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レベッカ  作者: 橘晴紀
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出発準備

 店の外に出た頃にはもうすっかり夜は更けて、街行く人たちも疎らである。短時間での環境変化にまだ実感が湧かないのか、小夜は放心状態で夜空を眺めている。

 ふと小夜の横顔を見て思った。これからの将来に不安がいっぱいなのであろう。未来から着たオレとしては小夜に知っていることを少しでも教えてあげればいいのだけど、それを言ったところで彼女の不安は拭えない。

 かく言う自分も過去に来たからといって、いくら未来を知っていても安心してはいない。実際いつも、どうやって元の世界に戻れるかとまずそこから考えなければならない。

 たとえ先のことが分かっても何の役にも立たないし、あまり意味がない。初めて能力者の彼女たちの事が解った気がする。もう間もなく小夜と別れるということはオレも戻らなければならないのに、まだその方法が見つかっていない。

「ねぇ、ユウちゃん。アタシすごく怖い。蒼井君の事を疑っているわけじゃないけど、そう簡単に事が進むのかなぁ?」

「う~ん、どうかな?どうして小夜ちゃんは彼を信じるの?後輩だから?」

「そうねぇ、それもあるけど、蒼井君はなんとなく亡くなった父に似ている気がするの。ほとんど覚えていないんだけどね」

 そう言って小夜は微笑んだ。

「そうか。初対面の時てっきり僕はキミたちがイイ雰囲気かと思った」

「え~、そんな風に見えたの?」

「まぁ、蒼井君が小夜ちゃんに惚れてるとは思っていたけど、さっきの話だと違ったね」

「これでもアタシ、この間まで彼氏いたんだよ」

「さっき芹香や金沢、そして蒼井が言ってた人?別れたんだ?」

「うん。いまユウちゃんが言ったように、蒼井君との仲を疑われて…。それで、フラれちゃった」

 そう言った小夜は俯いた。

 まだ、そのカレに未練があるのだろう。

「たったそれだけの理由で小夜ちゃんを振ったのか?」

「そうねぇ、それだけじゃないと思う。金沢先輩の事もあったと思う。カレからしたら蒼井君はともかく、金沢先輩と私の関係を知らないからそう思われても仕方ない」

「それはそうだけど…だったら言えばよかったんじゃ…そういうわけにはいかないよな?」

 これはどの能力者にも共通していることで、できるならば彼女たちもそうしたかっただろう。理解ある者ばかりではなく、その大半が事実を知れば離れていく。

「つくづくアタシはツイてない。カレができても能力のことは絶対言えない。だから誤解も多い。知っている金沢先輩にはいいように使われて、蒼井君の正体を知った途端に引越し。あ~あ!もっと早くにユウちゃんに出会えてたらなぁ!五番目でもいいから『女』になれたのになぁ!あっ、そうだ!ユウちゃんも一緒に行こうよ!愛媛。ねっ、そうしよ」

 そう言われてオレは狐につままれたように固まった。

 しかし、小夜の言う通りだ。その手があった。

戻る方法がまだない今は能力者の小夜についていけばいい。こんな単純なことが何故思いつかなかったのか。

 そんな風に考えると何だか嬉しくなって、思わず小夜を

抱きしめた。彼女は少し驚いたようだが、一緒に喜んでくれた。そのあと小夜の家に着いたオレたちは喫茶店にいたのがかなり長かったことを改めて思い知った。

 ふたりとも今にも眠りそうだったが、小夜は明朝出発のためできるだけの用意をしないといけないからと、眠い目を擦りながら家中を走り回っている。

 オレは彼女の手伝いを申し出たが、よく考えると何もできないことが分かって静かにイスに腰掛けた。

「ユウちゃん。明日、蒼井君が迎えにくるまでにお母さんに会いに行きたいから、少し早く起きるね。ユウちゃんは彼が来るまでゆっくりしてくれたらいいから」

「だったら尚更早く寝ないといけないな。やっぱり何か手伝おうか?」

「いいよ!先にシャワーでも浴びて。場所分かる?」

「ああ。じゃあ、そうさせてもらおうかな」

「大丈夫?独りで入れる?」

「どういう意味だよ?」

「一緒に入らなくていい?」

「バカ言うな!」

 忙しく動き回っているわりには人を弄ぶ小夜がなんだかやけに可愛く思えた。

 風呂から上ると小夜がビールを出してくれた。

 彼女も小休止だといって一緒に飲むことになった。

「ねぇ、ユウちゃん。恋人はいるの?」

 唐突な質問に驚いている暇はなかった。

「そら、いるよね。ユウちゃんだったら」

「いや~、期待外れで悪いけど、それがいないんだ!去年、あ~、元の世界の話だけど去年離婚したんだ。それからは…どうも、その~、娘と二人きりで暮らしているのもあるけど…」

「そうかぁ!娘さんはいくつ?」

「今年で五歳」

「へぇ。ユウちゃんに似てカワイイんだろうな?」

「もちろん!自慢の娘さ」

「娘さんに新しいお母さんはいらないの?」

「そうだな。そんなこと考えたことなかった。でも、今後の事を考えたらそれも必要になるよな…」

 そう言いながら頭の中に瞳の顔が浮かんだ。

 何故なのかはわからない、とは言えない。

「じゃあ、アタシ立候補しちゃおうかな?あれ?五番目の女じゃダメなのかな?」

 オレの顔を見て小夜は何かを察知したのか、少しむくれた表情になった。

「いや~、そんなことはないよ」

 慌てたオレに唇を尖らせて小夜は言った。

「ウソ!いま絶対、誰かの顔が浮かんだんだ!しかもアタシじゃない他の誰か」

「・・・」

 何も言い返せないオレに小夜は畳掛けた。

「ユウちゃん。正直に言ったら許してあげる。何番目の人?」

「その~、何ていうか~…」

 モジモジするオレに小夜は笑いながら言った。

「冗談よ、冗談!もう、カワイイんだからユウちゃんは…ウソがつけない人ね。でも、これでよく分かった。私の前の四人の女性の内誰かってこと…。いいなぁ!その人。さぁ、睡眠時間が少なくなるから続きをしよう。ユウちゃんはベッドで先に寝ていて」

「え~、小夜ちゃんの?」

「そうよ。心配しないで!ユウちゃんを襲うようなマネはしないから…」

「あぁ、それじゃあ…」

 言葉に甘えて更にからかわれながらオレは寝室に入ったと同時にベッドになだれ込んだ。

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