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ハードラック・ブラックアウト  作者: 魚之眼 ムニエル
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深夜、来客

「ウェイン! 起きてるか! ウェイン!」


 焦りを隠さないレディの声が、ウェインの目を覚ました。真っ暗な部屋の中で、硬いベッドから身を起こす。


「今起きた。どうした?」

「車が何台か近くを通った。何かある」


 レディの言葉に眉を潜めて、ウェインは自分の左手を軽く弄った。機械義手(メカニカルアーム)の装甲が小さく割れ、中から青く光る液晶が現れる。表示された文字が夜の3時を示した。

 こんな時間に、か。

 アジトが歓楽街の地下にあるといっても、この時間まで開いている店は存在しない。まして外に街灯なんて物は無く、今は月の浮かぶ空以外、静寂と闇の世界だ。

 何かを運ぶにしても闇夜では常に略奪のリスクが付きまとう。それでも尚、車という目立つ移動手段を使うのは、余程自分達の力に自信がある者達だけだろう。


「サルヴァトーレだな」

「だろうね。つけられてた訳じゃ無いと思うんだけど、バレたかな」

「わからないが、知ってなければここまで来ないだろう。上手く泳がされたかもしれねぇ」


 苦い顔で答えながら、ウェインは素早く準備を進めていく。枕元に置いていたハンドガンを手に取り、マガジンを確認してから腰のホルスターに挿した。


「レディ、アメリアとオッサンは?」

「アメリアは一番奥の部屋で寝てる。オッサンは見てないけど、流石に下に戻ってると思うよ」

「そうか。無線を繋げておく、大部屋で待機しといてくれ」

「ウェインは?」

「アメリアとオッサンを起こしてくる。オッサンも無線使えるからな、別の部屋で待機して貰う」


 淡々と答えるウェインをまじまじと見てから、レディはわかった、と優しげに答えた。


「何かあったら伝える。私も準備してくるよ」

「ああ」


 流し目を送って、レディは部屋を出た。それを横目で軽く見てから、ウェインはテーブルの上にあるリボルバーに手を伸ばす。長いシリンダーが特徴的な、マルチショットと呼ばれる種類のものだ。拳銃にしては大型で、トリガーガードが大きく欠けている。

