質問
無事にジュースを買い車に戻ったオレたちはお互い言葉がなかった。それはいつもクールではあるが、それなりに何かしゃべるレベッカが考え込んでいるからだ。
彼女なりにいま体験した出来事の辻褄を合せているのだろう。オレはエンジンを掛け出発の準備に入った。
「友二。あのね…」
そこまで言ってレベッカはまた考え込んだ。何かを伝えたいのだろうけど頭の中が整理できないらしい。
オレは車を出した。しばらく走るとトンネルが見えた。まさか、同じことにはならないと思いつつ、本日二度目のハンドル八の字握りになった。
長いドライバー歴で緊張することが一日に二回もあるなんて思わなかった。割と短い距離だったので考えている間に出口を迎えホっとした。
これで何とか東京まで無事に帰れそうだ。あとはレベッカを送り届けて、明日の準備をするだけだ。
そう思うとさっきの緊張はどこかに飛んでいき眠気も醒め、快調にドライブできる。
チラっと横を見ると、まだレベッカはためらっている。
オレに何かを伝えたいのか。
「友二。瞳っていう人と小夜っていう人、姉妹か何かなの?」
スピードが乗ってきて、もうそんな話も忘れかけた頃にレベッカは蒸し返した。
「いいや、関係ないよ。どうして?」
「ううん、なんとなく…ただ、何でその二人の時だけ繋がってたんだろうと思って」
「あ~、そうだな。でも、どうしてそれで姉妹だって思うんだ?」
「う~ん。実はね、アタシちょっとだけ鋭いんだ。なんていうか…感覚的に…」
「そうなのか。まだはっきりとは分からないけど、今まで話したことはリンクしているんだ。だから、どこかで繋がっていて、そう思えたんじゃないか?それよりやっとオレの話、信じる気になったのか?」
「信じるっていうよりも、さっきアタシだって見るって言ったじゃん」
そう言うとレベッカはまた考え込んだ。彼女も見えるといったのは夢のことだろうか。それともオレのような体験したことなのだろうか。
改めて聞くのは少し憚られた。思えばレベッカとの出会いは特異なものだった。十数年ぶりに訪れた特別な場所で目撃した不思議な光景。
その直後に現れた少女。すっかり忘れていたが、能力者との出来事同様ミステリアスである。
「友二、アンタは夢物語で何かいいことあった?」
運転中ゆえに余所見はできない。しかし、視界に入るレベッカは今までの幼い少女ではなく、出会った能力者の女性たちと引けを取らない大人びた表情と言葉であった。
「ああ、あったよ。忘れていたことを思い出させてくれた。嫌なことも多かったけどね。でも、一番よかったことはいろんな人に出会えたこと」
「女の人が多かったからじゃないの?」
「そ、そんなことないよ!」
「アタシが聞いた話はほとんど女だったよ。違った?」
「いや~、確かにそうだけど…」
「ねっ?」
そう言ったレベッカはいつもの調子に戻り、オレの頬を指先で突いた。
「ところで、友二は大切な人を失ったことがある?」
唐突な質問に驚いたがちゃんと答えた。
「ああ。もうだいぶ前になるけど親友をひとり。いいヤツだった」
「さっきはその人のお墓参りだったの?」
「そうだ。久しぶりなんだけどね…」
「じゃあ、アタシと一緒だ!」
「キミも親友を?」
「う~ん、違うけど、とても大切なひと」
そう言ってレベッカは窓の外を向いたので、それ以上は聞かないでおいた。
「なぁレベッカ。グリーンフラッシュって知ってるか?」
「知らない。なにそれ?」
「太陽が緑色に見える珍しい現象なんだけど、夕方あの墓地で見たんだよ」
「ウソ~!そんなわけないじゃん!幼稚園児に聞いてもそんな答え返ってこないよ。もう、友二はどこまでも夢物語人だね?」
「いや!ほんと、そう見えたんだって!実はさぁ、さっき話した親友が事故で死ぬ前にそれと同じ光景を見たんだって!オレもそれを聞いた時、いまのキミみたいに信じなかったけど、いざ自分が目にすると何ともいえない不気味さがあって怖かったよ」
オレは前を見ながら、時折レベッカの方をチラチラ見て熱弁した。それに対して彼女は一言で切った。
「じゃあ、友二も死んだんじゃない?」
真夏でも深夜になれば涼しいといえども、高速道路を走る車は窓を閉め切っているので、エアコンを効かせている。それを割り引いてもレベッカの言葉は車内を十分に凍らせた。
思えば彼女の意見も一理あって、そう考えると辻褄が合う。オレがトラベラーになることも、能力者以外には認知されないことも幽霊なら当然のことだ。
「もう、友二、冗談よ!冗談。そんな真剣な顔しちゃって、もしそうならアタシはどうなんの?」
「どうって?」
「幽霊とじゃ、エッチできないじゃん!」
「えっ?オレと?…」
「危ない!危ない!友二。ちゃんと前を向いて!何を想像してるの?いやらしい!これだからオヤジは困るわ!冗談を真に受けちゃって…言ったじゃん。アタシは愛あるセックスしかしないって!」
またまたからかわれたオレであった。でも、レベッカのこの手のジョークに実は救われていることも事実。全く不思議な娘だ。




