理解
オレは心からそう思った。もう目の前の娘、怜亜をニセモノと思うこともない。この子はツライ時に共に支えあったれっきとしたオレの娘だ。レベッカたる亜衣の世界で体験したことは嘘偽りでもなく、本当の出来事でその中の世界でオレは彼女たちと生きていた。
そして、いま成田空港の駐車場で車の中にいるオレと怜亜、これも本当の世界でちゃんと生きている。だが、達也と怜亜の世界では生きていけない。
結局どちらが現実でどちらが幻想なのか、それはあまり意味を持たない。
「なぁ怜亜。パパはキミたち家族にとんでもないことをしたんじゃないのか?」
「どうして?」
「亜衣を妻にして達也から取った」
「いいえ、それはパパの世界の話。私たちの世界では知らないこと。ただ、まれにその想いが強い時は他世界に影響を及ぼすこともあるらしい。まだ研究段階だから何とも言えないけど…」
オレにはわかった。
「いや、影響はあると思うよ。ひょっとして亜衣が亡くなったのはオレのせいじゃないか?オレが彼女を引っ張った…と思う」
「確かにママがあの場所で亡くなった時、皆そう言っていた。だけど、達也パパだけはそれを否定した。パパはそんなことをしないってことをずっと言っている。いまも…」
「ヤツらしいな!何も知らないからだよ」
「いいえ!達也パパは知っていたわよ」
「ま、まさか…何の事だか分かっているのか?」
「ええ。達也パパがママと付き合っていた頃からパパがママのことが好きだってことを…。いつも達也パパ、酔った時に言っていたもん。なぜか嬉しそうに…」
そうか、知っていたか。これも達也らしい。アイツはいつも肝心なことは胸にしまって言わない。それを知らないヤツは達也をバカな男と言っていたが、その実、達也は観察力や洞察力が優れていて勘のいい男だった。
おそらく怜亜に父親のそういうところが受け継
がれたのだろう。思えばそうだ。そんな男とオレのような平凡な男を比べた時にどちらの運が強い
のか。しかし、あの時見た光景は確かに達也だったはず…。いや、待てよ。アル子の挑発に乗り、彼女のあとを追ったのはオレの方が先だった。
アル子が去っていき達也よりオレの方が先に行
っていたと、思い込んでいた。あのカーブの手前、オレは達也に抜かれていた。そうだ、あの時点から勘違いが始まった。余りにも達也に勝ちたいという思いから、後から来ていたのが達也で事故を起こしたのもヤツだと思い込んでいた。
そうあの日あの岬で死んだのはオレだった。それからオレは普通に生きてきたと思いこんでいた。
そして、いつまでも死に追いやった達也に自責の念を抱いて日々を送ってきた。そればかりか、親友の彼女に邪まな感情を持って、自分の世界をいいことに彼女を妻にまでして結局別れるといった結末までいった。
ひょっとして、亜衣はアル子としてオレの事故死は自分が原因だと思って、ずっと負い目があったのではないか。それが引いては亜衣自身の寿命を縮めたのかもしれない。そんな気がしてならない。
悪いのは全てオレの方だ。亜衣がレベッカとなって時を操ったように、もしオレにそのような能力があるなら全ての時計を戻したい。
亜衣はそんなオレの事を思って、彼女なりの旅という方法で夢を見させてくれた。知らなかったのはオレだけで達也も亜衣も怜亜もみんな解っていたのだろう。
亜衣は懐かしさと本当のオレが何者であるかというのを気づかせるため、怜亜はその総仕上げをしてオレを導くために、ここまでしてくれたのだ。
そして、それを待つ達也。知らずとはいえ随分、彼らには苦労をかけた。これからは幸せになってほしい。
いまオレは自分が何者か解った。それは成仏すると
いうこと。
それが他の者にとって何より望むところである。
「怜亜。オレはこれからどうなんるんだ?」
「やっと理解したのね?パパ」
「ああ…」
「これから迎えが来るわ。そしてパパは旅立つの。でも、心配しないで!あとで私たちも行くから」
「えっ?そうなのか?いつ?」
「う~ん。そこが難しいの。パパも体験したから解るんじゃない?時間や時代はあまり意味を持たない。ここで何年何十年後でもそちらでは数日ってこともあるから…。パパが達也パパの前からいなくなって、今年で三十一年になるけど、それは達也パパの時間。どう?パパからしたら?」
「そうだな…一九八五年から二〇〇〇年はさっき聞いたところだが何とも言えないけど、この十六年も亜衣と旅したのも一晩のことだからな…。そうだ!思い出した。どうして二〇一六年なんだ?」
「そうよね、言ってなかったね。それは、二〇一六年にこのシステムが完成したから。そして今は成田空港の駐車場にいるけど、実際私はストックホルムの研究室にいるのよ」
「え~!そうなのか?なぜここに?」
「最後の仕上げは物理的に一番近い空港を選んだの。その方が成功する確率がより高くなるから」
「じゃあ、達也もそっちにいるのか?」
「いいえ。しばらくはストックホルムで一緒に暮らしていたけど、ママが出張中に日本で亡くなって、それからパパは私が高校に入ると、安心したのか日本に帰国した。それで今は日本でレースチームを任されているわ」
「そうかぁ!それは何よりだ」
「それでね、パパ。最後に伝えたいことがあるの。達也パパに会いたいでしょ?」
「会えるのか?」
オレはもう逸る気持ちでいっぱいだった。
「パパやママが私たちと違うのは思えば瞬時にどこへでもどこの時代へも飛べること。それはママがやったように…。達也パパのように普通に暮らしている人にはもちろん、少し霊感があり訓練した私でも、パパたちの声や姿を見るのにある程度の手順を踏まなきゃいけないのに、パパたちは一瞬だよ!」




