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ドキッ! 猫耳だらけの異世界コンビニチート生活!(パイロット版)

作者: MITT

 夕日が沈む……。

 紫がかった空の色が、黄昏と共にやがて闇色へと変わっていく。

 

 今日も今日とて、ジャングルに夜の帳が下りようとしていた。

 

 俺こと、高倉健太郎たかくらけんたろうは、店の裏手に作ってもらったハンモックの上で目を覚ますと、大きく伸びをしながら起き上がる。

 

 辺りは、そろそろ暗くなりかけていた。

 不覚……どうやら、熟睡していたようだった。


「……やべぇ、寝過ごした……」

 

 急いで、店の裏手にあるスイッチ板を操作すると、我が家でもあるコンビニ「イレブンマート」の看板にも光が灯る。

 

 緑と黄色の横縞。

 真ん中に白抜きの丸に緑でELEVEN Martと描かれたおなじみのエンブレム。

 

 店の前と周辺に設置した街灯にも明かりが灯ると、ジャングルとの境目も良く解らない街道も昼間のように明るくなる。


 もっとも、こんな街灯を設置できたのは、店の周囲だけなんだがな。

 ちょっと離れるともう、明かりなんてありゃしない。

 

 店の横の木の上の見張り小屋から、警備主任のダナンのおっさんが顔を出すと、やる気なさそうに、オニギリ片手に手を振ってくる。

 

 ……見た目は、髭面のおっさんに猫耳が生えたと言う誰得な見た目なのだが、本人はそれが当たり前なので、気にしている様子はない。

 

「よぉ、タカクラオーナー! どうだった、俺っちの作ったハンモックの寝心地は? よく寝てたみたいだったから、ほっといてやったぜ」

 

 声は渋いバリトンボイス……でも、猫耳だ。

 やる気はなさそうでも、いざとなると頼りになる……これでも、元々は盗賊団のお頭なのだ。


「悪くないね……あれなら、外で寝ても地面の虫とか気にならないし、風通しも良くって涼しい……しかも、屋根付きっ! 軽く一休みのつもりが熟睡しちゃったよ! 悪いね、こんなの作ってもらって!」

 

 言いながら、木の葉っぱの上に、山盛りにされていたどんぐりをかき集めて、コンビニ袋にしまう。

 誰だかわからないが、俺への差し入れらしかった。


 こんなものでも、軽く炒って食べるとそれなりに食える……夜食にでもいただくとしよう。


「そいつは良かった! 気にすんな、俺だって、こんな三食昼寝付きの楽な仕事にありつけて、助かってるんだ。お役に立てて何より、お互い様ってやつよ!」

 

 この猫耳オッサン、元々盗賊団のお頭だから、ここらの悪共にだって顔が効く。

 言わば専属ガードマンとして、雇ってるのだけど、見張り小屋に置いておくだけでも十分役に立ってる。

 

 王国側に犯罪者として突き出したりせずに、うちで仕事してもらうようにして、本当に良かった。

 

 だが見た目はやっぱり、猫耳のヒゲオヤジだ。

 筋骨隆々で、タンクトップみたいなのを着て、むさ苦しい事この上ない。

 

 ……猫尻尾も生えてるんだけど、全く可愛くない。

 

 でも、俺も人のことは言えない。

 

 歩くたびに足にビシビシと当たる尻尾の感触、ちょっと尻に気合を入れるとビョコーンと立つ!

