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レベッカ  作者: 橘晴紀
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第三章

 深夜のパーキングは割と好きだ。そこにいる人は皆、どこからか来て、どこかに向かう。それぞれが色々な理由で、車という文明の利器を使って未来へ進む。

 ある人は仕事で、ある人はレジャーで、またある人は帰省など。ひとりで運転している人や友人知人、恋人、夫婦、大勢で観光の人達もいる。そこには一人一人にドラマあり、

喉を潤しに、トイレや食事、寝るために来る人もいる。

 そんな夏の夜空を眺めながら、自販機に小銭を入れて炭酸飲料のボタンを押した。すると、ス~っと目の前が明るくなった。小銭を入れると、それまでスリープしていた自販機の電気がつき一段と明るくなる。それとは明らかに違って、周りが昼のようになり、見渡すとそれまで数えるほどしかいなかった人が増えて騒がしくなっている。

「またかぁ!」

 さすがに三回目となると、瞬時に状況が把握でき驚きはない。むしろ楽しんでいる。

「あの~」

 後ろでそう聞こえたので振り返ると女性が立っていた。

 オレには分かった。目の前の女性が今回のオレの協力者だ。思わずニヤつくオレを不審に思ったのか、女性は怪訝な表情を見せた。ハっとしたオレは女性の後ろにも人が並んでいるのに気づいた。その瞬間オレは女性の腕を掴んで走り出した。突然の事に驚いた女性は声も出せないでいる。

 走りながら女性に少し話を聞いて欲しいと説明して、人気の少ないところに着くと女性の手を離し謝った。

「何ですか?人、呼びますよ!」

 関西弁でそう言う女性は見た目とは違い荒い口調で言った。それはそうだろう。

 見ず知らずの男に手を引っ張られたのだから。

「ホントにゴメン!これには訳があって」

 尚もオレを睨みつける女性は一応、話を聞く余裕はあるようだ。

「人目につかない所のほうがいいんだ」

 慌てたオレはさらに誤解される言い方になって焦った。

「・・・」

 女性はその場を離れようと歩き出した。

「オレが見えるのはキミだけなんだ!」

 振り返った女性は眉をしかめた。

「何言うてるんですか?」

 オレは女性に近づき言った。

「だから、キミ以外にはオレが見えないんだ」

「そんなわけないでしょ!」

 当然、信じてもらえない。

「どうかされましたか?」

 そこに初老の男性が現れて女性に言った。

「ええ。この人が訳の分からない事言っているんです」

 そう言って女性はオレを指した。

「えっ?」

 男性は首を傾げている。それはそうだ。

「いや、だから、この人が…」

 再度、女性は言った。

「えっ、誰が?」

「ここに人がいるの、見えないですか?」

 今度は少し自信なさげに女性は聞いた。

「はい。誰もいませんけど」

「本当ですか?」

「はい」

 そう言うと男性は辺りを見渡し、一人の女性を見つけ、その人に手招きした。どうやら男性の奥さんのようで、今の経緯を説明して奥さんも確認しているが、もちろん結果は同じで女性は落胆した。

「言った通りでしょ?人目につかない所じゃないと、キミがヘンに思われるから」

「なんで?」

「キミには人とは違う能力があるんじゃないか?」

 毎度同じセリフでオレは女性に尋ねた。それを聞いて女性は目を大きくして、その後オレから目を反らした。

 パーキングで一番端の場所にある木陰まで来たオレたちは芝生に腰掛けた。夏の日差しを避けるのにはもってこいの場所だ。押し黙ったままの女性にオレは、これまでの不思議な出来事を簡潔に説明して彼女の警戒を少しでも和らげた。

