無銭飲食集団ゴチス
読んだからって食い逃げはしないでくださいね。
犯罪ですよ。
「デネーズにようこそ! なんにも出ねーず」
おいおい、その親父ギャグはダメだろ。ましてやバイトで働いている店で。
と、この物語の主人公である安城月子は思った。
「や、やあ、日向ちゃんがここで働いているなんてしらなかったな。言ってくれれば来なかった……じゃなくて、もっと早くお食事に来たのにな」
彼女の名は高井日向で月子の同級生である。
「ふん、あんたに食わせるものは無いつーの! 大方となり町なら顔が広まってないからうまくタダ食いでも出来ると思ってやってきたんでしょ?」
ギクリ、月子は図星を突かれた。月子は無銭飲食することに取り憑かれている。いや、それこそが信念だとさえ思っている。それこそが青春だと思っている。
「だって、お腹いっぱい食べてスリルを楽しめるんだもん」
「本音を口から漏らすな!」
ベシャ!
日向は月子にお冷をぶっかける。
「ひど~い。お客様にそんなことしていいわけ?」
「では、お客様ご注文をどうぞ」
「まだ、決まっていないかな」
「こ、こいつ……。ではお客様ご注文がお決まりになりしたらお呼び下さい。私をね」
「え? 日向ちゃんをテイクアウトするつもりはないよ」
「注文したい時には私を呼べと言ってんだよ!」
「怖いな~」
日向は半ギレ状態でその場去っていく。
キレるのも無理はない。月子は食い逃げの常習犯として学園内で有名だ。そんな月子と同じクラスにいる日向は本人の勝手な思い込みで肩身の狭い思いをしている。そう月子は日向を認識している。だからといっても日向には悪いが正直月子の勝手じゃないかと思っている。始末におけない。
「チッ、あいつらはまだ集合しないの? モブ夫、デブ太郎、ユダ吉、クリスティーナ」
全てあだ名ですが面倒なので本名は割愛させていただきます。
男三人、女二人の伝説の極悪食い逃げ集団ゴチスメンバーである。伝説とか極悪かは本人たちの売り文句でただ言葉に酔っているだけである。
もともとゴチスは十三人から構成されるメンバーであったが……ヒソヒソという名の伏兵(警察)によって間引きされたというか所帯が重すぎて動きづらいとういう理由で今は五名になっている。いずれも、生え抜きの手練ではあると本人たちは思い込んでいます。
「デモーズにようこそ! いらっしゃいませ」
快く接客する声が聞こえたかと思えば舌打ちする音がする。
「日向がメンバーの一人に出くわしたのね。ようやくきたかあいつら……」
待ち合わせの時間より数分遅れての到着である。極悪食い逃げ集団と名乗りながら肝は小さい連中なのである。
「や、やあ、お待たせ月子。もうやめようよ。こんなこと。普通に食事したほうが美味しく食べられるよ」
「るっさい! モブ夫のくせに生意気」
ゴチスは一枚岩の集団ではなかった。どちらかといえばモブ夫は気が弱いだけに巻き込まれているだけ。付け加えてモブ夫はラノベ主人公並にモテる。モテる要素が皆目見当つかないがあえていえば優男であるというわかりやすい理由だ。そこが月子は気に入らない。顔以外に取り柄のない男ということでモブ夫と呼んでいる。
「月子! モブ夫の言うとおりよ。こんな馬鹿なことはやめなさいよ。はい、モブ夫マッカランよ。私からの奢り」
「ちょっと! 日向さん、僕は未成年」
「て、いうよりファミレスになんで高級ウィスキーあんのよ? つうか、なんでモブ夫には優しいのよ」
「べ、別に。あなたにも特別にドブの汚水をあげるわ」
「いるか! あるのかよ! そんなもの」
「特別メニューよ」
その様を見て、女は怖いなと辟易するモブ夫であった。
「それより、私は日向さんに聖水に例えるアレを所望したいな」
「ユダ吉、いつの間にいるのよ! あんた、ファミレスをなんだと思っているわけ?」
「お前もな、月子」
呆れながら月子とユダ吉に水をぶっかける日向……。しかし。ユダ吉は興奮気味である。
ユダ吉は美形であるが趣味が弩変態であるため男女共に距離を置かれる異端児である。
「わ、私はモブ夫君の聖水がいいな」
「わ、我は食べられれば何でも食す」
「るっさい! デブ太郎、クリスティーナ」
ようやく、ゴチス全メンバー集結である。日向はげんなりとした。癖のある連中である。無理もない。
デブ太郎は名前の通りの容姿でクリスティーナは名ばかりの女の子だ。
クリスティーナは兎に角芋臭い容姿で地味だ。変態加減はユダ吉と双璧である。
「クリスティーナさん。君が望むなら僕は頑張る!」
「やめなさいよ。モブ夫」