 

 なるほど、これが尻尾のある感覚というものか。

 最初はそれまで無かったものの感覚に戸惑ったが、最近は、結構自由に動かせるようになってきた。

 

 嬉しかったりすると勝手にブンブン動いたり、ビビると悲しいくらいしょぼくれて垂れ下がったりするので、ある意味感情のバロメーターみたいなもんなんだがね。

 はっきり言って……誰得だ。

 

 そして、頭の上には猫耳……髪色に合わせて、毛色は黒。

 

 俺は、自前の耳と合わせて4つの耳を持つ男。

 

 それが今の俺だ。

 イヤホンで音楽を聞きながらでも、高性能な猫耳がかけられた言葉や周囲の物音を全て聞き漏らさない。

 

 なんか、猫耳モードと人耳モードみたいな感じになってて、こっちで聞くぞって気合入れると切り替えられる。

 まぁ、便利じゃある。

 

 だが、三十路を超えたいまいち冴えない優男が猫耳と猫尻尾……絵面としてはなかなか微妙だ。

 

 こんなものをどうしたのかって? 気がついたらなんか生えてた。

 

 けど、この猫耳と猫尻尾のおかげで、俺はケモミミ達からは、お仲間扱いされている。

 むしろ、普通の人間の住む隣国の王都の方では、俺の居場所なんてなかった。

 

 もっとも、それで不都合があるかと言えばそうでもない。

 

 なぜなら、俺はケモミミをこよなく愛する男。


 まさに、けだものはフレンズ。


 世にケモナーが増えるきっかけとなったあのアニメ。

 二期が見れそうもないのが残念でならない。

 

 やっぱさ、女の子にケモミミとか、最強だよな?

 猫耳もいいけど、犬耳もいい……狐耳とかも最高だ。

 

 ネズミイヤーも可愛くて良いが。

 うさ耳だって、最高だ。

 

 それに、女の子のお尻から伸びる尻尾って、いいよなぁ……サラサラでふわふわ。

 本人の感情に反応して、様々な動きを見せるそれは、もはやエロスすら感じる。

 

 ああ、ケモミミ愛を語らせたら、俺はちょっと長いよ?

 

 ……だが、別に俺自身にケモミミが欲しかった訳じゃない。

 でも、生えてるならしょうがない。

 

 猫耳ヒゲダンディーなダナンのオッサンも、別に文句なんて何一つ無い。

 だから、俺もそっとダナンに手を振り返すとあたりを見渡す。

 

 そこらのジャングルような森の中から、粗末な衣服を着た猫耳の小さな子供みたいなのが一人、また一人と湧いてくる。

 

 ……うん、和むなぁ。

 皆、ちっちゃくてかわいいよ。

 

 時刻は夜の6時……日本では、皆仕事を終えて、帰宅し始める時間帯。

 ここらは割と赤道直下みたいなところらしく、年中ほぼ同じ時間に日が沈んで、同じ時間に日が昇る。

 

 季節感も全然なくって、年中常夏、むしろとっても暑苦しい。

 

 けどまぁ、6時に帰れるなんて、実際はごく一部のホワイトな仕事の奴らだけなんだがね……俺には、昔から休日なんて物は存在しなかった。

 

 オーナーが24時間営業とか、年中無休とか、赤字のコンビニじゃそんなもん常識だ。

 

 なにせ、オーナーが仕事すれば、バイト一人分の人件費が浮く。

 帳簿の上で、俺にも給料を払ったことにすれば、その分税金対策にもなるし、自由に使える裏金が出来るようなものだ。

 

 深夜バイトなんて、最近はなかなか集まらないし、時給だって深夜割増が入るから、1000円を軽く超える……だったら、俺がやればいいじゃん! って必然的にそうなる。

 

 元々、家がコンビニ経営だったから、夏休みに限らず、休みの日は当たり前のようにコンビニで仕事してたからなぁ……。

 小遣いなんてなかった……金が欲しけりゃ、店で働く。

 それが俺の家の常識で、むしろ、それが当たり前って思ってたんだ。

  

 なんでまぁ、休みなく仕事もだけど、昼に寝て、夜に仕事って言う昼夜逆転生活も何の問題もない。

 

 この異世界の住民、猫耳達は夜のほうが元気だし、そろそろ鉱山労働から開放されたり、ジャングルの中で狩りや木の実集めに駆け回ってた子達がお腹を空かせてやってくる。

 

