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ハードラック・ブラックアウト  作者: 魚之眼 ムニエル
22/36

ベニート・フェルセンという男

「どういう事!? お父様!」


 到底理解することができない事態に、アメリアは唯一信頼できる自分の父親へと救いの手を求める。

 だが、それが差し伸べられる事はなかった。アメリアを一瞥すらせず、ベニートは淡々とドイルに話しかける。


「予定通り娘を連れてきた。後はそちらに任せて問題ないのだな」

「ええ。こちらは大丈夫です。後は貴方次第でしょう」

「貴方! やっぱり貴方が仕組んだことなのね!?」


 問いの矛先をドイルに向けて、アメリアは鬼気迫る表情でドイルに詰め寄る。そこでようやく、ベニートは蠅を見るような目をアメリアに向けた。


「仕組んだ、か。半分正解ですね、お見事ですアメリア嬢」

「どういう事か説明なさい!」

「それは私に問う事じゃない。貴方のお父上に聞いた方が早い話だ」


 口元は笑みを深め、目だけは鋭く睨みつけながらドイルは答える。アメリアは困惑と期待、そして絶望がごちゃ混ぜになった顔で、小刻みに震えながら振り返った。

 目の合ったベニートは不機嫌そうに顔色を歪め、鼻から長いため息を吐く。


「わざわざ説明するべき事かね」

「良いじゃないですか。ここまで来て急ぐような事はない。彼女にも知る権利ぐらいはあるでしょう」


 くつくつという嘲りを混ぜてドイルは答える。一瞬汚物を見るような目をその笑みに向けてから、ベニートはアメリアへと向き直った。


「ここに来てまで無駄な手間を掛けさせるのか」


 放たれた言葉は説明でも何でもない、独り言じみた脅迫だった。

 まるで真っ暗な吹雪の中に放り出されたかのように、身を包む悪寒が止まらない。震える体を押さえようと身を抱いても、それはより激しくなるだけだった。

 何も考えられない頭で、されど1つ、確かな物に縋り付いて、アメリアは顔を上げる。


「信じて良いんですよね、お父様」


 微かに残った希望全てを乗せた言葉、それは。


「反吐が出るな」


 無惨にも打ち砕かれた。

 二人の表情が見える位置へと歩を動かしていたドイルは、その笑みをより深くする。


「お前はもう用無しだ。アメリア。いや、最初から用など無かったのだがな」

「ど、どういう事? 説明してよお父様」

「お前は今から殺される。私と、その男の目の前で」


 信じていた父の、受け入れがたい言葉。臓物さえ震えるのか、過呼吸になったアメリアは胸を押さえながら後ずさる。

 それは奇しくも、ドイルに近付く形で。


「嘘! 嘘っ、よ! 嘘だと言って!」

「私がこの場で嘘を吐く人間に見えるか」

「どっ、どうして? ならどうしてっ、そうなったの!? あの人に、言われたから!?」

「奴とは協力関係だが、決断したのは私だ」


 信じがたい言葉は揺るぎない響きを持って、アメリアの耳に届いてくる。もう立つことすらできなくなって、アメリアは崩れ落ちた。


「どうしてか、説明しなくてよろしいのですか?」

「面倒だ。やりたければやれ」

「できれば貴方の口から伝えた方が良いと思いますが、良いでしょう」


 呆然として座り込むアメリアの正面に回り込み、片膝を立てて目線を合わせてから、ドイルは語る。


「貴方の父はまた壁の中に戻りたかったのですよ。それには貴方が邪魔だった」

「意味が、わからないわ」

「貴方達が追い出された主な原因は、貴方の父上の莫大な権力を危険視する人間が居たからです。サイボーグ手術が全体に広まれば、その力はより大きくなる。多少強引にでも潰す必要があった。タイミングが悪く研究所で事故もあったみたいですが、それも原因の一つでしかありません」


 ドイルの説明を、アメリアはぼーっと見上げて聞く。優しげな声、笑顔の端に、奥底にある邪悪が顔を覗かせる。


「その結果、貴方の父上はここに来た。しかし諦めきれない。自分をこんな場所に(おとし)めた奴らを、到底許すことができない。その為にはまず、壁の中に戻る必要があります」

「壁の中に戻るのに、なんで私が邪魔なの?」


 ぽそぽそと、乾いて枯れ果てているアメリアの声に、ドイルはにこりと笑う。変わらず、目だけは観察するように開きながら。


「機械の体は劣化しにくいとはいえ、それでもメンテナンスが要ります。壁の中はもう機械の人間が生きていける場所ではありません。貴方の父上はそう長くないうちに動けなくなるでしょう。

