第六章
どれくらい眠っていたのだろう。まだ辺りは暗い。
寝ぼけている体を揺さぶられ薄眼を開けた。
「起きて!起きて」
「あ~、もう朝か?小夜ちゃん…」
「誰が小夜ちゃんよ!なに寝ぼけてるの?」
小夜とは違う聞き覚えのある声に目をしっかり開けてみた。目の前にいたのはレベッカであった。そう、戻ったのだ。
オレは狭い車内で飛び起きるようにして頭を天井にぶつけた。痛みなどない。
そしてそのままレベッカに抱きついた。
「ちょっと友二何するの!ヘンタイ!痛い!痛いよ!離して!」
もうレベッカの骨が折れるほどキツく抱きしめた。
あまりの嬉しさに歓喜の声を上げるほど…。
それもそのはず、今回は瞳のあと戻らずに小夜の世界に行った。それだけに長く、二回分の時間と出来事を経験した。これが喜ばずにいられようか。
レベッカを解放したオレはニヤついた顔で彼女を見た。
それがまたヘンな誤解を生んだ。レベッカは出会って一番の怪訝な顔でオレを睨みつけ言い放った。
「友二、ひょっとして寝ている間に何か可笑しな病気にでも罹ったの?それとも超オタク?そんな風には見えなかったな。それなりにカッコイイおじさんだと思っていたけど、どうもアタシの勘違いみたいだったね」
「いや、違うんだ!嬉しくて、嬉しくて。今回はどれくらい時間が経ってた?」
「えっ?友二が寝ていた時間?」
「ああ」
「三十分くらいだよ。でも、友二、何かうなされていて苦しそうだったから起こしたの。ヘンな夢でも見ていたの?」
「あぁ!そうだな。夢かもしれない」
そこでオレは今回ふたつの話を物語にはせず、ありのまま経験したことを語り、最後に前三回の話も体験したことだったことを明らかにした。するとレベッカはオレの顔をマジマジとしばらく眺めて吹いた。
「やっぱり友二はおかしいわ!オタクの方がまだマシかも…。そういうのを何ていうか知ってる?夢っていうの。疲れてるのよ。アタシも時々見るよ!そういうの」
そう、レベッカの言う通りだ。これは夢なのだ。
誰に話しても、また逆に誰かに聞かされてもオレもそう思う。これは夢なのだ。
たとえ夢でもいい。それよりも今回は小夜に挨拶もなしでこちらに戻った。それでよかったはずなのに何故か釈然としない。車内で眠っていたのは当然で、全く寝起き同然の感じだ。狭い所での睡眠ゆえに体が痛いのと、頭がボ~っとしている。目を擦ってよくレベッカを見ても小夜に見える。
やはり二人はよく似ている。これ以上レベッカを見つめているとまた何を言われるか分からない。とりあえず一旦車外へ出て深呼吸をした。
「喉が渇いたから一緒に自販機までついてきてくれないか?」
先程自販機のボタンを押した時、そのまま留美の世界に飛ばされたから正直怖かった。
「ひとりで行きなよ!何でアタシが行かなきゃいけないの?」
「さっき幼馴染の話をしただろ?その世界に行った方法がジュースを買った時なんだ。だから…その~…」
「ふ~ん、要するに怖いんだね?」
「いや、その…」
「正直に言ったら考えてあげる!」
そう言ったレベッカの顔は間違いなく小悪魔に見えた。
しかし、ここは背に腹はかえられない。
「頼む!その…」
「頼む?へぇ~、友二は人にお願いするとき、そういう言い方するんだぁ?」
「お願いします。一緒に自販機まで行ってください」
「いいよ!」
なんか拍子抜けした。レベッカはドアを閉めて先に歩き出した。さっきの掛け合いは何だったのだろう。
オレは緊張の面持ちで自販機の前に立った。待っていたレベッカが手のひらを見せ小銭を催促した。
ポケットから小銭を出して彼女に渡そうとした時、一緒に黒い滑々の石が出てきた。そうだ。
これは瞳に戻してもらう時に使った石だ。これが証拠だ。京都で拾った石。後でわかったことだが、小夜曰く、手のひらに収まるものは一緒に時空を超えるという。
オレはレベッカの手のひらに石を乗せた。
「友二。アンタ、バカ?これでジュースを買えっていうの?」
「違うよ!これは証拠の石なんだ。さっき話しただろ?京都で瞳に帰してもらう時に使った石なんだ!」
「へぇ?こんなもん、どこにでもあるじゃん!何が証拠よ!夢物語はもう終わり!」
言われてみればそうだ。でも、レベッカの手のひらにある黒い石は紛れもなく瞳といたあの時のものだ。
何かを語っているように思えて仕方がない。痺れを切らしたレベッカが自分の右手のひらにある石を左手で掴んだその時、彼女は背筋を伸ばして固まった。
次の瞬間レベッカは気を失い倒れかけたのでオレは彼女を抱きかかえ、近くのベンチへとつれていった。
レベッカはすぐに意識が戻り放心状態ながら言った。
「なに?何なのよ、あれ…」
「どうした?何か見えたのか?」
「うん。目の前に長い黒髪の女がいて、ニコニコしてるの。声は聞こえないけどアタシに何か言っていた。何あれ?」
おそらくレベッカが体験したことは石を握った事で、何らかの映像が見えたのだろう。時空を超えた石にはまだパワーが残っていて、それを握った者にオレが体験したことを再現してみせる。確認のためレベッカに聞いた。
「そこはどんな場所だった?」
「イスにもたれて、どこかの部屋だった。お花のいい香りがした」
「女の人はどんな感じだった?」
「白いワンピースを着たすごくキレイな人」
やはり思った通りだ。服はあの朝、瞳が着ていたもので、始める前にフローラルの香りのアロマオイルを焚いていた。
ベンチに腰掛けているオレたちは夜空を見上げた。
「遠回りをしたけど、ちゃんと戻れたよ。ありがとう。瞳さん」
名前は知らないが、夜空で一番輝く星を瞳と想って礼を言った。
「ふ~ん、あの人、瞳って言うんだ。美人だし、友二が惚れるのも無理ないね」
「うっ!」
痛いとこをつかれた。