 店のとなりの空き地で、テントを張ってゴザを敷いて、手ぐすね引いて待っていたオロシャ婆様の買い取りコーナーに、皆行儀よく並んで、その日の獲物を現金に変えていってる様子が目に入る。

 

 この子達は、現金を手にするとホクホク顔でコンビニへ入っていって、手にした予算の範囲内で好きなように買い物をして、ねぐらへと帰っていって、戦利品を堪能して一日を終える。

 

 このコンビニ、昼間は割と暇なのだけど、メインの客層が皆、こんな調子なので、夜のほうが大賑わいになるというのが日常だった。

 

 今、店に来てる子達は、朝早くから動き出して運良く獲物をゲットできて、早めに戻ってこれた運のいい子達なんだけど……。

 もう一声って粘る子も多いし、獲物にありつけなくて、夜遅くまでジャングルで粘る子だっているから、ぶっちゃけまだまだ氷山の一角に過ぎない。

 

 この子達は、仕事の代価にお金をもらって、そのお金でこのコンビニで食べ物を買って、お腹が一杯になったら、身体を休めてまた仕事をして……。 

 そして、俺は彼らが商品の代金として支払った金を使って、商品を仕入れて、ものを売る。


 その商品は、日本から仕入れたコンビニの商品がメインなんだけど、王国の商人から買い入れたこっちの世界のものだって多数揃えている。

 

 言わば経済活動の一環。

 猫耳達を王国の経済に組み込めるようにするのにも、結構な苦労をした。

 

 金がなくて困ってる奴らに、タダでボランティアで食わせてやるのも緊急援助的なものなら、それもありだが……長期的には、収入を得られる仕事を与えてやるのがベストなんだ。

 

 猫耳達に仕事を作ってやるために、鉱山を買収したり、ジャングルで手に入る獣肉や川魚、木の実、薬草やらを換金する手段のために、王都で素材卸業を営んでいたオロシャ婆様をここに常駐させるように働きかけたり……。

 

 商人たちが行き来する王都へ続く街道の整備だって、結局自分たちでやる羽目になった。

 店の周りだって、油断してると雑草に飲み込まれていくから、日々の草むしりも欠かせない。

 

 虫対策も大変だった。

 油断してるとデカいアリの行列が店の中に続いていたり、夜になると窓ガラスが虫だらけになったりするのだ。

 

 しかも、もれなくデカい。

 10cmもあるガガンボやら、手のひらサイズのコガネムシとか、ヤバイ。

 

 虫避けの結界を張れる結界師のタマユラさんと知り合ってから、定期的に結界張ってもらえるようになったから、虫問題も解決してるけど……最初の頃はそりゃあもう酷かった。


「あ、オーナーさん、こんばんわっ!」


 いつぞやか、奴隷商人から助け出した猫耳の女の子が俺を見て、ペコリと頭を下げていく。

 

 ここらが無法地帯だからって、割と好き放題、搾取されまくりだったのを考えると、この子達も随分まともな生活が送れるようになった。

 

 そう思えば、大いなる進歩。

 俺も、この愛らしいケモミミ達を幸せにしてやるんだって、頑張った甲斐があった。

 

 今の所、お店もなんとか黒字経営で軌道に乗ってきたし、商人ギルドから借りた借金の返済のめども立ってきた。

 むしろ、これからが本番……気を引き締めないとな。

 

 次の目標は、王都で二号店を出店して……ケモミミ王国の他の地域にも進出したいと考えているんだけど。

 人材確保に育成、店舗の建築、この世界側の流通ルートとか、課題もいっぱい。

 やれやれ、商売ってもんは一瞬たりとも立ち止まれない、終わりなき道ってところだ。

 

「オーナー、そろそろ商品が足りなくなりそーです。お弁当とオニギリの棚が空っぽですぅ……皆、欲しくても買えないって、にゃーにゃー言ってますにゃー」


 猫耳バイト店員の一人、モモが裏口から出てくると不安そうに訴えてくる。

 現地住民で、猫耳族の彼女は、身長130cmくらいのちびっ子。

 

