回想
「パパ。少し混乱するかもわからないけど、ゆっくり説明するからちゃんと聞いてね」
「わかった。頼むよ!」
「まず、ママは二000年の夏に事故で亡くなったの」
「えっ?怜亜には内緒にしていたがオマエを実家に預けたあと、パパはママに会うためにマレーシアに行ったんだろう?」
「そうなのよねぇ?パパの記憶にそこまではちゃんと残っているからややこしいのよね?ゴメンね!先に私の頭を整理するわ」
そう言って怜亜は窓の外を眺めた。なんだと、亜衣が二〇〇〇年に亡くなったと。わからない。
どう考えても信じられない。ちょうどその頃、停まったままの渋滞の列が徐々に動き始めた。
しかし、数m動けば停まる、また動けば停まるといった感じに歩くよりも遅い速度で車は進む。
それでも傷ついたバスを追い越す所までは来た。
「あのね、パパ。墓地で出会った子、もちろん知っているよね?」
「ああ。レベッカだ。そんな事まで知っているのか?」
「ええ。パパが何度かトラベルをして、その都度ちゃんと戻ってきたよね?その時、直前にパパが体験したことをレベッカに話して、その後ある程度その体験した物語の結末を知ることができたでしょ?」
「ああ、そうだな」
思い起こせば、最初、羅音の場合は忍と花梨という親友の話だったが、紆余曲折がありながらも彼女たちは未来に向かっていた。未来を予知する羅音はその能力を使い、友情まで壊れかけた。
でも、それも乗りこえた。次の雪希は人の心が読めるという能力ゆえに、極力人を避け暮らしていた。
自分の親にさえ距離をおいて話さなければいけないほど。しかし彼女は両親の愛情をたくさん受け、唯一の理解者であるカレが待つ大阪に旅だった。
次の留美はオレが出会った中で最も不憫な女性であった。幼馴染四人の旅行で子供時代を懐かしんでいた彼女たちは輝いていた。
留美は憑依体質という超能力とは違い、自らが他人の中に入るといった、当人同士も確認しづらい能力を幼馴染に使ってしまいその上、彼女の夫を愛するといった、縺れた関係にまで発展し、最後には自分を傷つけるといったところまで追い込んでしまった。
さらに次の瞳はオレが出会った中で最も感情移入をしてしまった女性であった。愛する男性を失くし、そのカレがオレに似ていたという理由もさることながら、旅の疲れから一緒にデートにも似たことをして、おいしい料理と酒に酔い、一晩を過ごした。
仲の良かった隣人の死に直面し、また彼女の思い出が増えた。オレと同じタイムトラベルという能力を利用して、彼女に元の世界へ戻してもらったが上手くいかず、結局同日の違う場所に飛ばされた。
そこで出会った小夜はテレポーターという能力者で、それを先輩に悪用され扱き使われていた。それは病気の母を守るためでもあったが、小夜は一度としてその能力を自分のために使ったことはなかった。
さらに心に思った人さえも忘れなければならず、強制されたあとは見知らぬ土地に移転させられるという、より強固な不自由を強いられた。
そして最後、ノンコの時は留美の世界と同時進行していて、残念ながら留美の世界は完全に拒絶されて接触が出来ず、留美たちの悲劇を知っていても、それを止めることができなかった。しかし、結末は変更されていて最悪な出来事だけは避けられた。
ノンコはオレが出会った中で唯一、彼女の能力が人の役に立つのを確認できた。その上、ただの同級生だったノンコたち四人が友達になっていく様を見られたのもよかった。ハンドルを握るオレはアクセルとブレーキを踏む間ごとに、出会った女性たちを振り返った。
物思いに耽る心を怜亜が破った。
「ここでパパに質問!六人の女の子たちに共通点は?」
「能力者!」
「それ以外に気づいたことは?」
「う~ん。そうだな?彼女たちは能力を使う時、いずれも左手を使っていた」
「そうだね。それは大事なポイント。これは覚えておいてね。ほかは?例えば女の子たちの容姿とかは?」
「そうだな~。羅音はバンドのヴォーカルをしていたほどだから、パワフルでキャリアウーマンって感じ。雪希は文字通りお嬢様の立ち居振る舞いで物腰も柔らかく雪国の温かい女性。留美はスタイルのいい、不思議オーラが出ていてミステリアスな女性。瞳はロングヘアーで優しい教養のある美人。小夜は活発な感じではあるが時折、気弱な面が出て年齢よりは幼く見えた。最後のノンコはザ・女子高生って感じで、優しく面倒見のいい、いわゆる委員長タイプの子。皆、タイプも年齢職業、育った環境、住んでいる地域や時代も違う
のに、どことなく似ていて、どの子もすぐに仲良くなれた」
「その中でもパパのお気に入りはどの子だった?私の予想では瞳かな?」
ズバリ的を射た怜亜に父親という威厳と男のプライドを見せるべくオレは言い放った。
「僕にとって出会った女性たちは皆同じ。瞳には同情からそういう風な感情を持ったのも確かだ。でも、今思えば彼女たちは何か同じ共通点を持っているような気がする」
そう言い終わったあと、オレはふと思った。
