表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベッカ  作者: 橘晴紀
56/63

事件の夜

 ノンコたちは夕食をとるため一旦宿に帰った。日が落ちて辺りは薄暗くなってきた。海から上って帰り支度の人々と、これから花火を楽しもうとする人々が入れ換わり、海岸は静かに、そして長い夜を迎える。

 オレの全神経は留美たちの泊まる旅館に注がれた。

 逸る気持ちと同じく一歩ずつ入り口に近づいた。それはあまりにも長く感じられ、まるで夏休みを心待ちにする子供のように。ようやく留美一行が花火とバケツを手にして姿を現した。見えないはずで砂浜にも関わらず、オレは忍び足で留美たちに近づいた。

 まず先に葉月と明日太。それから少し離れて留美とミラ。同じシチュエーションで会話も同じ。そう、あの時の再現だ。その時のオレの姿は見えない。

 そこでオレは立ち止まり、葉月ペアを見送って留美ペアを待った。留美は楽しそうに、翌日にあるミ

ラのライブ公演話をしている。これも全く同じ展開だ。

 オレは留美に声を掛けた。

「留美、留美。聞こえる?僕だ。友二だ!」

 ミラと夢中で話しているからではない。留美には聞こえないのだ。オレの心の叫びが。

 傷心して留美たちを見送ったオレは、全身の震えを押さえるのに必死であった。自分では武者震いと強がってみても、誰も聞いていないし、誰もいない。

 そして、花火は始まった。少し離れた場所でもノンコたちのキャンプファイヤーが始まったようだ。

 遠くで鳴る打ち上げ花火がオレの心を急かす。

 そして、言う。

「お前は何も出来ない!」

 周りを見渡してもそこには誰もいない。誰がいま言ったのか。考えても解らない。

 おそらくそれは、オレの内なる声だ。

 そう思うと居ても立ってもいられなくなり、オレは駆けだした。いや、正確には駆けだそうとした。

 いくらそう思っても体が動かない。立ったまま金縛りにあったように、その場から動けない。

 頭と目だけは冴えている。微かな花火の灯りと煙の香りだけがして、「その時」はゆっくり動きだした。

 活動的な灯りと煙は終わりを迎え、続いて幻想的で静かな灯りと煙に包まれる四人組み。

 ふた組に別れるのを合図にして「その時」はフィナーレを迎える。黒い影だけが動き、セリフは聞こえない。留美が走り出した。

 後を追った葉月が何か言って留美のペンダントに触れた。あの時と全く同じ展開である。

 まだオレの体は動かない。後ろを振り返っても誰かいるわけでもなく、当然誰にも制止されていない。

 ただ自発的に体が動かない。このまま何も出来ず、ただ見ているだけなのか。今まで通り一介の傍観者ということだ。それだからといって座り込むことも出来ず、ただ立ち尽くすだけ…。

 それでも「その時」は静かに進行している。

 留美が自分の胸につけているペンダントを放り投げた。それはあの時オレがそうしたからだ。

 すると、とても明るいキャンプファイヤーの炎辺りから一人の影が留美たちに近づいて、投げ捨てられたペンダントを拾った。

「ノンコ!」

 声だけは一人前に出るオレの、せめてもの叫びである。しばらくして、座り込んだ留美と葉月がふたりとも倒れた。そう、オレは何も出来ないまま「その時」は静かに終演を迎えた。

 そこでオレの意識はなくなった。

 気がつくと、静かな波音に明るいが、まだ弱い太陽の日差し。朝を迎えたのだ。

 何も出来ないまま、ただ見ていただけ…。

 そして、一晩眠っていただけ・・・。

オレはフラフラと何の当てもなく彷徨い歩いた。延々と続く海岸線を行く気はない。これからの道のりのようになっては困る。逆方向の松林に向かった。

 それほど歩いていないにも拘らず、疲労感がいっぱいでとてもこれ以上歩けない。緑の芝生に腰を下ろした。ちょうど前方を四人の少女が歩いているのが見えた。

 オレは声を振り絞って言った。

「ノンコ!」

 オレの声に振り返ったのはノンコ、真綿、そして、瑠奈。その時、理解した。ノンコのパーンは瑠奈であったことを…いや、それはない。パーンは成人してからしかなれないと、真綿の兄が言っていた。

 そうなると、瑠奈も真綿と同じ候補生ということか。

 もし、将来ノンコの側にいるのが、真綿と瑠奈なら彼女にとってこれほどの事はない。友達ならお互い安心だろう。ノンコは皆を残しひとりで来た。

「ユウ兄。どこにおったん?探したんよ。もう、心配したわ!約束してたのに…」

 ノンコを遮ってオレは被せた。

「留美は?留美はどうなった?」

「留美さん?何いいよるん?ユウ兄。ウチが知るわけないやん!」

「えっ?キャンプファイヤーの時、留美たちの所に行っただろ?」

「行っとらんよ」

「どうして?行ったじゃないか!二人の女性が倒れて、そのあと病院まで行って、留美に輸血したのはノンコだろ?」

 キョトンとした表情のノンコ。すると。

「それ、担任の先生やわ。ほやけど、病院なんか行ってなかったよ。暗がりやったけん、見えにくかったけど寝転がってただけやと思うけど…」

 どうも話の合点が合わない。

「どうして、そう思うんだ?」

「ほやかてその後、その内の一人が先生に頭下げて、ふたりともどっかに行ったけんねぇ」

「ほんとか?」

 オレはノンコに詰め寄った。

「ユウ兄、顔近い、近い!なんでウチが嘘いわないけんの?」

 それもそうだ。

「すまない!別に疑ってるわけじゃないんだ。この間、留美たちの世界に行った時と違うから…」

「そうやったん?それって、未来が変更になったんやないの?」

「そうかな?あ~、たぶん、その頭下げてた子が留美だと思うよ」

「え~、そうなん?知ってたら会いに行ったのに残念やわぁ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