 黒髪ロングの小学生が猫耳カチューシャでも付けたような見かけをしているのだけど、実はこれでも大人。

 

 猫耳と猫尻尾以外は人間の子供と大差ない……所謂ケモミミ少女だ。

 かわいい。

 

 この付近に住んでいる現地人、猫耳ことミャウ族の子達は皆、小柄で子供みたいに見えるんだけど、俺みたいな異世界人もすんなり受け入れてくれたし、何より、このイレブンマートにとっては、大事なお客様達だ。

 

 モモは最初にこの世界に飛ばされた直後にちょっとした縁があって、それからバイト店員として雇ってるんだけどね。


 だから、一応最古参の店員でもあるんだけど……。

 気弱でいつもおどおどしてるから、レジや接客ではなく、商品の補充や店の内外のお掃除を担当させている。

 

 レジや接客は、もっぱらモモのお姉さん、ミミにまかせている。

 向こうは強気でしっかり者のやっぱり猫耳ちゃん。

 

 背丈も大差ないんだけど、髪色は……茶色と白のメッシュの入ったボブ・ショートの元気っ子。

 

 レジ前に出来た客の行列をマシーンのように捌いてる……最初の頃はグダグダだったんだけど、最近は流石に手慣れてきたので、実に手際がいい。

 

 オロシャ婆様が、通りがかった行商人を無理やり、助っ人として動員したことで、長蛇の列が出来ていた買い取りコーナーが回るようになって、パラパラ程度だった店の方も混雑し始める。

 

 こちらも助っ人として、王都の商人ギルドから派遣してもらった人族のお姉さんオルマーさんが、ちょうど店に入ったところなんだけど、いきなりの大混雑を目にして、オタオタしてる。

 

 眼鏡の似合うおっとり系のちょっとドンくさい人……今日で三日目。

 多少は慣れてきたようなのだけど、所詮は新人……どうにも手際が悪い。

 

 早いとこ手伝ってやりたいんだけど、こっちもやる事があるから、そうもいかない。

 

 とりあえず、ここは踏ん張りどころって事で頑張ってもらう。

 

「うーん、ちょっと足りなかったか……。今日は思ったより、客足が早かったみたいだね。大丈夫、ちゃんと夜の分は大目に発注してるから、モモは搬入受け入れの準備でもして、お客さんにはちょっと待ってもらっててよ。そいやテンチョーは?」


「テンチョーは二階で寝てますにゃー。夜まで起こすなって言ってましたにゃ」


 テンチョー。

 

 このコンビニの店長でもあり、マスコットでもあり、割と最強な猫耳少女。

 

 俺以外の数少ない日本の事を知るものであり、俺の相棒でもある。

 

 元々、うちのお店に勝手に住み着いて、名誉店長と称してして置いてやってた野良猫だったんだけど。

 こっちの世界に来たら、猫耳の女の子になっちゃった上に、何故かこのコンビニの店長になった。


 ホントの名前は、マヨネーズって言うんだけど、本人はこの名前で呼ばれるのを激しく嫌う。

 

 ……俺が悪いんだけどな。

 俺、マヨネーズがあればなんでも食えるから、ついそんな名前を付けちゃったのだ。

 

 見た目は、日本で雇ってたクソビッチバイトJKのエリカにそっくりなんだけど、テンチョーのほうが性格は全然いいし、何より猫耳と猫尻尾……最強かよ。

 

 しかも、強力な魔法やら、尋常じゃなく強い腕っぷしまで兼ね揃えててて……やっぱ、最強じゃないか。

 

 ……以上、本作ヒロインテンチョーの説明終わり!

