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レベッカ  作者: 橘晴紀
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行き違い

 雪希が仕事に向かうのでオレも一緒に付いていくことにした。同行することに彼女が了承してくれたのは、他の人に会わないからという理由であるが、本当は誰かに会っても大丈夫だということを、雪希にも知ってほしいところだ。

「雪希ちゃん、もうひとつお願いしてもいいかな?」

まだ誰もいない市役所の廊下をふたりで歩きながらオレはそう聞いた。車で待機している間、お互いの身の上を話して若干打ち解けた感もあった。

 特に両方ともが特殊な能力を持っていること。

 本来オレは能力者ではないが、十二年前の雪希がいる世界にいるということが、そうなると彼女に教えられた。

 誠にややこしい話で雪希は二十七歳。オレより五つ年下になるが、オレの世界に進むと七つも年上になる。いま自分がいる世界で物事を考えれば済むことだが、前回同様僅かな間に時空を超えるなら、頭を整理するのが大変である。

 オレの思考は西暦二千年だから。なるほど雪希の仕事は全く人と接触しなくてもこなせるようだ。

 それを確認するとオレは元の世界に戻れる方法を探しついでに市役所内を徘徊した。何といってもオレはここでも透明人間なのだから。

 夕方、雪希が仕事を終えたのでオレも同じく車に乗り込んだ。彼女は仕事の合間、オレが帰るために色々と調べてくれていたが解決の糸口は見つからなかった。

 前回同様、今日の日付を聞いたのでオレなりに十二年前の今日という日を振り返ってみたが特に何もなかった日である。当時オレは大学二年生で勉強とバイトに明け暮れ、バレンタインデーのこの日はバイト先でパートのおばさんにチョコレートをひとつ貰ったという寂しい若者だった。

 車の中で雪希は前回オレが羅音の能力で自分の世界に戻れた事を話すと、同じ事をやってみようと言い、またまた髪を掻き上げ左耳を出した。もちろん彼女は羅音と違う人だし、時代や場所、能力も違う。分かってはいるがとりあえず試してみた。やはり予想通り。

 今度こそ本当に戻れないのだろうか。焦りの中、雪が降って来て余計に心が凍えた。これからどうしようか。

「とりあえずユウジさん、今日のところは私の家へ来て下さい。何かいい方法をみつけましょう」

「そんな、これ以上雪希ちゃんに迷惑はかけられないよ」

「大丈夫ですよ。なんせユウジさんは透明人間だから…。厳しい父にも分からないでしょう」

 そう言って雪希は笑った。申し訳ない気はしたが今はそれしか手がないから雪希の好意に甘えることにした。

「ユウジさん、寄るところがあるから少し付き合って下さい」

「もちろん。まさか雪希ちゃん、バレンタインデーだからチョコレートでも届けに行くのかな?」

 少しからかい気味にオレは言った。

「そうですよ。よく分かりましたね」

「えっ。冗談で言ったつもりなんだけど、でも大丈夫なの?」

 そう。雪希は人との接触がダメなはずなのに恋人ならば関係ないのか。それを見透かすかのように彼女はオレの疑問に答えた。

「朝言っていたもうひとりが、今付き合っているカレなのです」

 なるほど、それだったら付き合うのも問題ない。本来オレはここの人間ではないから、事実上そのカレが唯一雪希の理解者である。

 雪希は数年前に今の能力がついたと言っている。

 それまではおそらくごく普通の生活を送っていたのだろう。それが今では普通に接することができる人がひとりだけとは何と悲しいことであろう。

 車は公園の駐車場に停まった。そこが待ち合わせの場所だという。オレは雪希に、気を使わずにゆっくりして来るように言い、後部座席で睡眠をとることにした。

 雪希は紙袋を手にして胸をときめかせ待ち合わせ場所へと向かった。どれくらい経ったのだろうか。

 ドアが開く音と冷たい空気で目が覚めた。

「あ~、おかえり。どうだった?」

 半分寝ぼけたオレの声が聞こえなかったのか返事がない。起き上がってルームミラーを見ると、沈んだ顔で雪希が俯いている。

「どうかしたの?」

「カレがいないの」

 出ていくまでの雪希とはまるで別人のように暗い声で答えた。

「どれくらい待ったの?」

「三十分。おかしいな。時間も場所も間違ってないし…こんな事初めて。カレ、時間にはきっちりしている人だから」

「電話してみれば?」

「そうですね。ちょっと行ってきます」

 そう言って雪希は外に出て行った。何も雪が降る中、外に出なくてもと思ったが、そういえばこの時代はまだ一般に携帯電話が普及していないのを忘れていた。

 雪が降り積もる中、車のヘッドライトは雪希が入る電話ボックスを照らしている。一度受話器を置いて再び小銭を入れ、掛け直している。浮かない顔でこちらを一瞬見た。

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