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レベッカ  作者: 橘晴紀
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ミラ

 「お連れ様がお着きになられました」

仲居さんの声の後に部屋へ入ってきたのはつばの広い帽子に大きなサングラス、真っ白なワンピースを着た女性だった。

 まるで大女優のようにオレたちの前でにこやかに笑い言った。

「元気~?」

「わ~、ミラ、素敵!」

 開口一番葉月が目を輝かせて言った。明日太は目を大きく見開いている。葉月が眠っている留美を起こそうとすると、ミラがそれを制止して自分のバッグから口紅を取りだした。

 そして徐に留美へ近づき、皆に静かにするように言って、口紅で留美の額に何か書きだした。

事を終えると、ミラは激しく留美の体を揺らして起こした。

「な、なに~!」

 そう言って寝ぼけながら留美が起きると、目の前のミラが自分の顔の前で手鏡を持ち、留美を映し出すようにした。

「え~!なに~、これ~」

 自分の顔を見て留美は叫んだ。

 すると、ミラは手鏡をす~っと除けた。

「ミラ!ミラや!着いたん?会いたかった~」

 そう言って留美はミラに抱きついた。

「落ち着いて、留美。落ち着いて」

 そう言って、ミラは再び手鏡を留美に見えるようにした。

「もう!なんなん?これ。だれ~?書いたの。なんて書いてあんの?」

 留美の額には「おこして」と書いてある。

「書いてある通り、起こしたよ」

「そう書いてあんの?反対やから分からへん!ミラやろ?こんな悪戯したん」

「そうや!昔、ようウチが留美にやられっ放しやったから、そのお返し」

「もう!」

 スイートルームは笑いで包まれた。

「あ~!と言う事はさっき、俺についてた謎の模様も、ミラの仕業か?」

「なんでやねん!ミラは今着いたとこやんかぁ!」

 葉月がそう突っ込むと、留美はオレの方を見て笑った。

「相変わらずやな!みんな」

 ミラのほっこりとした言葉に留美が返した。

「そうや。皆、昔と全然変わらんわ!でも、ミラはまた一段とキレイになったな」

「そんな事ないよ。肌がボロボロやねんで」

「なんで?」

「照明にあんだけ当たってたらしょうがないわ!お肌の曲がり角もとうに過ぎて、カーブも見えんようになったし・・・」

「そうか。歌い手さんも大変やな?」

「おっさんかぁ!」

 留美の古臭い言い回しに全員で突っ込んだ。

 ミラは歌手なのか。どうりで派手な格好も似合っていて、嫌味がないのも納得できる。

「ミラ、よう言うわ!ウチみたいに専業主婦からしたら、そんなん贅沢やよ」

「そう言えば葉月。直也くん、元気してる?だいぶ、大きくなったやろ?」

 終わりそうにない女子の話に飽きたのか、明日太は窓際のイスにもたれた。オレも彼の向いに座りため息を漏らした。

 忘れていたわけではないが、仲のイイ彼女たちを見ていると、自分の置かれている立場を思わず忘れてしまいそうになる。それはイコール元の世界での死を意味し、この世界では透明人間なんて生易しいものではなく、もっと禍禍しい存在である。

 食事までもう少し時間があるので、皆は大浴場に向かった。取り残されたオレはこの時間を利用して帰る方法を模索した。過去二回の経験から、それまで協力者となってくれた羅音、雪希ともに能力者であり、彼女たちの能力なくしては帰還することができなかった。

 いや、待てよ。羅音はともかく雪希の場合は彼女の能力で戻ったわけではない。という事は必ずしも能力を頼りにしなくてもいいということだ。

 しかし、共通していることは、いずれも能力を持った彼女たちであること。今回はまだ確認していないがそれが留美であるということだけは分かっている。

 はたして留美はどのような能力を持ち合わせているのだろうか。この数時間、観察してきたがそれらしい気配はなかった。やはり留美が最初に言ったように、人に見せるものや

気づくようなものではないのか。

 大きな部屋にひとりでくつろいでいると、途轍もなく淋しさが襲ってくる。これが現実でこの世界にはオレひとりしか存在せず、さっきまでのひとときは真夏の夜の夢のように消える。その空虚な心は破られ、すぐに満タンになるほどの思考を彼女は持ってきた。

「どうした?忘れ物か?」

「ううん。やっぱりアカンかった」

部屋を出てまだ10分もたたないうちに留美は戻ってきた。

「具合でも悪いのか?」

「ちゃう。ユウくん、お願いがあるんやけど聞いてくれる?」

「ああ、できることだったらいいよ」

 留美はオレの手を引いて窓際の端にある扉を開けた。

 そこは客室露天風呂だ。そして留美は自分の浴衣の紐を解いた。

「おい!ちょっと待て!何するんだ?」

「先に入るから、ウチが呼んだらユウくん入ってきて」

「何言ってるんだ。オレはできることはするって言ったんだ」

「無理?」

「当たり前だろ!どういうつもりなんだ!」

「そうやんなぁ」

 留美は前の開いた浴衣を両手で押さえながら、寂しげな顔をした。確かに考えてみれば留美には何か訳があって、このような恥ずかしいことをオレに言っている。

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