 

 細かいことは本人が起きてきてから。

 今日は、昼ごろまで一人で店番をしてくれてたし、この調子だとミミとモモが上がるのと入れ替わりに、店番をするつもりなのだろう。

 

 なお、うちのシフトは0時と12時の12時間勤務の二交替シフトとかなりブラックな状態。

 

 12時から0時をミミ、モモのコンビ。

 0時から12時までは、テンチョーや俺、もうひとりの従業員が入るようにしてたんだけど。

 

 そいつは、現在出張中……元々、この世界の行商人だったから、店にいる事の方が少ない。

 

 正規の商人ライセンス持ちで、国境なんかも関係なしで、動けるもんだから、日持ちするコンビニの商品を王都の人間たちに売りつけたり、王都から様々なものを調達してきたりと、非常に便利働きしてくれている。

 

 もっとも、出張中は人が足りなくなるので、ピンチヒッターとして、商人ギルドから回してもらったのがオルマーさんとキノさん。


 この人達は、一週間いくらとかそんな感じで商人ギルドから派遣され、仕事をする派遣社員みたいな感じの人達。

 彼女達と俺とで、直接的な金銭のやり取りを発生させてはいけない決まりになっていて、あくまで、雇い主は商人ギルド。

 

 だからと言って、無茶な仕事はさせられない……休みもちゃんと与えないといけないし、労働時間も最大12時間までと決められてる。

 

 まぁ、キノさんの方は、今日はお休みなんだけど。

 二人は、三日働いて一日休むというシフトで、夕方6時から翌朝6時までのコアタイムの助っ人として、働いてもらうことになってる。

 

 となると……日付が変わるまでは、ミミ、モモ、オルマーさんの三人体制だけど、それ以降はテンチョーとオルマーさんだけか。

 朝の6時には、オルマーさんも開放しないといけないから、朝の6時から12時まではテンチョーだけ。

 

 見てると、オルマーさんは戦力としては微妙な感じなので、俺も手伝わないと絶対回らないな……これ。

 

 うん、こりゃ駄目だ……どうみても、人手不足です。

 最近は、ジャングルに広く散っていた猫耳達もこのコンビニの近くに居を構えるようになってきて、商圏内人口が以前よりも格段に増えつつある。


 要は、右肩上がりでお客さんが増えていっているのだ。


 商品発注数もむしろ、余らせるくらいの感覚でないと品切れを起こすことだって珍しくない。

 やっぱりバイト戦士を増やさないと。

 

 それにせめて、三交代制に出来るようにしたい……。

 

 猫耳に限らず、この獣人の国のケモミミっ子達は概ね、タフなんだけど、休日もロクに与えられないのは、オーナーとしてかなり心苦しい。

 もう疲れましたって言われて、辞められてもぐうの音も出ない。

 

 モモやミミは、文句言うどころか仕事と食事にありつけて、お金も貰えるってんで、普通に喜んでるんだけど、コンビニの付属品じゃあるまいし……。

 

 ちなみに、二人はお店の裏に粗末なテントを建てて、寝泊まりしてるような有様。

 

 暇だからって、勤務時間外でも手伝ってくれることもあって、食事と寝てる時以外はずっと仕事してるような日だってある。

 すんごい助かってるんだけど……仕事とご飯、寝るの三つだけってのは、さすがに……。

 

 こうなったら、猫耳店員を倍に増やすか、ギルドに更に派遣労働者を送ってもらうか……そもそも、王都に買い付けに行った犬耳のノンナの奴がかれこれ、一週間も帰ってこないのが悪い。

 

 あいつだって、うちの従業員の一人なんだし……何処で油売ってるんだか。

 三日で戻るとかウソばっかじゃないか……。

 

「さて、そろそろかな……」


 時計を見ると、夜の6時を回ったところ。

 そろそろ、商品搬入のトラックが来る頃だった……。

 

 搬入の際には、オーナーたる俺かテンチョーが立ち会うようにしてるから、決して暇人してる訳じゃないのだ。

 

 などと思っていると、いつもどおり何処からともなく、道なき道を流れ星のマークを付けた商品搬入のトラックがクラクションを鳴らしながら走ってきて、店舗横の搬入スペースに横付けする。

 

