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レベッカ  作者: 橘晴紀
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憑依

 立ち上がろうとしたミラの手首を明日太が掴んで制止した。小さくミラが言った。

「留美の彼って、葉月の旦那やったん?」

 唇を噛みしめ明日太が首を下げた。

「アンタ知ってたん?」

「いいや!でも…」

 オレはそれより留美と葉月のほうが気になったのでそちらに向かった。キャンプファイヤーの灯りに照らされ、留美の表情が見えた。その後ろで留美の背中を見つめる葉月。

「ゴメン!葉月。わたし・・・」

「謝るんやったら、なんでそんな事すんの?そんなんいらんわ!」

「・・・」

 怒りと悲しみに震える葉月は、途中から涙まじりの声で鼻を啜っている。それは葉月が語る前から泣く留美の声をかき消した。

「もうひとつ聞くけど、金属アレルギーの留美が何でペンダントしてんの?」

「えっ!これは・・・」

 そうか、葉月にはそう言っていたのか。

「そら、答えられへんよな?それは旦那が留美にプレゼントしたやつちゃうの?」

「・・・」

 何も答えられない留美に葉月は、先ほどまでの勢いが急になくなり寂しげに言った。

「留美がどう思ってるのか分からんけど、ウチはずっと留美を見てきたから…。なぁ留美、なんか訳があるんやろ?それぐらいは言うてや!」

 それは留美に対して幼馴染ゆえの情と願いであろう。オレンジ色に反射する留美はその明るさと対照的に口を開いた。

「今のウチには何も言われへん。どう話しても葉月にしたことは変わらへんもん!」

 俯いていた留美の顔は更に下がった。そして、葉月が後ろから留美の前に立った。ゆっくり留美が顔を上げると、唇を噛みしめた葉月がジッっと睨みつけている。耐えられなくなった留美は視線を反らした。留美の胸元に葉月の手がゆっくり伸びて、のけ反りながら留美は叫んだ。

「触れたらアカン!」

 しかし、すでに遅く葉月の手のひらにペンダントトップが載せられた。すると、葉月の目と口が大きく開き、声なき叫びで何か言っている。葉月はその瞬間、ガクっと首が降り曲がるように俯き、そしてゆっくり顔を上げた。

 交代するように今度は留美の顔が下がった。

そして、葉月の顔を見たオレは驚いた。

 顔つきが全く変化して、まるで留美そっくりに見えた。

 そして、葉月は言った。

「愛してる、彼を…愛してる、彼を…」

 何度もそう繰り返す葉月は留美の声そのものであった。

「これが・・・憑依!」

 思わずオレは声が出た。そう、体は葉月だが、顔つきや声は留美だ。愛を語るその言葉も留美であろう。

 留美がつけているペンダントに触れた葉月の中に彼女が取り憑いたのだ。葉月の前にいる留美には生気がなく、まるで

ロボットのようだ。でも、どう考えてもこれは危険な状態なのではないか。今この場面に遭遇しているのはオレだけだ。ミラも明日太にも見えていない。

 オレが何とかしなくては、このふたりの精神も肉体も壊れてしまうかもしれない。どうしたらいい。

 留美が取り憑いたのは葉月がペンダントに触れたから・・・。そうか、留美は金属を介して入ると言っていた。

 オレは動かない留美のペンダントを外そうとしたが、掴むことができない。なぜだ。オレには触れられないのか。留美の手を持って掴もうとしたが腕が動かない。

 横で葉月が何かブツブツ言っている。焦らないでよく考えてみよう。右手が駄目なら左手だ。

 今度は腕が動いて留美の手でペンダントが掴めた。ギュっと握ってペンダントを引きちぎり、そのまま放り投げた。

すると、葉月がその場に座り込み言った。

「留美…留美…」

 それと同時に今度は留美が息を吹き返したように叫んだ。

「葉月、葉月!大丈夫?ゴメンね!」

 留美は葉月を抱きしめて何度も謝っている。

 そして、葉月の後ろポケットに手を入れて、ナイフを取り出し唾を飲み込んだ。半分意識朦朧としている葉月は首を何度も横に振った。そして…。

「ギャア~~~!」

 一瞬のことだった。

 叫び声のあと、ふたりともその場に倒れた。その声に明日太と、ミラが駆け寄ってきた。明日太が留美を、ミラが葉月を抱きかかえた。まもなく、キャンプファイヤーをしていた人たちも駆け寄ってきて、明日太が叫んだ。

「すいません。救急車を呼んでください!留美~!留美~!しっかりしろ!留美!」

「なんで?なんで?葉月しっかりして!」

 明日太は留美の腹部を必死に押さえている。ミラは泣きながら葉月を抱え、片方の手で留美の足をさすっている。

 何時間にも感じられたサイレンの音がすぐ近くで止まり、闇夜に白いマスクだけが目立った。

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