言葉の通りに月子はモブ夫に変態行為をやめて欲しかった。食い逃げ集団が変態痴態集団になってしまう。
「ったく。モブ夫はどうしてクリスティーナが好みなわけ?」
「え? いやだな~僕がそんなこと言った?」
「普通に気付くでしょ?」
「月子にはモブ夫君を渡さない。モブ夫君としゃぶしゃぶパーティしていいのは私だけ」
「なにキモイ表現しているのよ。こんな奴はプライベートではいらないわ」
「でも、メンバーとしては必要なわけね」
「だって、私たちは伝説の極悪食い逃げ集団ゴチスよ! S級首よ」
「月子ねえ、飲食店の中で大声だして犯罪宣言を公言しなでよね」
「いっけねえ。てへ」
日向はイラついて月子にマッカランをぶっかけるのだった。あまりの酒臭さにむせる月子をみていいな~羨望の眼差しをみせるユダ吉がいた。
「どうでもいいけど腹減った!」
デブ太郎の台詞でこの場はしめた。
「それではお客様ご注文をお願いします」
日向の上司店長は月子たちのことをまったく知らず友人連れてきてふざけているのだと思い説教をしてからまともに接客するように指導する。
月子かブチ切れてどうにでもなれと思い普段どおりに働くことにした。食い逃げの対処するのは私の仕事ではないとは言い切れないが責任を負うことはない。だが、知り合いということで連座されることは正直気にはしていた。だけど、店長命令で真面目に仕事をしたといいわけはできる。こいつら食い逃げしにきたんですよと告げ口したところでまともにとりあわないだろう。ならば、店長に落ち度があるとそう決め付けることにした。
私は悪くない。
「私たちは悪くない」
「いや、お前たちは罪悪感もてよ!」
「大丈夫ですよ。日向さんお金は僕が持ってきていますから」
「ちょっと、モブ夫! ゴチスとしてのプライドはないわけ?」
「ないですよ。いい加減にこんなことやめましょうよ」
「ふむ、そうだな。金ではかえられないかけがえないものを求めようか。私は日向さんの黒アワビを所望する」
「ちょっと、ユダ吉は黙ってなさい! 変態ゲスが」
「つうか、私は黒くないわよ! って、ものすごく最低なセクハラね」
「私は本気だよ」
「なおさら、タチが悪いわ!」
「そんなことより、お店にある全種を食べたい!」
ゴチス一同は豚太郎の意見がもっともだと思いとりあえずありったけ注文した。
「ウフフ、モブ夫君あーん」
「ちょっと、クリスティーナさん熱いよ! しかも、そこは口じゃないよ。熱い、熱いちょっとやめて」
「ホントは下のお口にしたいの」
「男には下の口はないでしょ。って、なにを言わせているのよ!」
「それじゃあ、下のパオーンにしたいの」
「そう言いながら、ラザニアを乳首に攻めているし。あと、いつの間にかはだけているね。この脱がし上手」
「食べ物をそういう粗末なことに使わないでね!」
「日向、まだ私たちの傍にいたの? 仲間に入りたい?」
「月子達がやかましくて目立つのよ」
それは、そうだと月子は思う。よそに豚太郎はこう言った。
「どれもこれも美味いぞ~! 最高だぞ」
月子もそう思った加えて食い逃げするのだから格別に美味い。
「豚~! よく言った。美味しいよね」
「うんうん、満足、満足」
「私は黒アワビが食べたかった」
「変態はうるさい」
「さて、私はお手洗いに行きたくなった。日向さん私と一緒に個室で食事といきませんか?」
「トイレで私と食事? あんたはどういう性癖しているのよ? 弩変態ユダ吉」
「いえ、私は変態、変態と蔑まれてボッチ飯が定番。便所飯が定番。そこで、心優しき日向さんなら私をかばってくれて相手をしてくれるかと思いまして」
「どこの世界に飲食店で便所飯するボッチがいるのよ! つうか、あまり私に下品な言葉を使わせないで!」
キレまくる日向をよそに興奮しまくるユダ吉がいた。
「しかたない、私一人で食べに行きます」
「食べ物は置いてからお手洗いに行きなさい」
ユダ吉は渋々した装いをしながらトイレへと向かった。
月子は感づいた。ユダ吉よ、動いたな。トイレはあくまでもフェイクで食い逃げするための準備。トイレからの脱走は不可能だがなにかカモフラージュするなり策はあるだろう。そして一番に仲間を見捨てて逃げる男。
裏切りのユダ吉。
「あいつ、やってくれる」
「考えてそうなことがモロバレなんだけど……」
呆れながら、日向は言う。
しかしながら問題はある。問題とはモブ夫が最後に残り事を穏便にして代金を支払ってしまうかもしれないからだ。それではゴチスといて存在意義がなくなってしまう。最初に逃がすのはモブ夫でなければならない。まてよ……!