 最初の頃は、来るたびに物珍しさから、人だかりならぬ、猫耳だかりが出来てたのだけど、一日二度三度とやってくるので、いい加減見慣れてきたらしく、特段の反応もなかった。


「ちゃーす! オーナーさん、受け取りのサインをおねやす」


 帽子を目深にかぶった耳ピアスのチャラい感じのお姉さん。

 

 どうやってここまで来てるのかとか、卸売センターになんと言って、商品を受け取ってるのかとか、もう突っ込みどころも聞きたいことも、てんこ盛りなんだけど、いつもまともに答えてくれた試しがない。

 

 でも、基本夜の6時と朝の6時の一日二回……発注した商品を確実に届けてくれる。

 

 特別料金が発生するものの、緊急発注をかけると、二時間以内に持ってきてくれたり、割と至れり尽くせり。

 我が異世界コンビニの生命線と言える存在だった。

 

 なんだけど、異世界のはずの日本から当たり前のように商品を運んでくる辺り、色々訳が解らない。

 

 最初、この世界にコンビニ諸共飛ばされて、それでもあるものだけでも売ろうって事になって、結局あっという間に商品が枯渇して、途方に暮れる羽目になったのだけど……。

 

 半ばやけになって、いつも使ってるストアコンピュータの商品発注タブレットで、商品の発注した。

 そしたら、何故かネット回線も日本に繋がったままになってて、普通に受け付けてくれた。

 

 どうやって届けるつもりなのかって思ってたら、いつもどおりの時間に当たり前のように配送トラックがやってきた。

 

 発送元は、以前と変わらずイレブンマートの卸売りセンターになってたし、誤発注の際や什器の故障の際などに連絡する、カスタマーサービスセンターに連絡したら普通に電話も繋がった。

 

 「何か問題ありましたか?」なんて言われたので、思わず「問題ありません! 今後とも宜しく!」って言ってしまった。

 

 たぶん、深く考えたら負けだって、俺は悟ったのだ。

 

 もしかしたら、この配送業者に俺を日本まで運んで! とか言えば、運んでくれるような気もするのだけど、俺は俺なりに、このケモミミの国をコンビニの力で立て直すという目的を持っているので、帰る気なんてサラサラ無い。

 

 繰り返しになるが、俺はケモミミをこよなく愛する男。


 ケモミミのいない日本なんて、全く未練はなかった……ああ、さらば日本!


 俺はこのケモミミの国にケモミミに囲まれて、骨を埋めるのだ……。

 俺の決意は鋼のごとく硬く、動かざること山のごとし、揺るぎないのだ。


 搬入品と伝票を照らし合わせながら、数と品目が発注通りなのを確認し、サイン……と。

 

「これでいいかな……いつも、時間どおりだねぇ……道とか混んでたでしょ?」

 

 モモとオルマーさんが商品の入ったバケットをバックヤードや冷蔵庫へと運んでいくのを横目に世間話を振ってみる。

 

「ええ、まぁ……うちは時間厳守、どこだって迅速配達をモットーにしてますからね!」


「それが、例え異世界のジャングルのど真ん中でも?」


 思い切って、核心に突っ込んでみたのだけど、お姉さんは、ニヤッと笑う。


「そのとおりっ! 我がシューティングスターの宅急便は、異世界だろうが、銀河の果てだろうが頼まれたら、何処だって配達しちゃうのでーす! 恐れ入ったかな?」


「……銀河の果てって……このトラックでかい?」


「まぁまぁ、細かいことは言いっこなしで! オタクもアタシが来なきゃ、やってけないんでしょ?」


「まぁ、そうなんだけどね……ちょっと説明不足かなーみたいな」


「アタシも、言わば雇われドライバーなんでね。アタシの仕事は物を運ぶだけなんですわ。細かいことは知ーらないっ! んじゃ、次の搬入は明け方っすかね。また来るんで、よろっしー」


