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ハードラック・ブラックアウト  作者: 魚之眼 ムニエル
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似たもの同士

 イムは柄を一振りして構えを整えた。

 度し難いことに、認めざるを得ない。今はこちらが不利な状況だ。最新型である、この私が。サーベルを握る手に自然と力が籠もって、切っ先が揺れる。


「もしかして、怒っているのか?」


 その僅かな変化を見逃さず、レディはイムを煽った。答えるように、イムは静かに腰を下ろして、レディを正面に見据える。


「それでいい」


 弾むように、だが底意地の悪い粘着質を残して、レディは笑った。

 踏み込みは同時。まるで互いがそうするかをわかっていたかのように交錯する。イムが(はし)らせたサーベルを、レディのグラディウスが弾いた。

 追撃はない。隙を探るように、左のサーベルが正眼を保っている。


 やっぱり無理に攻め崩そうとはしなくなるか。


 それも予測済みだ。

 グラディウスの柄頭を叩きつけるようにレディは右腕を振る。それを左腕で受けて、イムは即座に右のサーベルを振るった。

 カウンター気味の攻撃。それが充分に加速する前に、レディはその腕を掴んで止めた。

 密着するほどの距離。先に動いたのはレディだった。

 最小限の動きで放たれた膝蹴り。避けようと身を捩ったイムの脇腹に当たり、上体をよろめかせる。続けて放たれるグラディウスを、イムは横にステップを踏むことで躱した。

 攻撃に転じようとサーベルを振り上げる。隙はここにしか無い筈だった。


「ぐ、うあっ!?」


 イムが苦悶の声を上げる。防御を解いた胸の中央に、遠心力を乗せたレディの回し蹴りが突き刺さった。

 軽々と、体が矢のように飛んでいく。凄まじい質量と運動エネルギーを持ったそれは、幾つもの建物を貫いて、大きな道の中央でようやく止まった。

 倒壊するコンクリート。うざったい土煙をサーベルで払おうとして、イムはその内の1本が折れていることに気付いた。

 舌打ちをしたい気分だが、鋼鉄に固められた顔でそれはできない。辛うじて刃の残ったサーベルを使って煙を払うと、道の先には既にレディが佇んでいた。


 忌々しい。


 今まで殺してきたどの相手とも違う目の前の敵に、イムは初めて強い感情を抱いた。

 通用しない。戦闘のために最適化された筈のプログラムが、この相手には。


「わかってるんだろ?」


 一歩一歩。大地に深く足跡を刻みながら、奴はこちらに迫りくる。


「貴方達は私の妹だ。私をベースに、貴方達は作られている」


 聞いていた。自分がこうして兵器になる前に、研究所を逃げ出した者がいると。それには見つけ次第破壊しろ、という命令が下っていると。

 そして目の前に居るこの相手こそが、その兵器だと気付いていた。


「私のデータを元に作られた、計算し尽くされたプログラムを、その私が計算し尽くしていない訳がないだろう?」


 嘲笑の混じった得意気な笑み。絶対の自信が溢れている。まるでショーの支配人かのように、大仰に両手を広げて。


「機械の言うことに従ってばかりじゃあ」

「さっきから、うるさい」


 イムの体に埋め込まれたスピーカーから、鋭い音が発せられる。端々にノイズが混じった、不自然さの残る声。兜の奥でレディは軽く目を見開いた。


「お前には破壊命令が下っている。だから」

「ならばどうして見逃した! 車を追ってきたときも、私の提案に乗った! 私がこの鎧を装備するときだって、阻止しようと思えばできただろう!」


 今度はレディがイムの言葉を遮る。露骨な挑発。イムが拳を握る。


「本当は望んでいたんだろ? 自分が全力を出せる相手を! そいつとの決着を!」

「そんなことはどうでもいい」

「へぇ、感情は不要物だと切り捨てるのか?」

「……いや。今、決めた。命令や義務は関係なく、私個人の意志として、お前をここで破壊する」


 宣言と共に、イムはサーベルの切っ先を向ける。同時に背後に繋がったバックパックの一部が、土煙を立てて地面に落ちた。背中にマウントしていたガトリング砲も同時に落ちる。

 レディは一度立ち止まって、静かに体を打ち震わせた。


「良い答えだ」


 レディが最大出力で踏み込む。激しい衝撃。大地が揺れる。

 繰り出されるグラディウスを、イムはサーベルを使って逸らした。火花が散る。力を受け止めきれず、サーベルが欠けた。

 今までとは違う一刀の構え。それに加え、サーベルは帯電していない。比べものにならないほど強度が落ちている。イムの不利は明白だ。

 さぁ、どう出る!

 容赦のないレディの猛攻。グラディウスの怒濤がイムを襲う。片手ではどうしようもないのか、イムは攻撃を受けるだけで精一杯だ。

 だがしかしそれすらも限界が近い。サーベルの刃は摩耗し続け、既に折れそうな程ボロボロになっている。

 逆袈裟にグラディウス。続けて放たれる左の拳を、空いた手で受けようと掲げた。


 甘えたな。


 その動きはプログラムが予測した動きだ。強引に体勢を変えたレディが、倒れ込むようにタックルを放つ。受け止めきれず、イムが突き飛ばされる。衝撃に耐えきれなかったのか、その手からサーベルが離れた。

 よろめいた体にトドメを刺すために、レディがグラディウスを構えて追撃する。

 一閃。

 イムは充電の完了したサーベルを引き抜き、居合のようにそれを薙いだ。完全にレディの首を刎ね飛ばす軌道。雷の刃が駆け抜ける。

 鋭い斬撃は、確かにその首を捉えた。しかし傷は浅い。表面を斬り欠いただけだ。最後の抵抗を警戒していたレディは、咄嗟に首を引いていた。

 レディの全身に電流が走る。覚悟していた衝撃にも関わらず、一瞬体が沈みかけた。だが。

 私の、勝ちだ!

 イムはサーベルを振り抜いている。次のグラディウスは受けきれない。確実にこの一撃を胸の中央に突き刺すために、レディは腕に力を込める。


 その胸に、巨大な黒い穴が向けられていた。

 イムの背に残ったバックパックから伸びた、戦車のそれの如き巨大な砲塔。蛇が鎌首をもたげるように、その銃口はレディの体を捉えている。

 マズい、これは――。

 体が重い。完全には躱しきれなかった一撃が響いている。前にかかり切った体重を戻すことができない。

 大砲が吼える。

 轟音が空気を震わせた。

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