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レベッカ  作者: 橘晴紀
23/63

客室到着

 留美と明日太で葉月を支え宿に入った。チェックインを済ませ仲居さんに案内され、客室に向かうエレベーターで最上階に向った。もうその頃には葉月の体調も戻っており、館内をチェックできるほどであった。

「もう大丈夫なん?」

「うん。ありがとう二人とも」

「疲れが溜まってたんやろ?」

「そうなんかなぁ?昨日も早めに寝たし、朝ご飯もちゃんと食べたのに…」

「子供か!」

 留美、明日太ふたりで突っ込む。

「でも、あの松林のとこだけやで!なんか、急にヘンになったの。なんかあの景色、つい最近見たような、見てないような…」

 首を傾げる葉月の肩を数回叩いて明日太が言った。

「それは葉月。デジャヴというものだよ」

「デジャヴ?で、何で標準語やねん」

 関西人らしく女性二人は素早く突っ込んだ。

「既視感言うて、以前どこかで見たような感じになることあるやろ?それや!」

「さすが、英語の先生やな明日太」

 感心する留美に申し訳なさそうに明日太が返した。

「まぁ、仕事とは関係ないけど…ちなみにデジャヴはフランス語やねん」

「あ~、そうなん?まぁ、とにかく、それやねんな?葉月」

 少し恥ずかしそうな留美に口元が緩む葉月と明日太。

「お客様。本日お泊りいただくお部屋はこちらになります」

 そう言って仲居さんは扉を開けてオレたちを案内してくれた。

「わ~!」

 部屋に入って思わず全員が声を上げ、三人は部屋中を見渡した。

「見て、見て!客室露天風呂もあるよ」

 そう言って葉月が窓側の角にある扉を開けると、そこには大人四~五人は十分入れる露天風呂があり、部屋からカーテンを開けるとガラス越しに湯船が見えた。

 最上階だけあって見晴らしがとてもよく、普通の部屋の二つ分ほどの広さで、いわゆるスイートルームと呼ばれる部屋のようだ。女性三人と男性ひとりという組み合わせを考慮して選んだのだろう。広い和室の隣に襖で仕切られたベッドルームがあり大勢でも宿泊できるようになっている。

 もちろん、それだけ宿泊代も掛かるということだ。

「留美、こんだけの部屋の割に一人あたり安かったんちゃう?」

「普通やったらね。でもそこは、使えるもんは余すところなく使わしてもらうねん」

「さすがトラベラー!」

「何言うてんねん!葉月。それは旅人の事や!留美の仕事は旅行会社で添乗員やないか!」

「分かってます、先生。ウチら着替えるから、さぁ、あっち行った行った!」

 葉月は拗ねて明日太を追い出した。もちろんオレも透明人間とはいえ隣の部屋に入った。窓の外を覗くと雄大な海が広がって何もかも忘れてしまいそうだ。

 本来、こういう所には家族や友人、恋人など気の許せる人と来るもので、オレのように自分がどういう者か分からない人間の来るところではない。

「もうええよ、明日太」

 葉月がそう言ったが返事がないので振り返ると、明日太はベッドで眠っていた。疲れていたのだろう。

 可哀想ではあるが悪戯心が芽生え、明日太の顔にベッドに備え付けられているマジックペンで落書きをした。

 僅かな時間で爆睡してもさすがにくすぐったかったの

か、額を摩りながら目を覚ました。

 明日太は襖を開けてふたりの前に立った。一瞬、間が開き次の瞬間部屋中に響き渡るほどの大きさでふたりは大爆笑した。しばらく笑いが止まらなかったが、ようやく笑いながら留美が言った。

「何それ?明日太!どないしたん?」

 留美の問いに同じく頷いている葉月。

「ん?」

 キョトンとした顔で明日太が首を傾げると、葉月は自分の額に人差し指を何回か差して、彼に鏡を見るよう促した。

「なんじゃこら~!」

 洗面所でそう叫んだ明日太は部屋に戻って来るなり真面目な顔で言った。

「ふたりとも、よー聞けよ!この部屋には何か得体の知れないもんがいてるねん。その証拠がこれや!」

 明日太は額を指しながら頷き言った。

「そうかもしれんなぁ?」

 留美と葉月は半笑いで返した。オレが明日太の額に書いたのは薄く線を引いただけなのだが、すぐさま彼が手で擦ったから額中に広がり、それがヘンな模様に見えたから明日太は不可思議現象と捉えたのだろう。

 明日太の指を見た留美と葉月は、それがインクだとは分からなくても、何かが付いて手で擦ったものだと分かった。

 まだひとりでなにかブツブツ言っている明日太を余所に、何かに気づいた留美が微笑みながらオレに目配せをした。

「ウチ、ちょっと旦那に電話してくるわ」

 そう言って葉月は部屋を出た。

「ミラが着くまでの間、ちょっと寝ようかな?」

 留美はそう言って横になった。

「なぁ?留美。聞きたいことあんねんけど」

「なに?」

「最近、葉月とよく会ってるか?」

「う~ん、どうやろ?葉月が結婚後、京都に引越ししてから、そんなに会ってないかも。こないだ葉月がウチの家に直也くん連れてきたけど…。なんで?」

「いや~、別にたいした理由はないねんけど、お前らちっちゃい時からずっと一緒やったやろ?…まぁ、それだけや」

「なんやの?なんか気持ち悪いな!他に言いたい事あんの?」

「ううん。…」

 他に何か言いたげな明日太に留美は背中を向けた。明日太は窓際のイスに腰掛け外を眺めている。

 しばらくして葉月が帰ってきた。

「留美寝てるんや?」

静かに葉月は言った。

「ちゃんと連絡とれたか?」

「うん。直也とふたりで買い物に行って帰ってきたとこやって」

 葉月はテーブルを挟んで明日太の向いのイスに腰掛けた。明日太は隣の部屋から自分のバッグを持ってきて中から何かを取りだした。

「ほら、葉月。開けてみ~」

 そう言って明日太は葉月に箱を手渡した。

「ありがとう。見つかったんや?」

「そうや。だいぶ苦労したで!国内に在庫がなかったから、先輩に無理言うて輸入してもらったんやぞ!絶対これやなかったらアカンかったんか?」

「うん。なんちゅうてもウチが初めて旦那に買ってあげたもんやから…」

「旦那もそんな大事なもん、なんで失くしたんや?」

「友達と登山行った時に失くしたんやって。なんか切ってて、沢に落としたらしいねん。今度、直也連れてキャンプ行こうってなって、失くしたの残念がってた」

「エライ拘るねんなぁ?旦那」

「ううん。違う!拘ってるのはウチやねん」

「ふ~ん!」

 箱から出てきたのはアウトドア用のナイフであった。折り畳み式にしては割と大きめで、さすがに外国製とあって頑丈なつくりである。

「あ~、それと葉月。こないだ言うてた、例のアレやねんけど…」

 明日太がそう言い始めると、葉月が人差し指を自分の唇に当て寝ている留美の方を見ながら首を数回素早く振った。

 それに気づいた明日太が囁くように言った。

「じゃあ、また後で…」

 葉月は頷いた。どうやら、このふたりには留美に聞かれたくない話があるようだ。さっき、留美と二人きりの時の明日太の態度と何か関係があるのだろう。

 オレの嫌な胸騒ぎに反するような高音で玄関チャイムが鳴った。

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