同級生
オレと真綿が直接話すことはできないから、ノンコに通訳というかたちで伝えよう。
「ノンコ。真綿にこう言ってくれ」
オレが真綿の兄と会ったこと、それと小夜の近況を聞いてもらうよう頼んだ。ノンコの話に真綿は時折オレを探している素振りを見せる。そして話が終わった。
真綿はノンコにオレのいる場所を聞いたあと言った。
「ひょっとして、ユウちゃん?そこにユウちゃんがおるん?」
「うん。蒼井さん、ユウ兄を知っとるん?」
興奮しながら真綿は畳み掛ける。
「いつも小夜ちゃんから聞いてたから、ユウちゃんのこと。え~、うそ~、こんなことってあるんや?」
そう言うと真綿は突然電池が切れたロボットのように静かになった。海水浴客の声もかき消され、波音だけになった。オレもノンコも彼女に付き合った。
すると真綿は目を閉じながら言った。
「ユウちゃん。何か話して」
顔を見合わせたオレとノンコ。ここは彼女の言う通りにするか。
「真綿。バスで僕が見えていた?」
「あ~!聞こえる。聞こえる」
また興奮気味に語る真綿にノンコが言った。
「蒼井さん、聞こえるんや?ユウ兄の声」
「うん。訓練の成果が出とる。さっきバスで見えんかったけど、誰かいるってのは感じとった。休憩の時も駐車場でそう思った。ほやけど、自信なくて黙っとったら、牧野さんが来てそうかなって思うようなったんよ。でもユウちゃんの姿はまだ見えん」
真綿はまだパーンの候補生だから仕方ない。
「じゃあ、これで真綿とも直接話せるな。小夜はどうしてる?」
オレが一番聞きたかったことだ。
「二か月前に東京に帰ったよ。規則で兄から詳しいことは教えてもらえなかったけど、無事ミッションが終了したって言うとった」
「そうか。よかった。愛媛にいる間、彼女はどうだった?」
「小夜ちゃんにはたくさん教えてもろた。東京のことや大学のこと、私が知らない兄のこと。でも一番多く聞いたのはユウちゃんのこと…」
そう言って真綿はニタっとした。
オレは恥ずかしさで目を反らした。
「なになに?蒼井さん。小夜ちゃんってどんな人なん?ユウ兄とどんな関係?」
「話せば長くなるけん簡単にね。小夜ちゃんはユウちゃんの五人目の女やって!」
「え~!ユウ兄って、出会った人とそんな関係になってたん?ほんなら、私もそうなんの?どうしよ~」
ノンコは真剣にそう思っているようだ。
「バカ言え!それは…小夜が勝手に言っていただけで、もちろん彼女も他の皆ともそんな関係じゃない!」
「ワッハッハッ~!」
ムキになるオレにノンコと真綿は一緒に声を上げて笑った。そして、真綿が言った。
「そう、そういうとこがユウちゃんはカワイイって小夜ちゃんがいつも言うとった」
すると今度はノンコが言った。
「な~んや!ユウ兄は誰にでも遊ばれるんやね?面白い半面、なんかちょっと妬けるわ。他の人にもそんなんやったん?」
ノンコはまた小悪魔の顔を覗かせた。
「いや~、その~…」
オレはこの場から逃げたかった。それを察してくれたのか、ふたりは少し距離を空けた。ふたりが話しているのでオレは物思いに耽った。何も言えず別れた小夜が元気でいたことがわかってよかった。
こんなカタチでも逢えたことには変わりない。
残るは今晩、あの事件だけだ。水辺に映るふたりの少女を一方は能力者、もう一方は監視者と誰が想像できるだろうか。いや、違う。
真綿はまだパーンではない。となると、ノンコについているパーンは誰なのか。まだ会っていないだけで必ず彼女の身近にいる。この話題を本人はもとより、真綿にも伏せておこう。そろそろ準備をしないといけないとのことでノンコと真綿は宿に向かった。
ひとり海に残ったオレは気になっている留美たちが泊まる旅館を見上げたが、それは何の足しにもならない。
ただあの時の思い出だけが残っている。そうはいうものの、時系列的には同時進行でまだこれから起こること。思い出も何もあったものではない。
それこそがこのトラベルの本質なのだろう。
時間が大きく畝って、そのときに体験したことや思考は普通の感覚でいう「思い出」とは違う。
ただ、脳に蓄積された記憶だけで、そこには時間など存在しない。海水浴を楽しむ人たちを除け、海岸線を歩きながら前方に広がる松林を見た。
近くに木を運ぶ若者たちがチラホラ出てきている。
そうだ、この光景はオレが一旦、留美たちと別れて一人でここにやってきた時と同じだ。ということは、あの時と同じように進行している。あと数時間後に起こるあの事件も。砂浜に寝転がって若者たちの働きぶりを見ている内にいつのまにか眠ってしまっていた。




