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レベッカ  作者: 橘晴紀
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消えた小夜

 一連の話を聞いてオレは思い出した。今の話は最初に会った羅音たちが言っていた出来事と被る。

 小夜が言ったスタイル抜群な娘は忍で、バンドのヴォーカルは羅音。そして、その羅音たちと競い合うという小夜の先輩は後にレースクイーンになる花梨の事務所の先輩にあたる芹香。なんと、懐かしい名前がこんなところで聞けると

は…。そこでオレは閃いた。

 偶然飛ばされて、何の関連もないと思われたトラベルが実はリンクしていて、複雑に絡み合っているように思えた。

 今回の協力者と思われる小夜は何故かオレを避けている。今まで通りに事が運ばないようだ。しかし、見方を変えれば今この同じ世界に羅音がいる。

 彼女に接触すれば元の世界に帰れるだろう。

実際一度、羅音によってオレは戻してもらっている。

 でも、果たしてそれは可能なのだろうか。

それはもう一度、羅音に頼むという意味ではなく、彼女に会う事が出来るかという意味で…。

 歪んだ世界を何度も行き来するオレがいまこの世界いる羅音に会えるのか。しかも、この時代ではオレが会った羅音の時代より四年も前のことだ。一度ならず二度までも羅音をタイムパラドックスに巻き込むことになる。

 何か違うような気がする。

その微妙な感覚を小夜の態度が示しているようでならない。まずこちらの問題を把握しないといけない。

 ひとつ気になることがある。それは先程、金沢が小夜に耳打ちしたこと。あの後明らかに小夜の顔つきが変わった。

 それはただ単にイヤな事を言われたというレベルの話ではない。小夜自身について何か重大なコトを言われたように思えてならない。小夜と金沢の間に何があるのだろうか。

 単に先輩後輩の関係だけではなさそうだ。

 そんな中、小夜は何か落ち着きのない素振りで周りを見渡している。それを見て蒼井が言った。

「小夜先輩。どうかしましたか?この後すぐに出かけるのですか?もし、時間があったらお茶でも飲みに行きませんか?」

「あ~、ゴメンね、蒼井くん。すぐに行かないといけないから。また今度ね」

「そうですか…。金沢先輩ですか?」

「えっ?何が?」

「いや~、そのぉ、この後の約束…」

「あ~…どうして?」

「さっき、見たんですよ。小夜先輩に金沢先輩が何か言っているのを…」

「あっ、そうなの…。ちょっと…」

 曖昧な返事で切り返そうとした小夜に蒼井は強い口調で言った。

「金沢先輩は小夜先輩にとって特に良くない人だと思います。いつもそばにいるからよく分かります。悪いことはいいません。金沢先輩にはもう近付かないほうがいいです」

 蒼井の言葉には小夜に対して特別な感情が入り混じっているようだ。彼の決意にも似た表情と態度はほんのさっき出会ったばかりのオレでさえ分かる。それを知っているのか知らないのか、小夜は蒼井に返答した。

「ありがとう、蒼井くん。じゃあ、また明日。おやすみ」

「おやすみなさい」

 微妙な笑顔で手を振る小夜とは対照的に蒼井はため息をついた。いつになく躊躇したオレは迷いながらもゆっくり小夜の後についた。中途半端な距離を開けて歩くオレに立ち止まって小夜が言った。

「ユウちゃん、ゴメン!独りにしてくれないかな?これから行くところがあるから…」

 それを聞いたオレは小夜の背中を眺め、返す言葉がなかった。それは小夜の言葉に同意できないからではなく、ショックからくるものであった。オレは勝手にいつも通り、能力者の小夜が協力してくれるものと思っていた。

 別に小夜がそう言ったわけでもないのだが、料簡が狭いオレはそう取ってしまった。小さくなっていく小夜の後ろ姿を見ていたオレはこのまま行かせては戻ることができなくなり、また彼女自身も失ってしまいそうで、堪らなく恐ろしくなり彼女の後を追った。

「行かせられない!」

 オレは小夜の腕を掴んで離さなかった。

「痛い!痛いよ。ユウちゃん」

 手を放したオレの顔を小夜は見つめた。

「ゴメン!行かないといけないから…」

 そう言って歩き出した小夜にオレは近づき、後ろから抱きしめた。

「頼む!キミが必要なんだ!だから行かないでくれ!」

 小夜の華奢な体が潰れてしまうくらいの強さで抱きしめたオレは、まるで旅立つ恋人を引き留める情けない男のようになった。もうそんな体裁の悪さはどうでもいい。

「ユウちゃん…そんなことを言われても困る」

 言葉とは裏腹に小夜は嫌がるどころか、逆に力を抜いて自分の体に纏わり付く、オレの腕を優しく握って身を任せた。

 小刻みに震える小夜は透明人間のオレであっても一応は男。そんなヤツに後ろから抱きしめられたのだから震えるのも仕方ない。オレは幾人も出会った能力者の女性たちの中で、前回以上に自分を見失って暴挙に出てしまった。

 前回の瞳の時もそれまでにない感情を持ち、自分に自信が持てなくなってしまったようになったが、あの時は彼女の昔のカレがオレとよく似ていたということで瞳が懐かしさゆえの錯覚を起こしたことに、半ばつられた形でオレも彼女

に恋人のような錯覚を覚えたからだ。

 しかし今回はそれとも違う。疲れ果てたオレは今まで通りにいかない事と、小夜の態度で焦りと人恋しさが募ってしまったようだ。それに小夜が抱える得体の知れない事情で彼女に感情移入してしまった。オレは腕を解き、小夜の体を反転させて向き合い、そして言った。

「話してよ!小夜ちゃん。僕にできる事なら何でもするつもりだ。僕には小夜ちゃんが必要なんだよ」

 オレの願いに答えるように微笑んだ小夜はしばらく黙ったままで見つめている。その時間は途轍もなく長く感じられた。

「ゴメン!ユウちゃん。今は何も言えない」

 小夜はそう言ったと同時に左目でウインクして、その瞬間彼女は忽然とオレの前から消えた。そう小夜はテレポートしたのだ。

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