 軽い調子で、伝票を受け取ると、空のバケットをトラックに詰め込んで、すっかり日が暮れきった道なき道をトラックが走り去っていった。

 

 ここは異世界、ケモミミの国。

 

 このコンビニもろとも、遠く日本から異世界に飛ばされた俺は、異世界チート俺ツエーなんぞに、目もくれず、日々コンビニで商売をする毎日。

 

 このケモミミの国も、元々は獣人王と呼ばれる英雄に統治された……この異世界でも有数の強国だったのだけど。

 どこぞの帝国が獣人王を騙し討ちして以来、国としての体制が崩壊。

 

 この世界でも随一の広大な国土と兵力を誇っていた獣人の国も、周辺国から、寄ってたかって食い物にされ、もうズタボロ。

 精強で鳴らした軍隊もバラバラになって、勝手に群雄割拠し始めたり、弱肉強食、力こそ正義みたいな調子で、ここらのような辺境部に至っては、完全に無法地帯。

 

 この猫耳達も俺が来る前は、隣国から進出していた盗賊団やら、野盗に落ちた元兵隊達に、奴隷同然に扱われ、ほとんど自給自足で細々と生きながらえていたような有様だったんだけどな。

 

 とにかく、街道沿いとは言え、こんなジャングルのど真ん中にコンビニ諸共飛ばされてしまった俺は、それなりに苦労して、この猫耳達をドン底生活から救い上げ……。

 仕事をして、お金を貰って、食べ物に困らず、ちょっとした贅沢が出来る……そんな当たり前の生活を取り戻すべく、色々頑張ったのだ。

 

 何故ベストを尽くしたのかって……そりゃ俺にはケモミミへの愛があったから。

 

 愛は地球のみならず、いろんな物を救うのだ。

 

 俺はこの殺伐としたトゲトゲ肩パットとか釘バットヒャッハーが幅を利かす、世紀末のような有様のケモミミの国を立て直す礎になる……そう誓っているのだ。

 

 暴力とか、権力、支配……そんなものは必要ない。

 

 俺に出来ることは、商売と流通、経済についての数々の知識。

 

 ……そして、日本から金さえ支払えば、いくらでも商品を送ってもらえるこの謎チートシステム。


 ここだけの話、世界規模ネット通販最大手、アムゾンに頼んだ商品ですら、いつものおねーさんが配達してくれる。

 

 ちなみに、電気、ガス、水道、電話といった基礎ライフラインも普通に使える。

 どこから、繋がってるのかはまるで解んないし、請求書もしっかり日本から回ってくるんだけどな!

 

 こんな未開のジャングルだと、これだけで十分チートだと思う。

 

 明らかに人知を超えた何かの意志みたいな物を感じるのだけど……その辺は、気にしないことにした。

 何処のどいつが俺にこんな事をやらせて、何を企んでいるのかは解らないけど。

 

 悪いが、俺は俺の思惑で動くし、ぜってー止まらないぜ?

 

 なぜなら、それは愛ゆえに! 

 こうなったら俺は、炎より熱き心で我が道を行くのだ!

 

 くくくっ……わが征くは星の大海……ならぬ、わが征くは深き緑の大森林ってとこか。

 

 そう言う事なら、この一言がいいかな。

 

 ……ジャングルの歴史がまた1ページ。

次回作のパイロット版です。

面白そうって思ったら、ブクマ、評価、感想でもお願いします。


なお、この短編は物語開始時点から、大分経ったあたりのとある一日を切り取ったものです。


本編開始の折には、割烹とこの場を借りて告知の予定です。

今しばらくお待ちいただけたらと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] ひゃっほう猫耳だ! ケモミミの大国とか楽園ですね。
[良い点] まさかの本人猫耳。 ダナンのおっさん筋肉猫耳。 キャラ立ちそうな娘達がチラホラと! マヨネーズ。 便利そうな設定! [気になる点] ケモミミの国での商売なんですかね? 商売相手もケモミミで…
2018/03/29 12:59 退会済み
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