次なるヒント
全然納得できない小夜を尻目に蒼井は帰り支度をはじめた。
「蒼井君、本気なんだよね?嫌だと言ったらどうするの?」
「小夜先輩。いいですか?あなたが行きたくないのは分かります。突然こんな事を言われても納得できないでしょう。ルールっていうのもありますけど、でも先輩のことを思ってそうするのです。今まで能力ゆえの苦しみや辛さ、それらを今後見つめ直すいいチャンスじゃないですか?それに嫌な仕事をさせられていた事のリハビリも兼ねて」
「でも、知らない所に行くんでしょう?アタシ自信ない。急に変えられないよ!大学だって通えなくなるし…それに…」
「それも心配いりません。編入の手続きも滞りなく進んでいます。それと、もうひとつ気にかけてらっしゃるのは例のカレの事ですよね?」
小夜は小さく頷いた。
「それだけは勘弁して下さい。いくら僕でもこの問題は解決できないです。ただ、どうしてもとおっしゃるなら、手を打てないわけではないです。どうしますか?小夜先輩。打ちましょうか?」
その意味ありげな言葉に小夜は首を横に振った。
それは蒼井の遠回しな「諦めろ」という圧力に小夜が屈したかたちになった。
どうしても小夜を動かしたいらしい。
ここまでくると何か怪しい感じが物凄く漂う。
「どこに行くの?」
とても不安そうに小夜は尋ねた。
「小夜先輩、心配しないで下さい。行き先は愛媛。僕の実家です」
「えっ?蒼井君の家?どうして?」
「はい。僕の家は代々パーンを務めています。父母ともにそうですし、まだ未成年なので候補生ですが妹、真綿がいますから彼女が小夜先輩の側にいるようになります」
「そうなんだぁ。でも、これからアタシはどうなるの?ずっと蒼井君の家にいなきゃいけないの?能力のことなどは?」
小夜は可能な限り知りたいのだろう。
「それも含めて先輩の将来、最終的にはご自分でお決めいただきますけど、それまでの間我々はしっかりサポートさせていただきます。真綿は高校生ですが僕よりしっかりしていますから、きっと小夜先輩の力になります」
小夜は話を聞いて安心したのか、背筋を伸ばして座っていた体を緩めイスにもたれた。
「いつ出発するの?」
「明朝九時にお迎えに上がります」
「そんなに急ぐの?友達にだって連絡しなきゃいけないのに、それじゃあ時間ないよ」
「申し訳ないです。事は急ぎますので何とぞご了承のほどを…芹香先輩には僕から伝えておきます。少し落ち着けば、お友達を愛媛にお呼びするということもできますよ」
「そうなの?よかったぁ!もう皆に二度と会えないのかと思った」
「そんなことないですよ。何も小夜先輩は悪いことをして島流しになるわけでもないのですから…」
そう言って蒼井は一瞬オレを見た。喜ぶ小夜とは対照的にオレには蒼井の無表情な顔が不気味に思えた。優しく聞こえるものの、実際のところ否定はしているがこれは「島流し」ではないのか。突然、自由を奪われ生活を一変させられる。それは紛れもなく強制である。女子大生の小夜は上手くはぐらかした蒼井だったが、彼女よりは長く生きているオレには通用しない。それを見越したのか蒼井は小夜に向かって言った。
「最後に友二さん。ひとつだけ疑問にお答えしましょう。話に付き合っていただいたお礼に…。でも最初にお伝えした通り、あなたに関する事はNGですよ」
何とも人をバカにした男だ。コイツらパーンはそうなのか、それとも蒼井自身がそういう男なのか。
自分に関すること以外に何も浮かばないが何かヒントになることでも聞き出せたら儲けもんだ。
いろいろ考えてみたものの、特段何も浮かばない。
目の前のふたりを見ると、小夜は窓の外をボ~っと眺めている。蒼井は考え事をしているようだ。
傍から見ればオレは見えないので、深夜の喫茶店で時間を潰す男と女にしか見えないだろう。
だがその実、このふたりは能力者とそれを見張る男。
誰がそれを予想できるだろう。それを見て過去の事を思い出してみた。オレが出会った能力者たちに何か共通点はないのか。時間も場所も全く違う。
まして、使う能力も違う。八九年の羅音は東京、八八
年の雪希は新潟、八六年の留美は三重、八五年の瞳は京都、そして今回の小夜は同じく八五年で東京。
回を重ねるごとに時代が下る。それ以外には共通点はない。もう一度考えてみよう。
羅音のとき東京以外にどこか違う地名が出てきただろうか。確か新潟に出張に行ったと言っていた。
そして次にオレが行ったのがその新潟に住む雪希のところ。その雪希はカレを追って大阪へ行った。
留美に会ったのは三重。でも、彼女は大阪に住んでいる。その留美は葉月の住む京都に彼女の夫に会いに行っていた。次に会ったのが京都在住の瞳。彼女は東京出身。
そして、今回が東京。これは…。
まるでリレーをしているみたいではないか。
オレの出会った能力者の女性たちは次に会う人ともリンクしている。このあと小夜は愛媛に行く。
ということは、次は愛媛か。いや、待て。
オレはまた次も旅をするということを自ら願っているのか。それだけは勘弁願いたい。
もうこれ以上。愛媛…。
どこか他で聞いたことがある。確か…雪希が大阪のあと、
いとこがいる愛媛に行くと言っていた。
そこでようやく、蒼井に尋ねる内容が思いついた。
オレの考え通りなら、これは間違いなくリンクしている。
「キミの親戚に新潟県に住んでいる人はいないか?」
「はい。母の姉が新潟県に嫁いでいます」
「そこに二十代の女性がいるだろ?」
「いますよ。上西雪希といって、僕たちのいとこに当たります」
ビンゴだ。やはり繋がりがあるのだ。
しかし、この一連のリンクをどう解釈して、どう生かしたらいいのか。
「それではこれで失礼します」
蒼井は軽く頭を下げ、小夜に微笑みながら店を後にした。