「それ自体がモブ夫の狙いかも知れないわね。おのれ策士! ユダはもう一人いたわけね」
「黙って食べなさい。企んでいることがダダ漏れよ」
月子は疲れきって言った。幸い警戒しているのは月子だけだ。しかしながら、あまりやる気がみられない。モチベーションがさがったというわけか。
「これは、いけるわ!」
「だから、黙って食べなさい。あっ!」
「美味いぞー! 美味いぞー!」
豚太郎が全品食い切っていた。しかし思うに全品食いきれる人間なんぞいるのだろうか? 豚太郎は食い逃げ集団をするよりフードファイターになったほうが良いのでないだろうか。月子は考え込む。
「食ったな~。満腹だ。我は横になりたい」
バカか! そんなことしたら食い逃げができないだろうが。豚太郎はおつむも豚並である。しかし!
バリン!
豚太郎は店のガラス張り側に座っていたが何故かガラスに横たわってそのまま破壊される。どんなパワーしているの? 豚太郎がまさかメンバーのエースになるとは月子は想像できなかった。割れたガラスから余裕で人間一人は通ることができる。つまりは食い逃げできる可能性ができたのだ。
「ナイスよ! 豚。さあ、皆逃げるわよ」
「ちょ、ちょっと月子。こんなことしたらあなた学校で停学処分じゃすまなくなるわよ」
日向の言うことはもっともである。社会上大問題である。今更の話だが……。
「だけど、私は止まるわけにはいかないのよ! 警察にお世話になった仲間たちの無念を晴らすためにも止まるわけにはいかない。って、ちょっとぉぉぉぉぉぉ!」
月子が目にしたのは豚太郎を介抱するモブ夫だった。
「しまったぁぁ! 豚の奴は無傷なわけがないか」
「そりゃそうでしょ」
日向のツッコミは無視をする。やることは一つ。
「モブ夫、クリスティーナ。豚太郎を皆で担いで逃げるわよ」
「月子! もう素直に謝ってお金払おうよ」
「モブ夫、私にはできない。できないのよ」
「意地をはらないで下さい」
「ゴチスの信念を忘れたの?」
「そんなのもとから僕にはありません」
「裏切り者ぉぉぉぉぉぉ!」
「ところでユダ吉はどうしたんですか?」
「あいつは騒ぎに乗じて素っ裸で逃げたわ。変装に間に合わなかったのね」
「それでも、逃げるんですか! 彼が一番ゴチスに忠実ですね」
「ええ、奴はゴチスの立派な鑑」
「一人だけ逃げただけですけどね。まあ、私はモブ夫君と獄中生活も悪くないかな?」
「残念、獄中で男女が一緒にいれられるわけがないでしょ。このお盛んが」
「なんですって! モブ夫君、私達だけで逃避行しましょう」
「クリスティーナもモブ夫連れて自分だけ逃げるつもりか! ゴチスの鑑」
「豚太郎をほっといてはダメでしょ。つうか、もう逃げられませんよ。警察がかけつけましたし」
「ガーン!」
かくして、お縄頂戴になったゴチスメンバーであった。
警察の取り調べの中、月子はカツ丼を食いたいと言い始めた。
あれはテレビの演出で食いたければ自費で食えという話である。そもそも、取り調べ中に食事するなという話であるが月子の熱意に負けてカツ丼が支給される。
そして、満腹になったあと月子たちは逃げ去った。食い逃げ成功である。
近い未来月子たちは本当に国際的伝説の食い逃げ集団となるのだがそれはまたのお話で。
ちなみに日向は月子を追うICPOになるのだが。
こんな、くだらない話を読んでいただきありがとうございます。
感想まっています。
ただ、ひとことつまんねえでもいいですよw