 撃鉄の中央には、安全装置をかけるための鍵穴がある。


「頼むぜ……」


 祈るように、ウェインはリボルバーのサイトを額につける。その姿勢で数秒固まってから、脇の下のホルスターに入れた。

 軽く動いて落ちないことを確認した後、ウェインはアメリアの部屋に向かって歩き出す。程なくして辿り着いた部屋は、微かな明かりが灯っていた。

 部屋の前で腕を上げてから、ウェインは逡巡して一度腕を下ろしかける。

 その腕が完全に落ちてしまう前に、勢い任せに2回ドアを叩いた。


「入るぞ」


 反応は無く、ともすれば意味の無い断りを入れてから、ウェインはドアを引く。常夜灯の点いた薄暗い部屋のベッドで、アメリアは小さく寝息を立てていた。

 一度、安堵するように息を吐いたウェインは、首を振ってから壁のスイッチを押す。いきなり瞼を貫く光量が増えて、アメリアが寝心地悪そうに唸った。


「おい。起きろ」


 控え目に肩を揺するが、相変わらず唸るだけで起きる気配はない。ウェインは面倒くさそうに頭を掻いてから、雑なため息を漏らした。

 その苛立ちをぶつけるように、アメリアの肩を掴んで、上体を引っ張り起こす。

 それでもまだ夢の中に要るらしく、全く力の入らない体を、ウェインは前後に揺らした。


「んあ、わっ、わっ」

「起きたか」


 状況が全く理解できないというように目をしばたかせるアメリアから、ウェインは両手を離す。

 緩慢な動作でウェインの方を見てから、アメリアは慌ててベッドの毛布をたぐり寄せた。

 服を着ていない訳では無いが、寝姿を見られることが恥ずかしいことに変わりは無い。


「どどどうして貴方がここにいるの!?」

「非常事態だ。落ち着いて聞け」

「落ち着いて!? 貴方今何してるか」

「落ち着け!」


 言葉を叩きつけられて、アメリアが反射的に背を伸ばす。怯えるような長い硬直があって、震えと共に脱力した。


「ごめんなさい。何かあったのね?」

「ああ。すぐに動ける準備はできてるか」

「大丈夫よ。私はどうすればいいの?」

「何もしなくて良い。待っとけ。後でスミスのおやっさんがここに来る」


 そう、と少し拍子抜けの様子でアメリアは答える。最低限伝えるだけのことを伝えたウェインは、じゃあな、と言い残して振り返る。

 その後ろ姿を、アメリアは何かを言おうとして呼び止めかけた。だが思ったように言葉は出ずに、ウェインの姿は暗い通路に消えていく。


◇◆◇


「長かったじゃないか、ウェイン」

「そうでもねぇだろ」

「おっさんとアメリアは大丈夫?」

「ああ。無線も繋いである。聞こえてるか? おやっさん」


 ウェインが通信機のスイッチを押して問うと、すぐに無愛想な答えが返ってくきた。レディにも聞こえたらしく、軽い目配せを交わす。

 コンクリートに囲まれた大部屋は、何も見えないほどに真っ暗だ。点けようと思えば明かりは点くが、外に直接繋がっているこの場所を目立たせるほど馬鹿では無い。

 一歩一歩確かめるように足を進めて、ウェインは柱の陰に移動した。


「何か相手の動きに変化でもあったか?」

「特にはない。ただここの近くで車の音が止まったから、まぁそういうことだろうね」

「チッ、全くなんでここがバレたんだかな」

「さぁね」


 ウェインの悪態を受け流して、レディは両手に握ったハンドガンのスライドを足にぶつけるようにして引いた。片方を腰の後ろに挿す。


「敵さんがこのまま突入してきたとして、どうするの?」

「ここで迎え撃つ。俺達が時間を稼いでる間に、おやっさんとアメリアは裏口から逃げる。それを確認したら俺達も移動だ」

「ダブルでドライブデートか。良いじゃないか」

「その行き先が、地獄じゃないことを祈るぜ」


 ウェインの冗談を鼻で笑って、レディは部屋の中央にあるテーブルを蹴り倒す。大きな音と共に埃が舞った。


「おい、あまり大きな音は立てるなよ」

「良いだろ、今更。もう場所は割れてるみたいだし」

「もう少し緊張感を持って欲しいんだけどな」

「そういうのは犬に食わせるもんだよ」


 軽口混じりのやり取りは、押し潰されるようにして自然と消える。会話の途切れを感じるほどの間があって、ウェインはまた、口を開いた。


「『奥の手』使うのか」

「まぁ相手の人数によるけど、使うかもね。気になる?」

「そりゃあな。体の負担は無視できないだろ」

「心配してくれるなんて嬉しいじゃないか。その分をウェインが倒してくれたら、私の負担は減るかもね」

「俺は不可能な依頼は受けないぞ」

「ウェインなら何とかしてくれるさ」


 返事の代わりに、ウェインは大きなため息を返す。横目で部屋の入り口を睨むが、敵が来る気配は一向に無い。ふざけた会話で気を紛らわせているが、それも尽きそうだった。

 静寂の(とばり)が降りる。

 それを破ったのは、1つの大きな足音だった。


「何だ?」

「おい、迂闊だぞ。レディ」


 聞こえてきたのは上階。高い屋根から響いてくる硬い足音に、レディは立ち上がって上を見上げる。


「迂闊って言ったって、上はおっさんの店だろ? こんな時間に何の用だ?」

「わからん。音、拾えるか?」

「もうやってる。3人……いやもっとだ。多分4、5人位だね」


 レディとは対照的に、ウェインは柱にもたれるように座り込んで目を瞑った。


「近くを通った車は何台だった? 大体でいい」

「詳しくはわからない。少なくて3、多くて6かそれ以上」

「オーケー」


 上に居る人数は多くて5人。だがそれにしては車の台数が多い。わざわざ人を分けて目立つような事をする必要はなんだ。

 そこにある違和感の正体を探るために、ウェインは静かに瞑目して考える。

 また部屋から音がなくなろうとしたその時、通路へ続く扉が耳障りな音を立てて、開いた。

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