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ハードラック・ブラックアウト  作者: 魚之眼 ムニエル
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未完成のパズル

 首を捻りながらウェインはガレージの中に車を入れた。エンジンを切って、運転席の背もたれを後ろに倒す。

 寝転ぶわけでもない、起き上がる途中のような姿勢になってから、ウェインは電子煙草を取り出した。

 浅く吸って吐き出した煙がすぐに車の中に充満して空気を濁らせる。時計を確認すると、デジタルの文字盤は10時を示していた。

 考えているのはドイルとのやり取りのことだ。

 この一件のことをまるで知らなくて、挙げ句あっさり手を引くだと? あいつが?

 ウェインの知るドイルという男は、もっと狡猾で慎重な男だった筈だ。本当にこの一件を知らなかったとして、ロクに情報も集めず判断を下す人間ではない。ましてやこちらの感情に寄り添うような奴では、断じてない。

 何か判断に足る材料があった、と考えるのが妥当だ。


「引っかかるな。だが……」


 不安はどうしようもないほど掻き立てられるのに、具体的な実像として結ばない。何処にもハマらないピースがあるのに、どうやっても埋まらない穴がある。

 未完成のパズルは完成像すらわからないほど歪だ。

 ウェインが眉を寄せていると、左耳にコンコン、という硬い音が響いてきた。見やると、レディがウインドーを叩いて覗き込んでいる。

 傍にあるスイッチを押して邪魔なガラスを下げると、優しげな微笑みがよりクリアに見えた。


「どうした。何か用なのか?」

「別に、ウェインの無事を見に来ただけだよ」

「それはわざわざご苦労なこったな。それで、サルヴァトーレはどうだった」

「想像よりは弱い抵抗だったね。そう、奥の手を使った私にハンドガンで挑むバカも居たよ」

「奥の手を使ったのか」

「心配しなくても大丈夫だよ、あんまり長い時間は使ってないから。最後の方は向こうから死にに来たみたいな感じだったしね」


 レディの言葉に眉を寄せ、ウェインは口元を隠すように煙草を吸う。

 マトモな作戦、任務があるのなら、囮でもない限り死にに来るような事はしない。そう、マトモな作戦があるのなら。

 ドイルの、恐らく末端の暴走だろう、という言葉が脳裏をよぎる。

 新たな違和感となる筈のピースは、またもウェインの想定外の形でピッタリとハマった。


「どうしたんだい、何か気になることがあるみたいだけど」

「いや、少しな。どうでも良いことだ」

「私に隠し事をするつもり?」

「……今更考えたって仕方がねぇ、本当にどうでも良いことを考えてただけだ」


 レディが探ろうとしても、ウェインは邪魔するなと言わんばか顔を顰めてから、レディは詮索を続けた。


「どうでもいいなら言ってくれたっていいだろ。何か見えてくるかもしれない」

「チッ、聞くだけ無駄だと思うぜ」

「いいよ。私の耳は無駄な音は拾わないように作られてるから」


 自慢気に答えるレディに軽くため息をついてから、ウェインは整理した言葉を並べ始めた。


「ドイルが、この一件から手を引くと言ってな」

「それは本当に?」

「本当だからここまで考えてるんだ」

「なるほど。それは、何か裏がありそうだね」

「ああ」


 ドイルのことを知っている人間として、レディもウェインと同じ考えに至った。

 深さの見えない大穴は、その底に何が潜んでいるか人に疑わせる。掻き立てる。それが良くない物であると知っていれば、尚のこと。

 こうして進む足を鈍らせる事すらドイルの罠だとすら思え、ウェインは歯噛みした。


「でもまぁ、向こうが何か企んでても大丈夫でしょ」


 軽く手を広げるような仕草を取って、レディは笑う。あまりに脳天気な答えに、ウェインは思わず睨むような目を向けた。


「お前が全部倒してくれるからか?」

「それもあるけど、別に何かを企んでいたところで私達には関係ないって事だよ」

「何が言いたいんだ」

「今日の昼にはアメリアを返して、それで依頼が達成されるんだ。後は私達には関係ない」

「面倒ごとに巻き込まれる前に手を引けと?」


 まぁそうだね。と薄く笑って、レディは腕を組み直す。さも当然とのたまうその姿を、ウェインはまじまじと見ていた。


「何、私は当然のことを言ったつもりだけど」

「いや……間違ってはいない。だが」

「言いたいことはわかるよ。でも依頼主は早急な解決を望んでいて、そして目の前の障害も一応は取り除かれた。仮にまた何かあったなら、すぐに私達の方に話しに来るだろうさ」

「次に何かあったら遅いかもしれないだろ」

「それは私達の知らない話だろ? アメリアを無事に保護する準備は終わってるって話だ、きっと大丈夫さ」


 レディの淡々とした言葉にウェインは歯を食い縛る。言うべき言葉は幾らでも湧き上がってくるのだが、そのどれもただ自分自身のわがままを優先したいだけのものだ。

 追い打ちをかけるように、レディはわかってるだろ? と微笑む。


「線引きだよ。私達と客、身内と他人のね」

「わかってる。だが俺はアイツに借りがある、返さないと気が済まねぇ」

「それとこれとは話が別だ。依頼は依頼、早く済ませるに越したことはない。少なくとも、銃を持たない人間をこれ以上付き合わせる必要はないんだよ」


 諭すようなレディの言葉で思い出すのは、アメリアに言い放ったウェイン自身の発言だ。

 最後に大きく煙草を吸って、ウェインはそれを服の内側に戻した。細い煙を長い時間、たっぷりと吐き出してから車を降りる。


「アメリアは?」

「中に居る。2時に両親のところに行くって話ならしてあるよ」

「わかった。だが念には念だ、俺も含めてもう一度話をさせてくれ」

「あいよ」


 迷いの取れた様子のウェインに優しげな笑みを浮かべてから、レディはぐいぐいと進んでいく後ろ姿を追った。


「薄情だと思うか?」


 引き止めるつもりの言葉ではなかったのに、一瞬ウェインの歩みが鈍る。少しだけ狭くなった歩幅に、レディの長い足が追いついた。

 目を伏せるようにして笑うレディの表情は、どこか自虐的だ。


「いや、お前は正しいよ。レディ」

「そうか、良かった」


 均一な足音を響かせて、二人はアメリアの居るアジトへと戻る。

大変長らくお待たせして申し訳ありません


この小説は完結まで絶対エタらないので安心してくださいすいません

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