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レベッカ  作者: 橘晴紀
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夜は更けて

オレは泣きながら床に伏せる瞳の肩を掴んでソファーへと座らせた。

「ゴメン!少しキツく言い過ぎた」

「いいの。ユウジくん…」

 悲しさと寂しさからだろうか、背を向けていた瞳はオレの肩口に額を寄せてきた。そのままの状態でソファーにもたれたオレは瞳の頭を撫でながら言った。

「未来予知ができる友達思いの娘は、自分の能力などいらないから人の心が読みたいと言った。そのテレパシーを使える親思いの娘は、人の中に入りたいと言った。そして、その能力をもつ幼馴染思いの娘は、過去に戻りたいと言った。そして僕は瞳さんに出会った。どういうことか分かる?」

 オレの問いに寄りかかっていた瞳は姿勢を戻して座りなおした。

「ユウジくんが出会った人たちだよね?」

「そう、彼女たちはどういう訳で自分にそういう能力がついたのかは分からないけど、自らの能力を呪い変わりの能力を欲した。それは長らく苦しんできた証であり、原因や対処法を探りたかったのだと思う。彼女たちは能力が原因で親友を失くしかけたり、人と付き合うことができなかったり、死を彷徨ったりした。それを思うと瞳さんは幸せだよ」

「そうだよね。甘いよね。私…。ユウジくんが何故この世界に来たか分からないけど、私からするとあなたが助けに来てくれたような気がする」

 オレには瞳の言葉が救いになった。一連の出来事を理解するにはそれしかない。そう言ってくれた瞳が女神に見えた。

「タイムトラベルは体力的に一日一回しか出来なくて、今朝それを使った。だからユウジくんには明日まで待ってもらうの」

「そうだったのか。今まで成果はあったの?ちゃんと逢えた?」

「ダメだった!微妙に時間がズレて、あともう少しというところで逢えないの。日時もちゃんと合っているのだけど、カレが出張でいない時や、子供がその日に限ってその場所を通らないとか・・・。トラベルが数時間しかもたないから、少しのズレでもそうやって逢えなくなる。だから一度も成功したことがないの。何度も考えたわ。ダメだろうって…でもそれはやり方がいけなかったわけではなく、トラベルすること自体いけないことだというのが分かった。だから明朝ユウジくんを送るのを最後に止める」

「そうか。僕はいい時に現れたな?」

「そうね。ユウジくんが出会った彼女たちのためにも私はこんなことを続けていくわけにはいかない。それを気づかせてくれたユウジくんには感謝の気持ちでいっぱいだよ」

「そんな…何もしていないよ。それは僕も同じだよ」

「成功するかどうか、まだ明日になってみないと分からないけどね?」

 そう言って瞳は舌を出して笑った。オレも同じポーズで応えた。酔いが醒め、そろそろ眠たくなってきた頃、オレはふと思い出したことがあった。それは夕方に会った蝶子のことである。

「瞳さん。蝶子さんと付き合いは長いの?」

「え~っと、私がこっちに越してきた時だから、かれこれ一年になるね。お互い不規則な時間で仕事をしているから、お隣でも滅多に顔を合わすことがなかったけど、ある時廊下で物凄い大きな声がしたから出てみたの。それが美紀さんとの出会い」

「そんなに凄かったの?」

「もう、それはそれは…。いわゆる痴話喧嘩で凄かった。あとで申し訳なそうに美紀さんがお土産を持って来てくれて、それから仲良くしてもらっているの」

 オレは正直迷っていた。このまま明朝戻ってもいいのか。蝶子の行く末を瞳に語らず、何もなかったように・・・。

 先程は雰囲気にのまれ饒舌になったが本来、トラベラーのオレが未来の事を語るのは許されないことだ。いくらそこに情があったとしても・・・。このまま黙っておくべきなのか。言ったところで何も変わらない。

 かえって気を使い、ロクなことにはならないだけだ。

 でも、本当にそれでいいのか。オレがそう考えている中、瞳はベランダ越しに隣の部屋を覗いている。

「まだ帰っていないようね、美紀さん。遅いなぁ。だいぶモメているのかな?」

 そういえば、さっき蝶子に会ったとき瞳は心配そうにしていた。何か気になることでもあるのだろうか。

「蝶子さん、いや美紀さんは何かトラブルにでも巻き込まれているの?」

「いいえ、そんなんじゃないのだけど…。彼女、いま彼と別れ話しているところだと思うわ」

「へぇ、そうなんだ」

プライベートなのでこれ以上、詮索するのはよそうと思ったその時、瞳が話しだした。

「ユウジくん。俳優の庄司海斗知ってる?」

「ああ。テレビでよく見る人だよね?」

「そう。映画やドラマでいま引っ張りだこの人。美紀さんと庄司さん、婚約していたの」

「していた?そう言えば庄司が最近、結婚するとか何とかいう報道があったな。まさか、それは蝶子さんじゃないよね?」

「うん。相手はモデルのエル。捨てられたの、美紀さん。それで彼がいま京都に来ているの。何を今更話すっていうのよね?」

 そう言った瞳は飲み干したグラスを片付け、ため息をついた。静かに夜は更けて、暑い古都でのひとときはいつの間にか過ぎ去った。

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