっき言った。スミスで全部だ」
その言葉で終わりだと言わんばかりにスミスは瞑目した。アメリアがそうなの? と問う視線をレディに投げると、さぁと肩を竦める仕草が返ってくる。
「銃職人だからスミスだ。誰もが立派な名前を持ってるわけじゃない」
目を閉じたまま気怠げに答えて、今度こそ口を閉じる。ハッとしたアメリアは、ウェインの表情を盗み見てすぐに顔を伏せた。
まったく、とため息まじりに笑ってから、レディは短くなった煙草を手に押し付けて消した。
「さて、次は私でいいかな。こういうのは言い出した人間が先にやるものだからね」
一度崩れた笑顔を戻して、レディはアメリアに手を伸ばす。
「レディだ。私もこれでフルネームだよ。よろしく」
「え、ええ。よろしく」
流暢な動作で差し出された手を、アメリアは勢いのままに握る。どこかで感じたような、明らかに人の肌ではない冷たさが伝った。咄嗟に手が引っ込もうとするが、ガッチリと掴まれていてそれは叶わない。
アメリアの表情が変わったのを見てから、レディは手を放した。
「お察しだったかもしれないけど、私はほぼ全身機械でできてる。驚いたかな?」
「ええ、まぁ」
見せつけるように両手を広げるレディを、アメリアはまじまじと見る。
精巧に擬態した肌は、人間のそれと殆ど見分けがつかない。毛穴やムラ、或いは人の生気と呼ぶべきものが無い事が決定的な違いだろうか。そのどれも、近くで凝視しなければわからない程だ。
見とれるような視線を浴びて、レディはふふんと鼻を鳴らす。
いけない、また。
それを注意と勘違いしたアメリアは、慌てて視線をずらした。その先にあったものを見て、目を丸くする。
「それ……」
「ん? ああ煙草? そっちじゃあ珍しいんだっけ」
「ええ。吸ってる人なんてもう殆ど居ないわ。まして、そんなクラシックなのは売ってない筈」
「完全な人間には、こんなもの必要ないって?」
煙草の吸い殻を手の中で弄ぶレディに、アメリアは信じられない物を見た、という目を向けた。
「完全な人間って、貴方まさか、壁の中のことを知ってるの?」
「少しはね。一応、私も壁の中から来た人間だから」
アメリアが勢いよく立ち上がって、ベンチとテーブルから大きく音が鳴った。スミスがうるさそうに顔を顰める。
精一杯のアメリアの瞳を、レディは優しげに目を細めて受け止めた。
「どうやってここに来たの? やっぱり、機械の体だから追い出されたの?」
「少し違う。私がここに来たのはもっと前だよ。あのクソみたいな空気に耐えられなくてね」
アメリアは残念そうな、まだ何か聞きたげな表情を見せる。引っかかりのあるやり取りに、先程まで背を向けるようにしていたウェインも反応を示した。
「その完全な人間ってのは何だ。詳しく話せるか」
「えっと、わかったわ。貴方はどこまで知っているの?」
「俺はからっきしだな。レディからも聞いたことがねぇ」
「だって私も知らないんだもん。たまたま、又聞きしたのを覚えていただけさ」
少し声が詰まったアメリアだったが、ウェインの真っ直ぐな目を受け止めて、正面に来るように座り直した。アメリアを正面に据えたウェインの目は、普段通りの強い意志を感じさせるものだ。
「じゃあ、一から全部話せば良いのね。私説明とか下手くそだから、質問があればすぐ言ってね」
軽い前置きと共に、アメリアは語り始める。




