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レベッカ  作者: 橘晴紀
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羅音の能力

 しばらく部屋に留まっていたオレだが、怒鳴り合う声がしたので羅音たちがいる和室へと向かうと、最初に見た和気あいあいとした光景とは真逆で、そこは淀んだ空気に包まれていた。一触即発の雰囲気でオレが開けたリビングの扉の音にも気付かないほど。

 ほんのちょっと前まで心配した忍が、羅音の部屋まで来たはずなのに今は、ふたりとも俯いて何かを堪えている。

 その横で花梨が交互に二人を見て落ち着かない表情をしている。しばらくの沈黙の後、忍が言い放った。

「そうやって羅音はいつも分かったような事を言うのよ!全然変わってないじゃない!高校の時から・・・正直に言いなさいよ!いまでも祥司の事が忘れられないって!」

「バカなこと言わないで!祥司くんは忍の彼氏でしょ。なんで私が?」

「自分はカレと別れて、私たちも別れさせて、祥司とくっ付こうと思ってるんでしょ?羅音がその話をしたの、何回目だと思ってるの?そら私たちケンカばっかりだけど…早く別れて欲しいんでしょ?私たちに…」

「違うよ!そうじゃなくて、忍がいつまでもそうだからケンカばかりで、その内取り返しのつかないことになるかもしれないって話をしてるの」

「いいよ、そんなの!どう考えても度が過ぎてるよ!羅音の言ってることは…いくら親友でもおかしいよ!それはアンタの願望でしょ?もういい加減にして!」

「だから、私は・・・」

 羅音がか細い声で続きを言おうとする前に、忍は外に出て、心配した花梨が後を追った。ひとり部屋に残された、いや厳密にはオレとふたりだが、羅音は俯いたままである。

 オレが聞いたのは途中からだがどうやら、忍が言うには羅音がカレと別れた理由は、忍の彼のことが昔から好きで忘れられないのが原因のようだ。そして、忍は羅音が彼女の彼が好きで付き合いたいと思っているようだ。

 羅音は高校時代から忍に、何回も将来の事で警告をしていた。なぜ羅音はそんな事をずっとしていたのか。

 それは親友の行く末を心配して言っていたのか、はたまたただのお節介か。それとも忍の言う通りなのか。

 さっき羅音が部屋の電話で話していた内容からすると、そんな風には思えない。羅音の涙が畳にこぼれ落ちて、彼女の悲しみがオレにも痛いほど分かった。

 すぐ後ろにいるのだが、オレは声をかけることもできず、ただ気配を消してリビングのイスに腰掛けた。

 しばらくして、花梨が戻ってきて羅音の隣に座り言った。

「忍、頭冷やして来るって!大丈夫だよ。いつものことじゃない。今日はちょっと虫の居所が悪かったのよ。笑って帰ってくるよ」

「ううん。今回そうはいかないかも」

「どうして?」

「私がカレと別れたから…」

「えっ、まさか羅音本当に忍が言っていたのが別れた理由なの?」

「違うよ!でも少なくても忍はそう思っている。それは私のせいなの」

 その言葉の意味を何度も聞いた花梨だが、羅音は首を横に振るばかりで答えなかった。

「忍もよく言うよね?最初に祥司くんと仲良くなったのは羅音なのに、横取りしちゃって…」

「バカねぇ花梨。そんなの関係ないよ!しかも高校時代の話じゃない。順番なんかどうでもいいよ。ちゃんとハッキリしない私がダメで、忍は何にも悪くない。むしろ自分に正直で当たり前のことをしただけ」

「そんなものなのかなぁ。でも羅音には悪いけど、これで私たち独りモン同士だね。あ~あ、早く彼氏できないかなぁ」

 そう言うと花梨はニコニコ笑った。すると、羅音が突然右手で花梨の左手を掴み、自分の左手を出し握手をするように握り目を閉じた。向かい合わせに座って目を閉じている羅音と、彼女をジっと見つめている花梨。

 しばらくして目を開けた羅音が言った。

「大丈夫だよ、花梨。もうじきイイ人に出会うよ。たぶん、その彼と結婚するよ」

「ほんと?」

 花梨の問いに羅音は口を真一文字にして頷いた。何なんだ、この小芝居のような流れは。まるで占い師か霊能者みたいに振る舞う羅音とそれにあまり驚かない花梨。

「羅音が左手で握ったら、大体言ってること当たるもんね。これは期待できる」

 花梨のその言葉でオレはふと思った。羅音には手を握ると先が見えるとでもいうのか。そうじゃなくても、目の前の花梨はひと際美しく、それにこれから華やかな世界に身を置くという。誰でもそう考えるだろう。

 そう思いながらオレは花梨の顔を見ていると思い出した。

「あっ!」

 思わず大きい声が出ると羅音はオレのほうを振り向き、聞こえない花梨は不思議に思い羅音に聞いた。

「どうかしたの?」

「ううん」

オレは羅音に謝るポーズをした。

「末松花梨」その名前に聞き覚えがあったがやっと思い出した。花梨は羅音の言う通り、レースクイーンで活躍したあと、イギリス出身のF1ドライバーと結婚した。

 一九八九年に二十代前半ということは、その年にオレが大学生だったから少し年上で、元々オレがいた二〇〇〇年では三十代半ば。たまにテレビで見ていたレーサーの旦那と一緒に映る花梨に間違いない。そうなると羅音が言っていたことは本当になる。というより羅音には見えていた。

 そう彼女は〔未来予知〕ができるのだ。それで全て辻褄が合う。オレを見ても驚かなかったことや、オレが来ることも知っていたからだ。そうだとすると疑問も多少ある。

 いくら先が見通せるからといっても、なぜ羅音だけにオレが見えるのか。

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