レベッカはどこに行ったのか。なぜ怜亜と入れ替ったのか。それにこの回想とも取れる流れは、これで終了という合図なのか。一番の謎は怜亜の正体。
次に何故二〇一六年なのかということ。
「どうして怜亜はそんなに詳しいんだ?」
「そうねぇ、それはもう少しあとに話すわ。女の子たちの周りにいた監視者はわかった?」
「パーン。そうだ!怜亜はパーンなのか?」
「いいえ、違う。どの子に誰がついていたかわかる?」
「え~っと、分かっているのは小夜の時の蒼井だけかな?あとは分からないなぁ!」
「そうだね。羅音のパーンはタクシーの運転手」
「オレたちが乗ったあのタクシーの運転手か?ひょっとして羅音はそれに気づいてタクシーを降りたのか?」
「いや、それはないわ。パーンが自ら正体を明かさない限り、いくら能力者といえども彼らがパーンだとは見抜けない。次に雪希のパーンは彼女の家のお手伝いさん」
「そうだな、それはなんとなくわかる。しかも、あのお手伝いさんはそれっぽい」
オレの薄ら笑いに怜亜もつられた。
「パパ、留美のパーンは誰だかわかる?」
パーンは力と他に対しての影響などを考慮してレベルがあり、それで身近な者から通りすがりの者まで様々な者がいるという。留美の場合は人に乗り移るという極めて危険な力だから、常に身近にいる人物と思われる。
幼馴染四人のうち最も身近な葉月。しかし、彼女がパーンなら余りにも能力者たる留美の懐に飛び込
み過ぎの感がある。
「疑問は残るが葉月しかいない」
「ブ~!残念!」
やけに腹が立つ言い方だ。
「実は留美のパーンは留美自身なのよ」
「え~~~!どうして?それじゃあ、能力を使って自分で監視、抑制、制止する?そんなの矛盾するじゃないか!」
「う~ん、どっちかというと、一人二役。つまり、同じ人間だけど役割を完全に分けているの。わかり易く言えば、ジギルとハイドの関係。彼女の場合はレベルでいうと5を超えた規定外。通称VIPと呼ばれている。だから特例措置でこういったかたちを取る。二十四時間三六五日張り付くにはいくら身近だといえども限界がある。
だからVIPには能力者とパーンが同一存在する」
「留美が自らを傷つけたのは自分自身がパーンだからか?」
「そうね。止められるのは留美自身だけだから、そうするしかなかったんじゃないかな?ケリもつけたかったんでしょう」
「留美はパーンの訓練も受けたということか?」
「そうなるわね」
「えっ!怜亜は知らないのか?」
「うん。まだ私レベルでは勉強不足でそこまでは知らないの」
あの時、蒼井が言っていた意味とは違うが、怜亜は何か知っている。蒼井は知っていてオレの事は語れないと言っていた。でも、怜亜は知らないから語れない。
パーンじゃないとすると一体怜亜は何者なのか。
「じゃあ次にパパの大好きな瞳ちゃんは?」
怜亜の顔は完全にオレをバカにしている。
ムっとしながらオレは言った。
「彼女の時はそれほど人に会わなかったからなぁ?隣人の蝶子は亡くなったし…」
「それは瞳ちゃんしか目に入らなかったからじゃない?」
「バ、バカ言うな!」
「冷静に考えて!パ~パ」
本当にむかつく。
「う~ん。強いて言えば、彼女のマンションの下にある喫茶店のマスターぐらいかな?」
「そう。正解!次の小夜は知っての通り蒼井。最後のノンコの場合はちょっと違って、蒼井真綿の母なの」
「え~、そうだったのか?そういうのもあるんだな?」
「うん。彼女の一家みんながパーンなのは聞いているよね?あと数年で候補生からパーンになる場合は、家族にパーンがいれば実習を兼ねて教育するの。だから、能力者に張り付かなくていい程度の者のパーンになって、若い子をサポートするわけ。正式なパーン、この場合は真綿の母がいない時は真綿自身がパーンとしてノンコも見守るというかたち」
なぜこれほど怜亜はパーンについて詳しいのか。違うならば何か秘密の組織のメンバーとか…。すると怜亜は笑いながら言った。
「どうしたの?ヘンな目で娘をみたりして」
「まさか怜亜は能力者か?いや、違う。能力者はパーンを知らないんだな?」
「そう!パーンという存在自体知らないよ。そうじゃないと監視することなんてできないよ。小夜の場合は特別だよ」
「そうだ。どうして蒼井は小夜に正体を明かして、無理強いをしたんだろう」
「それは彼が小夜を愛していたからだよ」
「え~!やっぱり、そうだったのか?」
「でも蒼井は間違いを犯した。彼は小夜がどういう存在なのか知っていて、あえてその道を選んだ」
「そうだよな。何ていっても能力者でそれを監視するヤツだもんなぁ!偉そうな事を言っても結局、金沢と同じじゃないか!」
得意げなオレは少しずつ解った気になっていた。
だが、次の怜亜の言葉でその気持ちはひっくり繰り返された。
「違うの!パパ。蒼井はそこまでバカじゃないよ。そうじゃなくて、いくら愛してもどうにもならない相手だからだよ」
その言葉自体、理解できるが意味が全くわからない。怜亜の顔が真剣なものに変わった。




