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レベッカ  作者: 橘晴紀
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小夜の能力

 小夜は少し涙を浮かべ、氷が解けて薄くなったアイスコーヒーをようやく飲みだした。オレは続けて言った。

「小夜ちゃん、キミはキミだから誰かのマネをしろとは言わない。僕は微力だけど小夜ちゃんの力になりたいんだ!だから、僕の五人目の女性になってほしい」

 オレはどさくさに紛れて、こっぱずかしい事を言ってしまった。コーヒーを飲んでいた小夜はストローから口を外し、ひとことで言った。

「イヤだ!」

「えっ?ダメか?」

 淡い期待を抱いていたオレは恥ずかしくなった。

小夜は俯いて小刻みに肩を震わせながら顔を上げて言った。

「ウソ~!ビックリした?いいよ!ユウちゃんの愛人になる!」

「いやいや!そういうことじゃないけど…」

 焦ったオレに小夜は切り返した。

「何慌てているの?肉体関係はバツだけど、お互い協力しようね」

「当たり前だ!」

 言われるようにムキになっている自分が恥ずかしかった。小夜のいたずらっ娘のような顔をみているとレベッカを思い出した。そう言えば小夜はどことなくレベッカに似ている。歳が近いせいだろうか。今頃、彼女はどうしているだろう。元気にしているだろうか。そうか、オレの中ではいつも長い間旅をしているようだが、レベッカといる元の世界ではごく短い時間しか経っていないのだ。そんな事を思い出しながら半笑いになるオレに小夜は言った。

「どうしたの?昔の人でも思い出しているの?今はアタシがユウちゃんの女なんだからね!」

「女って…」

 そう言われて、なんとなく納得しながらもヘンな感じでオレは照れた。完全にからかわれたオレに小夜はゆっくりと語りだした。数年前から突然テレポートが出来るようになったという。

「高校の時、友達とふざけてウインクの練習をしていたの」

「男でもたぶらかそうと思ったのか?」

「そう!友達とアタシ、どっちがセクシーかって…いま思うとバカげていたよ。それで家に帰ってからも鏡を見ながら練習していたの。可笑しいでしょ?最初、右目でしていて、交代に左目でしたら突然辺りが真っ暗になって頭の中がクルクル回って、次の瞬間目の前が全然知らない景色に変わっていた」

「その間って、どれくらいの時間だった?」

「う~ん、そうねぇ、ウインクしてから二~三秒ってとこかな?」

「それで着いた先は?」

「それが全然分からないの。自分の部屋でそれをしていたから、間違いなく違う所。住宅街の路上にいて、アタシ何がなんだか分からなくて、しばらくボ~っとしていたの。それでよく考えて、ウインクしたからだと思って、もう一度したら今度はまた全然知らない所に着いた。それで分かったの。左目でウインクするとテレポートする。だけど、行き先は知らない場所で同じ所には戻れない」

 その後も淡々と話す小夜の話をまとめると、テレポートは一日に二回まで。何度かする内にある程度の場所近くまではコントロールできるようになったらしい。

「小夜ちゃんはその力を何かに使っているの?例えば今日のように…」

 その質問のあと小夜は表情が暗くなった。

「アタシはユウちゃんが出会った人たちと少し違うかも…。今まで私の意思で使った力は逃げることだけだった。他には…」

 そう言ったあと小夜は黙ってしまった。暗い窓の外を見ながらため息をついた。そこにこそ本題があり、彼女の苦しみと辛さがある。あえて追及せず小夜の意思にまかせた。

「大学に入ってまもなく母が病に倒れたの。それまで好き勝手にしてきたアタシもさすがにこれではいけないと、何か母の役に立ちたいと思って出来ることは何でもした。でも、そこで気づいたの。今まで使ってきた能力を生かせないかと。でも瞬間移動なんて何の役にも立たないってことが分かると、イヤになって自暴自棄になった。甘えていたの、アタシ。苦しくて辛いのは母なのに…。そんな時に相談したのが金沢先輩だった。実家が病院を経営していて、医学部の先輩は最初、頼りになった。サークルに誘ってくれたのも金沢先輩だった。いい病院を紹介してくれたのだけど、医療費が物凄く高くて諦めかけたこともあった。父は私がまだ幼い時に亡くなったから、支えるのは私だけだった。そこで金沢先輩がアルバイトを紹介してくれたの」

「でも、そこに落とし穴があった?」

 表現は的確ではないがオレにはそう思えた。

 小夜は唇を噛みしめ小さく頷いた。

 深夜の喫茶店にも関わらず結構な人がいて、皆それぞれの夜を楽しんでいるようだ。この時代、若者が夜を明かすといえば平成の世には珍しくなくなった二十四時間営業の喫茶店か映画館くらいしかなく、それ以外に過ごすとなると誰かの家か外でたむろしたり、車で夜通しドライブをするといったことしかなかった。

 この旅でいいところといえば、昔を思い出して懐かしみ、その当時の人と出会えること。

それも無くなればこれはただの罰ゲームとしか考えられない。

「まさか小夜ちゃん、その~、恥ずかしい事とかを強要されているんじゃないか?」

「いいえ。わたしは違うの」

「じゃあ他の人はそうなの?小夜ちゃんは?もっと酷いことを?」

「金沢先輩は会社を経営していて、表向きは女子大生をコンパニオンと称して派遣しているのだけど、実際はデートクラブ、つまり売春組織として機能している」

「小夜ちゃんは違うんだね?」

 小夜の言葉と重って待てないオレは尋ねた。

 違うと聞いていたにもかかわらず何故かオレは慌てて聞いた。

「うん。アタシはトランスポーターなの」

「トランスポーター?何か運んでいるの?」

「はっきりとは分からないけど、たぶんイケナイもの」

 そう言った小夜は瞳を伏せた。それはかなりヤバそうだが、もうひとつ要領が掴めない。

「基本的にテレポートする時、荷物は持てないの。持っていても一緒に運べないことが分かった。前にカバンを持ったままテレポートして着いたら跡形もなかった。でも、ひとつだけ例外があって、手のひらに収まるモノは一緒に移動できる。金沢先輩は何故かそのことを知っていて、いつも小さな袋を握らされ運ばされた」

「まさか、金沢もテレポーター?」

「いいえ、違います」

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