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レベッカ  作者: 橘晴紀
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忍の過去

 玄関扉を静かに開け中に入ってみると、話声がしていた。ゆっくりリビング奥に進むと、忍が戻ってきていて、花梨と話している。

「…だから、どうして羅音が疑うようなことしたのよ。帰る日も知ってたんでしょ?そら、怒るのも無理ないわ。逆に羅音を疑うなんて、忍おかしいよ!」

 家の中に入った時に聞こえた荒い口調は花梨だったのだ。羅音と話していた時と違う印象なので驚いたが、それだけ親友のことを想っている証であろう。

「忍より私の方が羅音と付き合いが長いから分かるの!あの子、見かけよりも弱いよ」

 花梨は喉が渇いたのか、冷蔵庫からビールを取りだして一気に飲み干した。家を出るまでは羅音に激しい口調で捲し立てていたが、戻ってからは沈黙していた忍が口を開いた。

「花梨、お願いがあるの。これから私が話す事を羅音に絶対に言わないって約束して!話が終わったら私、ここを出ていく」

 忍の改まった姿に花梨は頷いた。

「高校時代はじめて、あのクラブであなたたちと出会って私と羅音は、よく競い合ってたでしょ?実は私、その前から羅音の事を知っていたの」

「えっ、そうなの?」

「ライブハウスで羅音が歌っていた時から彼女のファンでよく見に行っていた。それで羅音をずっと追っかけていた。私は歌のステージには上がれないけど、踊りのステージなら一緒に立てる。そう思って無我夢中で踊っていたのを花梨たちは張り合っているって言ってたけど、私はそんなんじゃなくてただ羅音と踊れるのが楽しかっただけ」

「へぇ、そうだったんだぁ!通りで私なんかが忍に太刀打ちできないわけだ。力の入れ方が違っていたのね。羅音、歌と踊りは得意だったし、ふたりにかなうはずないのも当然」

 そう言って花梨は両手で万歳した。

「よく言うわ!花梨。あそこでは一番モテてたくせに…」

「そうだったかなぁ!」

 そう言いながら静かに手を降ろす花梨。

「話を戻すね。当時、羅音のライブで仲よくなった人がいたの。それが羅音のカレ」

「え~!知り合いだったの?だったら、どうして羅音に言わなかったの?あっ、そうか!」

 花梨は何か閃いたらしい。おそらくオレと同じ考えだろう。その当時、忍と後の羅音のカレになる男は付き合っていたのだ。そう考えているのもつかの間、忍がひっくり返した。

「違うよ!花梨の想像していること。実は羅音のカレ…男の人が好きなの」

「えっ?」

 花梨のそれは言葉なのか、それとも擬音なのか、区別できないほどの音であった。同じくオレも驚いた。

「そのこと羅音知っているの?」

「薄々は感じているかも。相談されたことがあったから…付き合って半年、求めて来ないって…」

「そうか!だったら、どうしてそのことを羅音に言わないの?言えばこの間のこともすぐに誤解が解けるじゃない」

 それからまた忍は俯いて押し黙った。花梨は首を捻っている。同じくオレもそうだ。なぜ、忍は羅音と一緒に暮らしているにもかかわらず羅音のカレと昔からの知り合いだったこと、彼がゲイであることから忍と誤解される関係ではないことを言わなかったのか。

 それが女性の不思議なところと言ったらそれまでだ。

 それとも他の理由があるのか。その疑問はすぐに解けた。

「花梨。本当の理由はここから…」

 もったいぶって忍は僅かな間を開けた。

 一瞬、花梨が身構えたように見えた。

「私・・・羅音を愛しているの」

 忍の言葉が出た直後、花梨は条件反射的に背筋を伸ばしたかと思うと、目を見開いて口を開き、音なき声で言葉の意味を理解した。

「それって…そういうことだよね?」

 花梨の曖昧な問いに忍はコクリと頷いた。それで十分ふたりは理解できた。もちろん、オレにも分かった。

「忍のその想い、羅音に伝えたの?」

「・・・」

 花梨の問いに忍は首を数回横に振るだけで答えた。

 その後しばらくの間、沈黙が続きふたりとも俯いている。

ようやく花梨が控えめに口を開いた。

「忍、その~…いつ頃から…」

 そう聞かれた忍はリビングのイスに移動して話し始めた。

「私…中学の時にレイプされたの」

「・・・」

 忍の告白に花梨は今日一番の驚きの表情を見せた。

 忍は話を続けた。

「相手は学校の先生。担任ではなかったのだけど家が近所で、その男の娘、瑠奈と仲が良くてよく遊んでいた。年下だけど気が合っていつも一緒だった。ある日、瑠奈と母親が愛媛に行って不在の時にあの男に呼ばれて、そのときに…。それから私は男が怖くて…。でも、それだけじゃなくて後で分かったんだけど、どうやら瑠奈も自分の父親である、あの男に長い間辱められてたんだって。あの子は私よりも長くツライ思いをして、それなのに私の前ではそんな素振りを一切見せず、それを思うとわたし…」

 そう言ったあと忍は台所に行き、水道の蛇口を捻った。

 忍の勇気ある告白に俯いていた花梨が顔を上げた。その瞳には涙が溢れて、忍に対しての言葉を探している。

 それを察知したのか、忍はコップに水を汲み、それを花梨に手渡した。その際、僅かに微笑み頷きながら花梨の側に座った。本当にこの子たちはイイ子だ。

 オレは心の中で呟いてふたりを微笑ましく思った。

「忍…ゴメンね。私、何も知らないでキツく言ったりして」

「ううん。それと私が羅音にしたことは関係ない!謝らなきゃいけないのは私のほうよ。花梨のお祝いなのにこんなことになって」

 忍の微笑みに救われたかたちの花梨。忍は話を続けた。

「毎日、死にたいって本気で考えていた時に出会ったのが羅音。彼女の歌声に勇気をもらった私はいつしか羅音を好きになっていた。そして、羅音の追っかけをしていた私はその頃、クラブで知り合った祥司と羅音が仲良くなっていくのが嫌でずっとふたりに張り付いていた。そして、その結果私と祥司が付き合うことになったけど、その全ては祥司から羅音を引き離すため。それが周りからしたら私が横取りしたカタチに見えたってわけ」

「そこまでして羅音のことを…」

 同じくオレも思ったがひとつ引っかかった。男性恐怖症なのに、いくら好きな人のためとはいえ、よく男と付き合えたものだ。それほどの愛情が忍にはあったのか。

 引き離す方法は他になかったのか。確かに若い男が忍のようなグラマラスな女性に言い寄られたら、靡くのも無理はない。自らのツライ過去を告白したことに、相当の

疲労があったのだろう。忍は自分の部屋に戻った。

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