第二章
食事も終わり後は帰路につくだけだ。少し疲れたが明朝のことを考えれば、そうゆっくりもしていられない。
デザートをねだるレベッカを引っ張って駐車場へと向かった。すぐに高速の乗り口があり、それに乗ればあとは東京まで数時間。眠気との戦いにレベッカも参戦させて車を走らせた。こういう時はガムを噛むなど口を動かすのが一番いいと、何か話をしようと思ったがなにぶん彼女との共通話題もなさそうなので、さっきの羅音たちとの出来事を物語風に掻い摘んでレベッカに話した。
「へぇ、その後、女の子たちはどうなったの?」
「あ~、オレも友達の友達に聞いた話だからよく分からないけど、
みんな幸せになったらしいよ」
「え~、そうかな?その子、そんな能力があったらこの先も苦労すると思うよ」
「でも、左手さえ握らなかったら問題ないんじゃないか?」
そう言ったと同時にレベッカがオレの左手を握ってきた。
「ほら!こんなこともあるでしょ?」
言われてみればその通りだ。知り合いならば相手が握ってこないとも限らない。そうなると羅音の意志とは別に、その力が発揮されることもある。それが続くならば、それはそれで辛いことだ。羅音もそれを望んでいるとは思えない。
そんなことを考えていると、隣でさっきまで話していたレベッカが静かになった。横目で見ると寝息を立てている。
「おい!今の今までしゃべっていたじゃないか!」
オレの声も届かずレベッカの首はコクリと窓側に傾いた。程なく車は長いトンネルに差し掛かった。
出口の見えない先にはオレンジの灯りだけが永遠に続いているように見える。頼りの赤いテールランプの灯りも見えなくなり、目がショボショボとした頃、ようやく出口らしきものが見えホっとしたのも束の間、オレンジ色のトンネル灯が最後のひとつだけ緑色に見えた。
ルームミラーで確認した瞬間、すでにトンネルを出ていてオレは目の前の景色を疑った。
トンネルを出るとそこは一面の銀世界で、しかも明るい。 驚いたが人間というのは凄いもので、体が覚えているのだろう。いくらあり得ない状況だと分かっていても雪景色を見て、急ブレーキを踏むことはなかった。
東名高速のトンネルを出ると、そこは雪景色。
そんなことは通常ではありえない。今は真夏で、しかも二車線あった道路は出口を出ると一車線になっており周りは雪が積もっている。
「おい!起きろ!」
オレは前に集中しながら大きな声を張り上げた。
返事がないので横を見ると、助手席で寝ているはずのレベッカがいない。
「え~!」
ひとり車内で声を上げたが、よく考えると今さら驚くこともない。トンネルを出ると雪道になっている時点でおかしい。これはまた異次元世界に来たか、タイムスリップしたのだ。まだ続いているようだ。
とりあえず車を一旦停めよう。ちょうど待避所があったので迷わず車を寄せた。ブレーキを踏んで車を停止させると、その瞬間エンジンが切れて、回してみたがウンともスンともいわない。まるでオレが安全な所に来るまで待っていたかのようだ。仕方なく車外に出てみたが、さすがに寒くて凍え
そうだ。半袖シャツでは当たり前だ。
幸い車の中に薄いながら長袖シャツを積んでいたので、それを羽織って再び外へと出た。ここはどこなのだろうか。
雪の積もり方からみて北国であることは間違いない。雪が降っていなくて助かった。でも、いつ降ってくるとも限らない。その前に町へ着かなければ。
トンネルを出てきたから山であろうが、さほど標高は高くないようだ。前方に民家が見え、その先に町もある。
雪道を歩くのは三年前にスキーに行って以来だ。しかし、こんな軽装と普通の靴で歩くのは辛い。
どこか店を探さねば。山道を下り何軒か民家を過ぎたが、人が出てくる気配はない。
こんな寒い日にようもなく出てくる人もいないのは当然だ。しばらく歩くとようやく家の前に人がいる。
どうやら雪かきをしているようだ。
「すいません。ちょっとお聞きしたいのですが…」
そう話しかけてみたが、雪かきをしている老人は集中しているのか、それとも耳が遠いのか返答がない。
今度はその人の前に出て、大きな声で言った。
「あの~、すいません。聞こえますか?」
その老人は聞こえるどころか、目の前のオレに気付いていないようだ。ここでもオレは存在していないのだ。
ションボリしてその場を去ろうとした時、雪に滑って転んだ。ちょうどそこへ車がやって来て慌ててオレは立ち上がろうとしたが再び滑って転んだ。
そして車はオレの上を何事もなかったように通り過ぎた。予想したことだが、反射的に逃げる。
ここで存在しないからといって、その行動もなくなってしまってはおしまいだ。それから三~四人の前に出て声を掛けたが、誰もオレの存在に気付かなかった。




