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レベッカ  作者: 橘晴紀
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新たな出会い

 しばらく進むと、先ほどより多く民家が出てきた。その中にひと際大きな家があり、例えるなら御殿のようなつくりで高い塀がずっと先まで続いている。

 おそらくこの町の有力者の家だろう。大きな門があって、ちょうどオレがその前を通ったとき、静かに門が開いた。

 どうやら自動で開いているようだ。門が開き終わると、車が一台停まっていた。その車がゆっくりと動くとオレの前で停止して、運転席にいる女性が会釈をしている。

 周りを見渡したがそこには誰もいなくて、その女性はオレに向かって頭を下げている。ということは彼女にはオレが見えているのだ。嬉しさのあまりオレはガッツポーズをして車が出られるように動き、出た所で停まってくれるよう頼んだ。すると、オレの横まで車を動かした女性は窓ガラスを開けて不思議そうな顔をしている。

 オレは高揚してその女性に声をかけた。

「ありがとう。見えるんですね?」

「えっ?」

「いや、その~僕が見えるんですよね?」

「ええ」

 それはそうだ。彼女からしてみれば、この男は何を言っているのかと思っているだろう。だがオレにとってはそれこそが重要で、このチャンスを逃せば二度と戻れない。

「すいません。少し話を聞いてくれませんか?」

「何ですか?私これから仕事に行かないといけないので…」

「時間は取らせません。できればどこか近くまで乗せていってもらえませんか?」

「いや~、それはちょっと…」

 完全に警戒されている。それは当然のことだ。

 いきなり見ず知らずの男に話を聞いて、車に乗せろと言われて快諾する人はいない。弱った。

 このままでは・・・。すると、オレは閃いた。

 この方法なら必ず話を聞いてくれるはずだ。

「あなた、他の人にはない能力があるんじゃないですか?例えば未来が見えるとか…」

 すると女性はドキっとして背筋を伸ばした。それから車内に置いてあったリモコンらしきものを後方に向けた。

 ゆっくり門が閉まり、女性はか細い声で言った。

「少しだけなら…」

 そう言って後部ドアを開けてくれた。

オレは礼を言って車内に入り、女性はゆっくり車を出した。

「すいません。時間がないので簡潔に…」

 そうオレが言い掛けると女性はオレを遮って言った。

「ごめんなさい。二~三分でお願いします」

「あっ、はい」

 かなり急いでいるか、それとも目的地がすぐそこなのだろう。そうじゃない。

 一刻も早くオレを降ろしたいからだ。

「じゃあ早速。今は西暦何年ですか?」

「えっ?あっ、はい。一九八八年ですけど」

 ルームミラー越しに見える女性の顔はオレへの疑問に満ち溢れている。八八年ということは元の世界より十二年前だ。そんな風に思いを巡らしていると、女性はミラー越しにオレに聞いた。

「そんな軽装で寒くないですか?暖房を強くしましょうか?」

「いえ、大丈夫ですよ。ずっと歩いてきたから暑いくらいです」

「どこから来られたのですか?」

 そう聞かれてオレはどう説明しようか迷った。時代か場所か。どちらにしてもハチャメチャな話で信じてもらえないだろう。

「いや~、参りましたよ。トンネルを出たところで車が故障してしまって、そこから歩いて来たんです」

「え~、そうなんですか?それは大変でしたね。それにしても、その服装では・・・」

「あ~、そうでしたね。東京から来たんですよ」

 そう言ったオレだが、いくら東京といってもこれほど雪が積もる時期に薄い長袖シャツ一枚を羽織っているだけでは不思議に思われるのも仕方ない。

「え~、東京はそんなに温かいのですか?いとこが住んでいるのですけど、私は行ったことがないので・・・ゴメンなさい」

 申し訳なさそうに言う女性に悪い気がした。

「いえいえ、そんな。それよりここはどこですか?道に迷ってしまって…」

「新潟県です」

 オレにしてみればこの際場所はどこでもいいのだが、話の流れと不可解さをひとつでも埋めるためにはそれも致し方ない。それから少しの間車内には沈黙が続き、お互い何か探っているようにも思えた。

 ふと時計を見ると、彼女が言っていた時間はとっくに過ぎていて十分は経っていた。程なく女性は車を市役所の駐車場

へと停め、首を捻りながらミラー越しに言った。

「おかしいなぁ。三分以上経っていますよね?」

「そうですね」

 オレからすれば、それほど重要なことかと思ったが、女性は自らの耳たぶを触ってしばらく目を瞑り、目を開けたあと驚きの言葉を発した。

「私の耳を触って下さい」

 控えめながらしかし、大胆に女性は長い髪を掻き上げて左耳を露わにした。

「えっ!ここで?」

 動揺したオレは思わず箇所ではなく、場所を聞いた。

 他人が聞けば、車じゃなかったら迷わずそうするのかと突っ込まれそうだ。

「はい。お願いします」

 彼女は何を願うというのか。これ以上、女性に恥をかかせまいという言い訳をしながら、オレは彼女の望み通りゆっくりと耳元に手を伸ばした。

 彼女の肌は雪国の女性だけあって、白くきめ細かくヒンヤリとして、先ほどの大胆さなどは微塵も感じられなかった。

 その後彼女はしばらく目を閉じていたが、パッと目を開け後部座席にいるオレの方に振り向き言った。

「やっぱり!どうもありがとうございました。ヘンに思われたでしょう。ゴメンなさい」

「やっぱり」という言葉は気になったが、何が何だか分からないまま、何故かオレは恥ずかしい思いになった。

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