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レベッカ  作者: 橘晴紀
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第七章

 むせ返って起きたオレは前方に並ぶ渋滞の列を目にして安心した。ところが車内の様子がおかしい。

 レベッカが寝ているはずの左側がすぐドアになっている。そう、国産車だったオレの車が左ハンドルの外国車になっている。また他の所に飛ばされたのか。

 しかしおかしいのは車だけで、ノンコの世界に行くまでと同じ状況である。路肩には傷のついた観光バスが停まっているし、前方二台の車も同じだ。

 変わっているのは車だけなのか。右側に換わった助手席には相変わらず寝息を立てるレベッカがいる。

 いや、よく見ると違う。こちらに背を向けて寝ているのは、レベッカと髪型も服装も違う。

 オレは恐る恐る体を揺らした。

「う~ん。もう動いた?」

 そう言って起き上がった女性を見てオレは言った。

「誰だ!キミは?」

「えっ?何言ってるの?」

 明らかにレベッカと違い、年齢は彼女より少し上のようだ。暗がりだけど、見間違えるはずはない。

 そうか。今回は戻ってきたように見えて、よく似た状況のシチュエーションの中、また違う世界にやって来たのか。いつまで続くのだ。

 半ばあきらめて、よく顔が見えるようにと、ルームライトを付けた。

「あっ!」

 顔をみた瞬間オレは、それ以上声も出ないほど驚いた。目を擦る女性は見覚えのある人にそっくりであった。懐かしさと驚きが頭の中を駆け巡った。

 そして、一気に目が覚めた。

「どうして?どうして、亜衣がここに…。いや、違う。似ているが亜衣じゃない」

 目の前の女性は別れた妻、亜衣にそっくりな人だ。

「もう!何言ってるの?…そうか、あっちに行ってたんだね?おかえり!」

「えっ?何が?」

 どうも、目の前の女性はオレを知っているようだ。

 それとも誰かと勘違いしているのか。いや、この状況でそれはないだろう。いずれにしても、今回の協力者とは話が省けて、すんなり理解してもらえるだろう。

「ねぇ、パパ。あとどれくらい掛かるのかなぁ?事故処理」

「はっ?いま何て言った?」

「だから~、あとどれくらい…」

「違う!その前!」

「えっ?何?」

「その~、パパとか何とか…」

「だって、パパじゃん!おかしい?」

「パパって、どうして僕がキミの父親なんだ?僕の娘はまだ五歳で、ほかに娘なんていないよ!」

「それ、本気で言ってるの?それとも、まだそこまで行ってないの?」

どうも、目の前の女性が言っている意味が分からない。

「そこまで行ってないとはどういう事だ?」

「そうか。どうやら嘘じゃないようね。忘れているとか、わざとじゃなく、まして私を騙そうなんてするわけないよね?パパが…」

 全然要領を得ないオレに娘を語る彼女は丁寧に教えてくれた。しかし、その内容は驚愕のものだった。

「要するにキミは僕の娘、怜亜で今は二〇一六年ってことだな?」

「そう!」

「そんなもん信じられるか!」

「でも実際、パパは何度も奇妙な体験をしたわけでしょ?今だって、どこかから帰ってきてここにいるわけでしょ?他の時は信じて、どうして私の話は信用できないの?」

「いや~、その疑っているわけじゃないけど、もう頭がおかしくなりそうなんだ!ずっと過去ばっかり行って、今回は未来なんだろう?どうしてなんだ?」

「今のパパの状態を見ると、全部言うにはリスクが高すぎる。まだ渋滞も解けてないから、ゆっくり話すことにするね」

 まだ納得したわけではないが、彼女を見た第一印象は確かに妻、亜衣によく似ている。それはオレが亜衣と再会した大学生の時とほぼ同年齢で、あの時の亜衣にそっくりである。彼女がオレに嘘つく必要はない。

 彼女が言う通り今が二〇一六年ということは、元の世界より十六年後ということだ。

 前方に停まるバスも二台の乗用車も間違いなくノンコの世界へ行く前と同じだ。しかし、いま乗っている車は見覚えがない。そう思って隣の車線の車を見ても、こちらの車種も知らない。同じく後ろを振り返って見てもそうだ。たまたま、バスと二台の車だけあの時と同じもので、その他は全く初めて見た車種である。

「あ~、そうそう、これを見て」

 そう言って彼女は後部座席から自分のカバンを取り、中から何かを出した。

「はい!」

 彼女に手渡された四角いカメラのようなものに見覚えのあるアクセサリーがついていた。

「これ…アレと似てるけど、ちょっと小さいな?」

 それは妻、亜衣につくってもらい、あの日怜亜と別れ際に渡したカエルのキーホルダーに似た人形がカメラに付けられていた。ただ、そっくりでもサイズが小さく、携帯電話などにつけるストラップになっていた。

 続け様にオレは尋ねた。

「このカメラ、MTTコドモって書いてあるけど…」

「ええ。スマートフォンだもん!携帯電話だよ」

「えっ!携帯?スマートフォン?」

 オレはまじまじとそれを確認した。なるほど未来では携帯電話はこのように進化しているのか。

「あの日パパから預かったキーホルダーはもうないの。だから、これは最後にママが作ってくれたもの。形見なの」

「ちょっと待て!形見って…亜衣は死んだっていうのか?」

「うん」

「いつ?」

「十六年前の夏」

「冗談はよせ!十六年前っていったら、まだオレたちは高校生だ。何をバカなことを言っている!」

 突拍子もない話だ。オレは信じかけていた娘を名乗る女性をまた疑い始めた。

「そうか。それも知らされていないのかぁ!そこから話さないとね…」

 それから彼女は自分が生れてからの話をしだした。

 オレの中にある娘が五歳までの頃についてはその通りであった。妻と別れて娘と二人暮らしを始め、海外出張の前日、娘を実家に預けた日まで、つまり今日の昼までの事は彼女の言う通りである。

 幼いながら娘は協力してくれて、頼りないオレと一緒に暮らしてきた。本当に娘じゃないと知り得ないことを語る限り、やはりこの女性は本当にオレの娘と思える。

 そうでなければ、何かの冗談か、それともいたずらである。再三そんな事を考えていたが自分が奇妙な旅をしたということは、これも間違いなく真実で彼女は嘘をついていない。ちゃんと聞く気になったオレを見計らって娘、怜亜は順を追って話だした。

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