表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベッカ  作者: 橘晴紀
18/63

カレの真意

 程なくして車は駅のロータリーに着いた。ちょうど停車したところに男が立っており、沢良木に向かって頭を下げている。年配ではあるが背筋が伸びてガッチリした男だ。

 男はドアを開け、助手席に乗り込んできた。

「お疲れ様です。十五時三十分発でしたから、東京には着いているでしょう」

 男はそう言いながら、アタッシュケースから大きな封筒を取り出し、沢良木に渡した。沢良木はさっと中身を確認すると、オレが座る隣の席にほうり投げた。

「ご苦労さん。僕はこのまま東京に戻るから、君は事務所を頼む」

「はい承知しております。彼が到着すると電話を掛けるよう言ってありますので」

「思ったよりすんなり事が運んだな。てっきりヤツはごねるかと思ったのだが。金も受け取らなかったし。おかげで助かったよ。それにしても、変わったヤツだ」

「そうですね。余程恋人のことが心配なのでしょう。その恋人が陵さんと結婚するとも知らないで、哀れなヤツですよ」

「雲畑。大事なお得意先に向かって、哀れなヤツはないだろう。一銭も掛らない、何も知らない田舎モンに対して失礼だろ?」

「よく言いますよ。それは陵さんのほうじゃないですか?」

 そう言って二人は車内に響き渡り、かつ車外にも聞こえるほど高笑いをした。オレは握りこぶしで手のひらに爪の痕がつくほどの怒りに震えた。後ろから二人を殴って引きずり下ろしたい気持ちでいっぱいであった。

 沢良木たちは雪希の恋人を騙し、遠くに追いやった。

 おそらく雪希はそれを知らないだろう。恋人がいなくなっただけでもショックだろうに、その理由を知ったら・・・。

 男は車から降り、沢良木が出発しようとしたその時、前方に雪希の姿が見えたのでオレは慌てて車から飛び出した。

 出た時にオレの怒りはトランクにつく自動車電話のアンテナに向かい、車の発車を利用して引きちぎった。

 遠目ではあるが雪希が何かを手にして、しょんぼりしているのが見えた。それを見ると、さっき車内で聞いた事をどうやって雪希に伝えるかが問題だ。

「雪希ちゃん。大丈夫か?」

「ユウジさん。どうしてここに?」

 オレの問いに雪希はか細い声で答え、持っている封筒を差し出した。中には大阪行きの往復キップが一枚入っているだけだった。雪希が自分の部屋に戻ると手紙が置いてあり、その中にコインロッカーの鍵が同封されてあったので慌てて駅まで飛んできたという。

 そして、雪希は手紙を見せてくれた。そこには「仕事でしばらくの間離れます。待っていてください」とだけ書かれてあった。確かに雪希がうな垂れるのも仕方ない。

 突然キップ一枚だけを入れて、手紙でこれだけしか書いていないのだから。何か意味があるのか。外にいても寒いので、雪希と車に戻って考えることにした。

「大阪に何か心当たりはある?」

「ない。仕事って言っても、カレも市役所で働いているから、大阪とは無縁だと思うし。どうして何も言ってくれなかったのよ!突然こんな手紙でいなくなって…。私、人の心なんて読めなくていい!カレの中に入って一体になりたい!そうすれば何も考えなくてもカレの気持ちも全て分かって、いつも一緒にいれるのに・・・」

 雪希の考えは余りにも突拍子なく理解し難いところだが、テレパシーという特殊な能力を持つだけに、そう考えてしまうのか。

「雪希ちゃん。キミの気持ちも分かるけど、カレも言っているように信じて待ってあげたら?」

「だって、私には、もう私のことを分かってくれるのはカレしかいないから…。それなのに、どうして?」

 オレには雪希の涙があまりにも冷たくて、このまま凍ってしまうのかとさえ思った。今の雪希にはカレしかいない。

 そのカレがいなくなり、これから先、不安で仕方ないのだろう。それは他の人には想像もつかない大きな不安であろう。何とかしてあげたい。

 幸いオレはその役に立てそうだ。少し頭の中を整理してみよう。雪希に黙ってカレが姿を消したのには理由がある。

 それは沢良木たちが何らかの理由をつけ、カレを騙し遠くに追いやった。そして邪魔者を排除した後、沢良木は雪希

と結婚するという。その結婚の意味は何か。

「雪希ちゃん。カレとの結婚を考えていた?」

「うん。でも反対されている。私は父が決めた相手と結婚させられるの」

「沢良木か?それをカレは知っている?」

「知らないと思う」

 カレが雪希に何も言わずに出て行ったのはその事を知られないように沢良木が手を打ったのだろう。

 カレが知ったとなると必ず雪希が自分のモノにならないと踏んだのだろう。しかし、カレは気づいていた。

 だから大阪行きの往復キップを入れて雪希にサインを残した。

「雪希ちゃん。カレが往復キップを入れたのはキミに信じて欲しいからだよ。絶対帰って来るっていうことだよ。キップは今日買ったものだし、封筒の消印がないだろ?カレは昼にここでキップを買ったあと、コインロッカーにキップ入りの封筒を入れて、そして手紙と一緒にキミの家のポストに入れた。こんな手間の掛ることを何故したと思う?」

「それは…」

 少し雪希の顔が明るくなった。

「そうだよ。絶対戻って来るってことを伝えたかったんだよ。キミの事情を知っているカレがそのままいなくなるなんてないよ!」

 雪希は今朝出会った時と同じ表情に戻った。

「そうだよね。ありがとう、ユウジさん」

「雪希ちゃん、僕にいい考えがある。少し演技しなきゃいけないけど、できるよね?」

「えっ、演技するの?できるかな?」

「できるよ。カレに早く会いたいだろ?」

「ええ。もちろん!頑張ってみます」

「よし!ひとつ聞きたいんだけど、沢良木って一体何者なんだ?」

「彼は国会議員の息子で自分の父の秘書をやっています」

「沢良木。そうか!父親は元大臣の沢良木洋介か?どおりで聞いたことある名前だと思ったよ。じゃあ雲畑っていうヤツは?」

「あの人は沢良木家の番頭さんです」

「ユウジさん、雲畑さんにも会ったの?」

「ああ。少しね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