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レベッカ  作者: 橘晴紀
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留美の能力

 言い過ぎたのと同時に、綺麗な女性にこのような事を言われるのは滅多にないから勿体ないと、よからぬ考えを恥じて留美に謝った。

「ゴメン!分かり易く説明してくれる?」

 しばらく黙って俯いている留美と目のやり場に困るオレの間には、湯船に流れるお湯の音だけが聞こえている。

「ウチは他の人の中に入る事ができるの。確かめたいことがあるから協力してほしい」

 極めて控えめに留美は言った。

「まさかそれがキミの能力?」

 問いに答えない留美はオレに背中を向け、浴衣を脱いで風呂に入る準備をしている。

 オレは逆方向を見て彼女の返答を待った。

「お願い!ユウくん」

 お願いと言われても何をすればいいのか。ただ一緒に風呂に入って、留美は何を確かめるというのか。

 期待と緊張の中、オレは衣服を脱いだ。そもそも透明人間たるオレに服を脱ぐ必要があるのか。

 湯船の端でオレに背を向けて、湯に浸かっている留美の背中は細くて、とても美しい。おそらくオレの視線を感じているのであろう、留美は背筋を伸ばし、時折緊張のためか体が震えているのがわかった。

 いつまでも眺めているわけにもいかないから、オレも同じように留美に背を向けた。他人と一緒の風呂に入るのは久しぶりだ。夏の夕暮れ、露天風呂に背中合わせで湯船に浸かる男女。過去、ここでこのように入った人はいたのだろうか。おそらく、いまい。客室露天風呂というのは本来、家族や恋人など気兼ねなく一緒に入ることに意味がある。

 日頃の疲れた心と体を洗い流してくれる。

 ところが今のオレたちの状況は果たして、そうと言えるのか。少なくとも留美はそう思っていないだろう。

「ユウくんはやっぱり普通の人と違うねんなぁ?これだけ一緒に浸かっても何も起こらへん」

「何も起こらない」という言葉に少し戸惑ったが、留美が言っていることはオレが思う事とはもちろん違う。

「とりあえず、上がってもいいかな?熱くてのぼせそうだ」

 本来まだ浸かっていられそうなのに、いつもより体が温もるのが早いようだ。それは温泉だからではなく、留美と入っているからだ。湯船から上がり、体を洗うことにした。

「ありがとう。もう分かったから…」

 留美は湯船に浸かったまま話を続けた。

「さっき大浴場で湯に浸かって、しばらくすると頭が痛くなってきてん。ウチ、長いこと他の人と一緒に風呂に入ることを避けてきて、小学校の修学旅行以来、久しぶりに入った」

「他の人と同じ湯に浸かると、その人の中に入るのか?」

「本来は同じ金属を触った相手の中に入ってしまうねん。温泉でもそうなるってことが今日わかった」

「温泉だけ?プールとか海は?」

「ない。毎年行っているけど大丈夫」

 水が原因ではないようだ。同じ金属に触れた相手の中に入るということは、それが媒体となっているのだろう。

 では温泉は何故か。おそらく温泉に含まれている成分、例えば鉄分やアルカリ成分などが関係しているのだろう。

「人の中に入るって具体的にはどういう風になるの?」

「う~ん、分かり易く言うたら、その人に乗り移るって感じかな」

「それって、いわゆる霊現象でいうところの憑依ってやつ?」

「そうなんのかなぁ?怖いもんとちゃうよ!」

 これには驚いた。留美は今までの二人と違って憑依体質、つまり霊能力があるようだ。

「ユウくん。上がって、体を洗いたいんやけど・・・」

 恥ずかしそうに留美は顔だけをこちらに向けて言った。

「あ~、ゴメン、ゴメン!気がつかなかった。のぼせるよな?」

 留美と交代にオレは湯船に浸かった。艶めかしい留美の体を一瞬、目にしたオレはすぐに反対側を見て再び聞いた。

「それで、確認のためにオレと風呂に入ったってわけだな?で、どうだった?」

「よかった」

「えっ?」

 オレは留美がどのことについて、そう言ったのか聞き直したかったが諦めた。でも、ちゃんと留美は答えてくれた。

「ユウくんがちゃんとウチの能力を分かってくれている事と、ウチがそれを確認できた事、それにこうやって気兼ねなくゆっくり話ができたこと。ちょっと恥ずかしいけど…」

 オレは正直そう言ってくれたことが嬉しかった。

 そういえばここでは、お互い能力者として辛いことが解り合える。そういう意味で留美は言ったのだろう。

「これで最初に留美が言っていたことがよく分かったよ。これじゃあ人に見せるとかの話じゃないよな?疲れるだろ?」

「うん。そやから決して自分から故意に使うことはない!人前ではなるべく不用意に物に触れへんようにしてる」

 しかし、ひとつ気になることがある。それだけ金属が原因でそうなるのに、なぜ留美はネックレスをしているのだろう。偶然に他人が触れることもあるかもしれない。

 これは留美の能力と同じくらいの謎を含んでいるような気がする。

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