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ハードラック・ブラックアウト  作者: 魚之眼 ムニエル
13/36

瓦礫降って決意固まる

「レディ!」


 瓦礫の隙間を縫って辿り着いた扉の先は既に明かりが点いていた。静かに煙草を燻らせていたレディが、ゆっくりと横目を寄越して笑う。


「灰かぶりのご到着か。遅いじゃないか」


 ウェインの後を追ってきたアメリアが、レディの顔を正面から見て息を呑んだ。

 額から一筋、血が流れていた。


「何。私の血は、元から赤かったはずだよ」


 固まったまま赤い一点から目を動かさないウェインに、低い脅しのような声を向けられる。ああ、と生返事を返してから、ウェインは覚束ない足取りでレディに近付いた。

 そして、傷を確かめるように手を伸ばす。が、それはすぐに払われた。パァン、と肉が弾ける音がする。

 呆然とするウェインを見下ろすのは、恐ろしいほど冷たい目だ。


「ウェイン」

「いや、はは、お前が怪我したのは久々だからな。驚いちまった」

「あのな」


 レディは顔を逸らし続けるウェインの胸ぐらを掴んで睨みつける。瞳だけでも逃れようとするウェインを、壁に押さえつけるようにして身動きを封じた。

 二人の間に割って入ろうか悩んでいる様子のアメリアを、レディは横目で一度見て制する。


「いい加減にしろ。私は怪我だってするし、勝手な判断だってする。道具じゃないんだから。わかってるんだろ?」


 レディを見るウェインの目が大きく開かれる。レディは空いた手で大きく煙草を吸って、ため息ごと吐き出した。


「全部その結果だ。ウェインのせいじゃない。下らないこと考える前に自分の仕事をやれ」

「……ああ、すまない。本当に」

「全く、当てにしてるんだからな。リーダー」


 吐き捨てると共に胸ぐらを掴む手の力を緩めて、レディは短くなった煙草の先をウェインの左腕に押しつける。ウェインは弱々しく笑ってから、やんわりとその手を押しのけた。

 やっといつもの笑みに表情を戻してから、レディはアメリアを手招く。二人の間に目線を行き来させながらも、アメリアはこそこそと近付いた。


「頭、大丈夫なの?」

「それは私を馬鹿にしてるのかな?」

「そんなはず無いでしょ。本気で心配して言ってるのよ」

「わかってるよ、ありがとう。この程度なら問題ない」

「本当に? 脳へのダメージは本人が気付かないほど深刻なときもあるのよ」

「大丈夫大丈夫。生々しい話になるけど、頭には合金が仕込んであるんだ。それを貫通してくることは殆ど無いよ」


 流石に血が出るときはあるけどね、今みたいに。と続くやり取りに割り込むようにしてウェインが戻ってくる。完全に落ち着いたようで、瞳の奥には意志の炎を取り戻していた。


「お帰り。遅かったじゃないか」

「悪かった。それで、おやっさんは?」

「奥で作業を続けてるみたいだよ。何かあるなら呼べってさ」

「相変わらずだな」

「ウェインもね」


 けらけらとからかうレディに、ウェインは湿っぽい目を向ける。アメリアも軽く引くような表情を向けていた。

 けほん、と咳払いをして、レディは口角を戻す。


「で、これからどうするの」

「そうだな。まぁ取り敢えずは寝る。全員眠いだろうしな」


 平然と言うウェインに、アメリアははぁ? と声を上げて、レディは眉をひそめる。


「寝るって、この周りには敵がいっぱい居るんでしょ?」

「恐らくな」

「呑気過ぎるわよ、危ないじゃない」


 信じられないというアメリアに追従して、レディもウェインを責め立てる。


「流石にここは冗談を言うところじゃないだろ」

「お前に言われたくはねぇけどな。まぁ、寝るってのは本当だ」

「何故?」

「敵は裏口までは気付いていない。気付いてるならとっくの昔に殴り込んで来るはずだからな。隣も瓦礫で埋まってる、わざわざ降りては来ない、筈だ」

「……だからここは安全だと?」

「少なくとも今は。相手がいずれ気付くかもしれねぇが、その時はその時で対処すりゃあいい」


 ウェインの説明に、レディはうーん、と顎に手を当てて考え込む。アメリアも納得がいかないようで、何か言いたげに顔を曇らせていた。


「その、随分と悠長じゃない? 本当にいいの?」

「そう言われてもな。今は無理に動く方が得策じゃない。相手も存分に警戒してるはずだ」


 言葉を返しても上手く飲み込めないようで、アメリアは難しい顔をする。どう説明すべきかとウェインが頭を掻いたところで、レディがよし、手を叩いた。


「私はウェインに従うよ。何かあれば私が何とかする、それでいい?」

「え、ええ。私はいいけれど」

「じゃあそう言うことで。また寝るまで一緒に居ようか?」

「なっ、大丈夫よ。危ないときは起こしに来てよね」


 アメリアはカァッと赤面してから、逃げるように奥へと進んでいく。気を付けてね、と露骨にからかいながら、レディは小さく手を振った。

