不穏な空気
日は落ちたが辺りはまだ少し明るく、暮れ行く夏を楽しむ人たちが思い思いに過ごしている。
さすがに到着した時に結構あったビーチパラソルは畳まれているが、それでも若者たちはまだ海に入っている。
オレは戻れる可能性を考えた。さっき露天風呂で留美の持つ能力は解った。しかし、それがどのようなものかは依然分からず、しかもその特殊性ゆえ確認しづらく、彼女のその能力で戻れる確率は極めて低い。
やはり流れに任せるしかないであろう。ビーチを歩いていると、ここが自分の元いた世界と十数年違っているのをあまり感じない。建物はそれなりに古いが果てしなく続く海は何年経っても変わらない。おそらく、何千年前も何万年後も同じであろう。
そんな中、松林に向かっていると何やら騒がしく多くの人が木を持って歩いている。松林近くはオレたちがいるホテルとは違う宿が三軒とキャンプ場があって、そこから人が出入りしている。松林を抜けたビーチ前あたりに木を組んでいて、どうやらそこでキャンプファイヤーをするようだ。
見たところ高校生くらいの男女が何回も往復して木を運び徐々に組み上がっていく。みんな和気あいあいと短い夏を楽しんでいるようで羨ましい。
そんな彼らを見ていて、それよりも年は上だが同じように楽しんでいる留美たちを思い出した。
そして、ふとさっき耳にした葉月と明日太の会話を思い出した。そう思いホテルの方を見ると、遠目ではあるが人が出て来ているのが見えてオレはそちらに向かって走った。
彼らに近づいた時、ちょうど前を葉月と明日太、少し離れて留美とミラが各々手にバケツと花火を持って歩いていた。
オレは気になっていた葉月ペアのすぐ横に付いた。
「間違いない?明日太。アンタが見たのが本当に留美やったら、ちゃんと証人になってよ」
「証人って、なんか大げさやな?裁判でもするつもりか?葉月。お前らあんだけ仲よかったやないか!」
「そうや。今までそう思てきた。幼馴染で親友やもん、ウチら。そやったら何で留美はウチをこんなツライ目に遭わすの?」
「何か訳でもあるんやろ?留美にちゃんと聞いてからやないと分からんやないか?」
「そら、明日太は昔から留美が好きやったから庇いたい気持ちもあるやろうけど…」
「うっ!」
それ以上明日太は声が出ず押し黙った。どうやら肝心なところは聞けず仕舞いだが、少なくともこの二人の話の内容から不穏な空気が漂ってきたのは間違いない。
後ろを歩く留美とミラは笑いながら話している。
前の二人が自分の事を話していると露とは知らない留美に、オレはどう接したらいいだろう。これから楽しい花火をするというのに、居たたまれない気持ちで
いっぱいだ。オレは葉月と明日太から離れて留美の隣に近づいた。冴えないオレの顔を見て留美はミラと話しながら時折、目で何かを聞いている。
「明日頑張ってな!ミラ。ちゃんと最前列で応援するから」
「ありがとう。最後になるかも分からへんから精一杯やるわ!それには申し分ない伊勢神宮やから、やり甲斐あるわ」
「なんで?やめるん?」
「まだハッキリ結論出してへんけど多分。ここら辺りが潮時かなぁって思ってんねん」
「なんで?まだ二十八やないの?まだまだいけるんちゃうの?」
「そうや!年齢は関係ないねん。色々あるわけや、ウチにも…」
「やっぱり、先輩のこと?」
「う~ん、それもちょっとは…でも、自分のこの先の事を考えたら、このままやったアカン思て…それに他にやりたい事もあるし」
「そうか。残念やな」
「そんな事ないよ!まだハッキリ言われへんけど、その時がきたら真っ先に留美に言うから・・・たぶん驚くで!留美」
「うそ~!ほんなら楽しみにしてるわ」
「それよりアンタはどうなん?男と」
「えっ!別に…そんな…」
留美はそれきり俯いて黙ってしまった。
ミラはその様子を見てマズイと思ったのか、話を切り替えたが留美は暗い表情のままだった。何やらしっくりこないまま四人は松林前に着いた。
「キャンプファイヤーするんやな?あの子ら高校生かな?ええなぁ!青春や、青春」
ひとり元気な、ミラがクルクル回りながらそう言った。
「上機嫌やな、ミラ。ライブまでまだ時間あるよ」
葉月が静かに言うと留美は頷き、なぜか明日太は俯いた。
気になったのか、留美が明日太の顔を覗き込み聞いた。
「どうかしたん?何かあったん?」
「いや~、その~、彼らを見てたら想い出してしもた」
そう言いながら明日太は準備に取り掛かる高校生たちを見てため息をついた。女性三人は明日太の感情を邪魔しない程度に彼を気遣った。