 多少は安心したのか女性の表情から翳りが消えた。

「ところで今は西暦何年ですか?」

「えっ?今年?一九八六年ですけど…」

 やはりまだ半信半疑のようだ。八六年ということは雪希の時代より二年前だ。羅音の時が八九年だったから、回を重ねるごとに段々遡っている。いつまで続くのだろうか。

 もう今回で打ち止めにして欲しい。そうじゃないと身も心もとても持ちそうにない。

「お~い、留美~」

 なにやら、こちらに向かって女性が手を振りながら走って来ている。どうやら隣の女性と知り合いのようだ。

「そうや。あなたのいう通りかどうか、もう一度試してみる」

 そう言った女性は口元が緩んだ。

「こんな所で何してんの?めちゃくちゃ探したよ」

「暑いから涼んで、この人と話してんの」

「えっ?誰と?」

 当然のリアクションに笑いを堪える女性はオレに向かって言った。

「この子、葉月。ほんで私が留美。あなたは?」

「えっ、俺?俺は友二」

 女性の早いテンポに少し戸惑った。

「留美、なに言うてんの?」

「葉月。目の前の二枚目が見えへん?」

「またぁ!暑さでおかしなった?それとも、いつもの留美病?もう行くで。明日太も待ってるし」

「ゴメン!先に行っといて。すぐに追いかけるから…」

 そう言って留美は立ち上がり、今度はオレに向かって言った。

「ホンマやな。ユウくんの言うた通り。全然、葉月気づいてなかったな!」

「ところで、ここは東名高速のパーキングエリア?」

「ううん。伊勢自動車道」

「伊勢自動車道?それで君たちはどこに向かっているの?」

「これから、幼馴染四人と鳥羽へ旅行に行くところ」

 三重県か。これはまた遠くに飛ばされたものだ。

 今回の舞台は鳥羽になりそうだ。そのためにも何とか留美に分かってもらってついて行くしか道はない。

 楽しみにしていた幼馴染との旅行にお邪魔するのは気が引けるが、それも致し方ない。皆が待っているからと、オレたちは歩きながら話した。

「まだキミの能力を聞いてないんだけど、教えてくれないか?」

「う~ん、口で説明すんの難しいな、それに人に見せるもんでもないし、何より凄い疲れるねん」

 留美は今までの二人と違って、パワーを要する能力の持ち主なのか。とにかく無理強いはできない。

 糠喜びで落ち込むオレに気を使っているのか、留美は有難いことを言ってくれた。

「ユウくん。よかったら一緒に来る?他のみんなには見えないんやろ?」

「ホントに?ありがとう。助かるよ。君たちにはなるべく迷惑はかけないようにする」

「期待通りに能力を見せることはできひんけど、ユウくんが戻れるように協力はする」

 そう言ってくれた留美の言葉は有難いが、今までの通りだと彼女たちの能力と、その使い方でオレは自分の世界に戻れた。今回、留美には何か特別な事情があって人に見せる能力ではないという。しかも彼女の体に負担がかかるらしい。

 これは厄介だ。何か違う方法を見つけなければならない。駐車場に停まる車の中には先ほどの葉月、それに運転席に男性が座っている。留美は後部ドアを開けて、そこに座っている葉月を追い出した。

「なんで?留美、前がよかったんとちゃうの?」

「交代!交代。明日太もウチばっかりやったら飽きるやろ?たまには人妻を横に乗せるのもいいんちゃう?なぁ?明日太」

「なにアホなこと言うてんねん!」

「明日太、誘惑せんといてな。ウチにはカワイイ子供と愛する旦那さまがいてるんやから」

「そんなもん言われんでも分かってるわ!お前らなんか頼まれてもイヤや!ガキの頃から知ってんのに・・・」

 そう言いながら明日太は出発の準備をしてむくれた。

 車に乗ってわずか一分足らずでこの三人の関係が手に取るように分かった。車は本線に入り看板は伊勢方面を指している。留美はさっき四人と言っていたから、残りの一人は後で合流するのだろう。