 壁の中に居る人間にとって、名誉も地に落ちて寿命も長くない彼は、優先的な驚異ではありません。寧ろ貴方の方が恐ろしい。生身の人間であり、若い。不安材料があるとすれば貴方です」


 言葉の中身を理解しているのかいないのか、アメリアはただほうけた顔を続けている。


「ですから、貴方の死を確実な物にする事で、貴方の父は壁の中に戻れるのではと考えたのです。私は少し、壁の中の人間と繋がりがありますから」

「……ウェイン達は、その事を知ってるの?」


 その言葉で更に、ドイルの表情に浮かぶ歓喜が強くなる。自然と吊り上がりそうになる口を隠すように一度押さえ、すぐに表情を戻した。


「さぁどうでしょう。それは私にもわかりません。巻き込んだのは私ですが」

「巻き込まれた、だけ」

「最も、今の彼らには関係ない事でしょう。それに、貴方はずっと憧れの父の役に立ちたいと思っていたのでしょう?」


 そう言ってから、ドイルはアメリアの耳元に顔を近づけた。


「貴方は生まれて初めて、その望みを果たすことができる。良かったじゃないですか」


 思考が囚われる。

 ずっと思い描いていた物が、生きていく理由にさえしていた物が、根幹から崩壊する。体の震えが止まらない。昔の父の笑顔すら思い出せない。

 さらに激しくなる呼吸の中で、アメリアは全身を掻き毟るように体をさする。無理な呼吸のせいで、乾いた咳が弾け出る。

 地面が歪んでいるのかと錯覚するほどのパニックの中で、アメリアの手が、ズボンの中の端末に触れた。


 これでいい。

 見るも痛々しいその姿に、ドイルは満足げな表情をして立ち上がる。顔を戻せば、軽蔑を隠さない目が向けられていた。


「悪趣味だな」

「貴方ほどではないですよ」

「フン、もうどうでも良いことだ」

「そうですね」


 答えながら、ドイルはちらりと入り口の方に目を向ける。そうしてからゆっくりとベニートに向き直って、不気味に微笑んだ。


「既に向こうと話はついているんだろうな」

「ええ。私のできる範囲では」

「何か問題があるのか」

「私は貴方をご案内する所までしかできません。恐らくは壁の中の現重役と、何かしらの契約は結ばれるでしょうね」

「その程度は覚悟の上だ」

「なるほど。それぐらいの障害はねじ伏せられる、と」


 ドイルが品定めするような目を向ける。不躾なそれに、ベニートはわかりやすく鼻を鳴らした。


「それと」


 思い出したかのように呟いて、ドイルはベニートの傍にいる執事へと顔を向ける。


「彼女は機械ですね?」

「ああ。中から連れてきた。私の最高傑作だ」


 賛辞を向けられた執事は半歩前に出る。静かに瞑目した端整な顔立ちは、全くと言って良いほどに生気を感じない。

 ただ仏頂面で佇んでいるだけである。


「製造番号016番。イムです」


 そして、ドイルに向かって言葉を返した時ですら、その顔が動くことはなかった。唇でさえも。

 ほう、と興味深いというような息を溢し、ドイルはまじまじとイムを見る。


「これは、口の動きすら不要だと排除したわけですか。貴方らしい」

「何処まで行こうと所詮は戦う道具だ。必要以上のカモフラージュはいらない」

「人らしさも、ですか? 元は彼女も人だったのでしょう?」

「それは完璧を目指す上で邪魔でしか無いものだ」


 なるほど、と頷いて、ドイルはイムから注目を解く。


「おわかりだと思いますが、彼女は連れて行けません。これではすぐに人ではないとわかりますから」

「わかっている。ただ護衛で連れてきただけだ」

「そうですか。それでは、今後の最終確認を致しましょう」


 薄く笑うドイルに、ベニートは小さくため息を吐いて応じた。

 壁の中に入ってからの計画、報酬の受け取り、今後も良い関係を続けようという定型文と裏のパイプ。

 ドイルは壁の中への影響力をより強くし、ベニートは自らの復権にドイルを利用しようとする魂胆の見えるものだ。


「もういいな」

「ええ、十分です」

「ならば出よう。時間が惜しい」


 一分一秒でも無駄にしたくない、というように足を進めようとするベニートに、ドイルは目を閉じながら首を横に振る。


「どうした、まだ何かあるのか」

「ええ。残念ですが」


 そう言って、ドイルは外に続く扉がある方へと振り向いた。


「別の客が来たようです」


 何? とベニートが聞き返す前に。

 ドイルが目を向けていた壁が吹き飛ぶ。

 遅れましたああああ、すいません。

 バイトを始めたり大学が楽しかったりで小説書いてなかったです。この馬鹿ちんが

 一日一回はなろうを開けって、それ一番言われてるから

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