 その姿が見えなくなったところで、レディはウェインへと振り返る。覗き込んでくる視線は心の奥底を探るようだ。


「さて、どういうお考えか教えて貰おうか」

「何のことだ」

「とぼけるなよ。今は寝ると言ったって、明日には動かなきゃならないだろう。それをどうするんだって訊いてるんだ」

「そうだな」


 その場にはないのに、まるで煙草を一服するような仕草を取ってから、ウェインは口を開く。


「言わなきゃ駄目か」

「言わされたくないのなら」

「流石に懲りた、わかった。答えてやるよ」

「賢い選択だ」


 口元は笑って言うものの、目は完全にウェインを捉えて逃がさない。ウェインは軽く肩を竦めて、表情を真剣なものに変えた。


「サルヴァトーレに話をつけに行く」

「まさか、ウェイン一人で?」

「ああ。アイツとは面識があるだろ、お前も」


 ウェインの言うとおり、レディはサルヴァトーレのトップに面識がある。簡単な依頼を受けた程度だが、その時に見せた笑顔がとても不気味だったことが、酷く印象に残っていた。

 思い返せばウェインを気に入ったのか、その後も連絡を入れていたのを覚えている。


「危険だ」


 理性と本能、両方が鳴らす警鐘を、レディはそのまま言葉にして伝えた。

 予期していた答えに、ウェインは用意していた笑顔を持って答える。


「大丈夫だ、奴のことは知っている。気に入った客人ならすんなり通す主義らしいしな」

「そんなの相手の気が変わればそれで終わりじゃないか。なんで、そんな危ないことをする必要が」


 言いながら、レディがハッと言葉を止める。そうして、不安や疑いが混ざり合った目でウェインを見た。


「まさか、向こうと繋がってるのか」


 出会った頃の、全てを敵と見なしているような双眸を再び向けられ、ウェインは狼狽えかける。だが声が口から出てくる頃には、表情は力強い物に戻っていた。


「そんな訳ないだろ。信じろ」

「信じろって言ったって」

「わかった、全部話すから、聞け」


 レディにしては珍しい不安を全面に出した言葉を、ウェインは抑え込む。返事を待つレディの様子は、アメリアと似通って見えた。


「おかしいとは思わないか。わざわざ爆破して生き埋めなんて方法を使うなんて」

「どういうことだ?」


「普通に考えてアメリアが巻き込まれるだろ。向こうがアメリアを取り返そうと考えているなら、有り得ない方法だ。

 仮にアメリアの生死はどうでも良いとしたら、それはそれで生き埋めはおかしい。確実性がないからだ。俺達が生き残る可能性は無視できない。

 死体を確認しようにも、わざわざ命を賭けて探しに来なきゃならねぇ。おかしいんだよ、色々とな」


「だからって殴り込みにいくのは違うだろ?」


 違う、話をしにいくんだ。と律儀に突っ込んでから、ウェインは説明を続ける。


「その合理的じゃない判断をする理由があるとすれば、主に2つ。相手が完全に遊んでるか、或いはこの問題自体が下っ端の暴走か、だ」

「遊んでるは論外として、下っ端の暴走ってのはどういう事?」

「そのまんまの意味だ。サルヴァトーレは大きな組織だからな、末端が勝手なことをするのは有り得る。今回がそうだったらとしたら、この爆破にも合点がいくしな」

「……なるほど。証拠隠滅か」

「そういうことだ。崩落程度なら故意じゃない理由なんて幾らでも見つかるしな」


 ウェインの言葉に、レディが疑惑の目を解いて、考え込む。


「こっちをおちょくってるにしても、末端の暴走にしても、上と直接話せば解決すると」

「そうだ」

「少し強引だけど合点はいった。けどサルヴァトーレには私も一緒に行く」

「駄目だ。警戒される」

「それを言ったらウェインだって警戒されるだろう」

「俺はたいして強くないからな。それに、レディには別に動いて貰わなきゃならねぇ事がある」

「ウェインとは別で?」


 どうにも心配性なレディに頭を掻いてから、ウェインは語りかけるように喋る。


「俺がここを出れば、向こうに俺達が生きてると気付かれる。だからもう一つのアジト、廃鉄場近くの倉庫に移動して欲しい」

「ああ、そっちに注意を引き付けてる間にウェインが移動するんだね」

「どちらかと言えば俺が囮なんだがな。まぁそういうことだ。裏口にはおやっさんの装甲車があるだろ。それで派手にやってくれ」

「よし、わかったよ。長いこと引き止めて悪かったね。ウェインは寝てくれ」


 ホッとした表情で笑った後、レディはウェインから離れて行く。緊張が解けたウェインはふぅ、と息を吐いて首を回した。

 通路の途中で、レディはもう一度ウェインに向き直る。


「ウェイン、ごめん。信じてるからね」

「なんだよそれ。気にすんな」


 ちぐはぐなレディの言葉を、ウェインは軽く笑って受け止めた。

 タイトルは大体勢いで決めてます

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