 助手席の葉月、後部座席でオレの横には留美、このふたりは子供のようにはしゃいで車内はまるで遠足のようである。

 それを運転しながら時折笑う明日太。幼馴染だという三人の年齢はいくつぐらいだろう。幸いオレの声は留美にしか聞こえないので、割と普通のトーンで彼女に聞いた。

 すると留美は上手に自分たちのことをオレに教えてくれた。

「なぁ、ウチらって今年でもう二十八やな。早いなぁ。もうすぐ三十路やで」

「ウチ、まだ二十七やもん!」

 得意げに言う葉月に明日太が返した。

「誕生日来てないだけやないか!」

「なんか、明日太オモロなくなったわ。やっぱり教師になったら、ボキャブラリーも減るんかな?」

 留美の挑発にいいように乗せられる明日太。

「アホ言うな!これでも生徒からオモロイ先生で通ってんねんぞ」

「え~!ホンマに~?」

 留美と葉月は声を合わせて疑いの目で明日太をからかった。再びむくれた明日太は袖をまくって前方に集中した。

「もうひとりは男?」

 オレがそう留美に聞くと彼女は首を横に振った。なぜそう聞いたかと言うと、男ならいま劣勢の明日太にとって援軍になるが、女性ならこれ以上に不利になり何だか彼が可哀想に思えてきた。普通に考えれば両手以上に花があるということになるが、これまでの流れを見ているとそれはなさそうだ。

「葉月、ミラは何時頃着くって言うてた?」

「夕食までには着くって」

「楽しみやなぁ!ミラに会うのん。葉月の結婚式以来やわ」

「あの子忙しいもんなぁ。中々こっちにも帰ってこられへんし。あとどれぐらいで着く?明日太」

「そやな、一時間ぐらいで着くんちゃう?」

 その後も三人は修学旅行生のようなはしゃぎ振りで到着までの時間を楽しんだ。大人になると幼馴染や友人と会う時間は年々減っていき、何かの祝いや行事などがないと会えない人も多くなる。まして、旅行などはもっと困難になるから、留美たちのようにこうやって旅ができるのは幸せである。

 高速を降りたあと一般国道を走り、山間部を抜けるとそこには海が広がり、程なく目的の宿に到着した。

 宿の目の前は海岸でいわゆるオーシャンビューである。

 そのまま砂浜に行き、三人とオレは海原を拝んだ。

「わぁ。気持ちいい!やっぱ海はええわ」

「ホンマ!生き返る~」

「なぁ留美。ホンマにここでおうてんのか?全然記憶にないなぁ」

潮風に抱かれている女性たちとは裏腹に、水を差すような明日太の問い。

「ほら、明日太覚えてへん?小学校の修学旅行でここに来て、ウチら四人あの松林で花火したのん」

 留美の問いに葉月はすぐに思い出したようだが、明日太はそうではなさそうだ。腕組みして考える明日太を待つふたり。目をきょろきょろさせて、考えているようだ。

「あ~!思い出した。お前らが無理やり俺を引っ張って花火したんやったな。あの後、先生にむちゃくちゃ怒られて、俺らだけ夕飯だいぶ遅そなったんや!」

「正解!でも、ちょっとちゃう。無理やりちゃうよ。ミラが明日太を連れてきたんやで。ウチと葉月はミラが何て言うて、明日太を連れてきたんかは知らんけど」

「そうやったかな?思い出されへん」

「後でミラに聞いたらええわ」

 そんなやり取りの中で葉月はひとり、松林を見つめて何か考えているようだ。

「どうかしたん?葉月。何か思いだした?」

「う~ん、確かにあそこやんなぁ?小学生の時以外にも来たような気がする。いつやったかな?なんか最近のような、違うような…」

 葉月はそう言うと、突然しゃがみ込んだ。

「どうした?葉月」

明日太がそう聞いたが葉月は答えられない。

「なんか、急にめまいがして頭が痛い」

「じゃあ早く宿に入ろう。留美ちょっと手~貸してくれ!」

 隣で放心している留美に明日太が促した。

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