留美の悩み
「今まで人の中に入ってどうだった?」
聞き方が悪かったのか、それとも留美の癇に触ったのか彼女は黙ってしまった。
「ゴメン!こんなこと興味本位で聞くことじゃなかったよな」
「ツライよ!ウチは生きてるし、幽霊でもないから人の中に入る言うても、その人を支配したりコントロールできるわけちゃうし!もし、そんな事ができても絶対せぇへん!こんな能力なんかいらん!使えるんやったら過去に行ける能力が欲しい!」
留美のその叫びは自身に掛けるシャワーの音と一緒に消えていった。しかし、オレの心の中には深く突き刺さった。
突然な留美の豹変には驚いたが、さっき彼女が言ったことを考えると、そこまでオレに思いをぶつけてくれたという事はそれだけ信頼されているからであろう。
「ゴメンね!ユウくんに当たってもしゃあないのに…」
「いいよ!オレでいいなら、いつでも。これも何かの縁って言うだろ?裸の付き合いもしたしな?」
そう言ったあとオレはマズイと思った。
でも留美は笑って流してくれた。
「過去に何かあるのか?」
「分からへんけど、過去に行けたらこうなった理由が見つかるかもしれへんし・・・」
「でも、留美。そうなると可笑しなことになるよ」
「ん?」
「仮に留美が今の能力じゃなくて、過去に行ける能力を持っていたら、今の能力を見つけに行く理由がなくなるだろ?」
しばらく考えて留美は吹きだした。
「ホンマやなぁ!ユウくんの言う通りやん。なんか、アホらしくなってきたわ。もう考えんのやめとこう。不思議やな?ユウくんと話してたら落ち着くわ!」
それは余程普段から張りつめた中に留美が置かれている証である。もちろんリゾート地ゆえのこともあるだろうが、彼女にはそれも余りあるほどの辛い状況にあったのだろう。
そんなオレたちは熱い湯船から上がって、そろそろ露天風呂から出ようとしたその時、突然目の前にある窓のカーテンが閉まった。そして、風呂の入口が開いて、ミラが入ってきた。正面にいたオレは思わず手にしていたタオルを股間に当て隠した。
「治ったん?留美。大丈夫?」
「うん。戻ってきたら、よぉなったから入ってん!」
「よかったやん。それより留美、いま誰かと話してへんかった?」
「い、いいや!誰もいてへんよ!」
「そう?おかしいな?部屋に入って、風呂の方を見たら、留美が誰かと話してるように見えたんやけど…」
「声、聞こえたん?」
「ううん。そやないけど、そう見えてん。でも、よかったわ。明日太が私より後に部屋入ってきたから…」
「あ~、それでカーテン閉めてくれたんかぁ?ありがとう」
「そうや!丸見えやったでぇ!留美。相変わらずいやらしい体してんなぁ!これは、かなり男を喜ばしてる体やわ!」
「アホなこと言うな!オッサンみたいなこと言わんといて!」
「まぁ、そんな事よりお楽しみの食事やで!これも楽しみに来たんやから、留美も早く上がっておいで」
そう言って、ミラは部屋に入っていった。
話に夢中になっていた留美は全裸であることを忘れていて、それに気づきオレを見て声を上げそうになったが自分で口を押さえた。そして、そっと着替えて部屋に戻った。
従業員が四人分の料理を運んできた。三重県は古来より御食国と呼ばれるほど、豊富な食材と美味しい料理が有名でテーブル一杯に次々と並べられている。
伊勢エビを始め、松阪牛、天ぷらや地の野菜、大きな舟盛に敷き詰められた刺身の数々。
それらを仲居さんが一品一品説明をして、その度に皆は歓声を上げる始末。美味しそうで中に加わりたい気持ちだが、もちろんオレの立場と久しぶりに再会した幼馴染のひとときに遠慮して部屋を後にした。
周辺探索とこれからの帰還のことも考えたかったから、ちょうどよかった。
「ユウくん。お腹すいてへんの?」
廊下を歩いていたオレは振り返った。
「あ~、何故かお腹空かないんだよ。ほら、こんな身だから」
そう言ってオレはおどけて見せたが、留美は何か寂しそうな顔をしている。
「そうなんかぁ。一緒に食べられたらいいのになぁ!」
オレも同じ気持ちだが笑顔で留美に頷いた。
「帰る方法もまだ分からないから潮風にでも当たってくるよ」
「わかった。食べ終わったら皆で花火するから、ユウくん先に松林のとこらへんに行っといて!」
「ああ」
そう言ってオレは海岸に向かった。




