金沢の正体
ややこしくなったオレは全部をひっくるめて、小夜の分も上乗せして蒼井に質問した。
「結局のところキミは何が言いたくて、何がしたいんだ?」
蒼井は初めの宣言通り、小夜を見つめながら返答した。
「友二さんも何度か経験されていると思いますが、僕たちパーンは常に能力者の近くにいるんですよ」
「えっ?ということは、オレが今まで出会った彼女たちの近くにもパーンがいたってことか?」
「はい。必ず側にいます」
これには驚いた。彼女たちの近くにいたなんて…。
羅音の場合は忍か花梨。雪希の場合は母親か恋人。
留美の近くには葉月、ミラ、明日太。でも葉月は違うだろう。瞳の近くには親しい人はいたが亡くなってしまった。
では一体誰が…。
考え込むオレをチラっと見た蒼井は小夜に向かって言った。
「パーンは必ずしも親しい人だとは限りません。能力者のパワーと世間への影響力によって受け持つ人が違います。五段階のレベルがあって小夜先輩の場合はレベル4。数字が上るほど危険と見なされて、干渉の度合いも上がります。逆に数字が下にいくほど監視も緩くなり、例えば通勤通学時に同じ電車に乗る程度だったり、たまに顔を合わす程度の人だったりするだけで終わるということもある」
納得できない様子の小夜が言った。
「でもアタシは人に迷惑も掛けていないし、もう止めようと思っている。仕方なく使っているだけなのに…」
ため息をつく小夜を見ながら蒼井は小さく頷き、一度席を立って元自分がいたテーブルに置いてあるコップを持ち店員を呼んだ。蒼井は新しく注がれた水を一気に飲み干し小夜を見つめ話しだした。
「小夜先輩。ここからが本題です」
蒼井の真剣な口調に小夜は背筋を伸ばして、ゆっくり水を飲み呼吸を整えた。
「小夜先輩が無理やり能力を使わされて、商売の道具にしている金沢先輩は僕と同じパーンです」
「えっ…どういうこと?」
驚きの小夜の声は人の多さの割には静かな店内に響き渡った。同じくオレも驚いた。
「当初、金沢先輩は小夜先輩を監視するために近づいてきたのです。本来なら小夜先輩が悪い方へ進まないよう導くためにいるはずなのに、自分が小夜先輩を利用して全く真逆の方に進んでしまった。前代未聞です。それで機関は彼にペナルティを与えることにした。それがこの間、金沢先輩がドイツに研修に行ったという本当の理由です。本部で彼は再教育を受け試験にパスしたから、こちらに戻ってこられたはずなのにまた、性懲りもなく犯罪に手を染めてしまった。もう彼は駄目でしょうね」
「金沢先輩はどうなるの?」
心配より安心の方が大きいだろう小夜は顔が明るくなった。
「まもなく迎えがきます。それから先は…」
「それから先は?」
オレと小夜は合唱して聞いた。
蒼井は薄笑いを浮かべ、首を数回振ることで答えた。
「やっぱり金沢は小夜ちゃんを利用して罪を犯していたんだな?」
「はい。小夜先輩は知らされていなかったでしょう?知れば絶対断られると思って、彼は言わなかった」
「それで何を運ばされていたんだ?」
「麻薬です」
「・・・」
小夜は声が出せなかった。だが、その顔には驚きが充満していた。それはそうだろう。好きで持ち合わせているわけではない能力を悪用され、その上犯罪の片棒まで担がされるという、まだ成人になったばかりの女子大生にはショックが大きすぎる。
「おそらく金沢先輩はどこからか情報を仕入れてそれを運べることを知った。それだけではなく、客から評判がいいのを把握していたのでしょう」
「評判ってクスリのこと?」
恐る恐る小夜が聞いた。
「はい。まだ断定はできないですが、どうも亜空間を移動したモノは活性化されるという報告も出ています」
それで分かった。小夜が大学生の割には幼く見える理由。それはテレポーターという特殊な能力で亜空間を移動している彼女が活性化され若返っているのかもしれない。逆ウラシマ効果に近いものがあるのだろう。
だとすれば、何度もタイムトラベルをしているオレもそういうことになるのか。オレはここで疑問が湧いた。
蒼井をはじめパーンと呼ばれる彼らは能力者を監視しているといっているが最終的な目的は何なのか。
蒼井たちの行きつく先はどこなのか。彼はもっと上のパーンになるため大学に通っているのか。
それとも本来の目的のため大学へ通っている時にパーンという任務についたのか。
「以上のことから小夜先輩を保護します。早急に出発の準備に取り掛かって下さい」
「え~!」
蒼井の唐突な言葉に驚かずにはいられない。
「東京を離れるってこと?」
「そうです。金沢先輩はいなくなりますから大丈夫ですが、万が一の事を考慮するのと、小夜先輩のレベルが5に上がり、決まりで保護することになりました」
「いまレベルが上ったって言ったよね?いつ4から5に上ったの?」
先程の僕の話で上りました」
「えっ?蒼井君が勝手に話しだしたんじゃない!頼んでもないのに…」
「まぁまぁ!小夜先輩。細かい事はいいじゃないですか!」
「何がいいのよ!アタシ無理だからね!お母さんだって置いていけないし」
「それは大丈夫です。お母様も先輩と一緒に行くことになっていますから。もう手配も済んでいます」
何やら最初からそういうことになっていたのだ。
一連の話は蒼井の優しさなのか、それともジョークなのか、いずれにしてもオレに関することは何ひとつ分かっていない。やはり彼の言うように秘密事項なのだろう。




