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こちらブラボー、そちらチャーリー

 どこまでも続く大地は荒れ果てており、ときおり吹く風は砂を舞い上げ、青い空を茶色に染めあげている。

 価値ある鉱物は採れず、食物も育たない、まさに不毛の大地である。

 そこには、長年風雨に晒され形成されたのであろう、大小様々な岩が転がっており、大きなものでは数メートルに及ぶ巨岩が大地に突き立っている。

 

 その巨岩の一つに身を隠しながら、西の方角に望遠鏡を向けるものがいる。そのものの手には、プレイヤー間で通信を行うための機器が握られていた。

 

 「こちらサツキ、ポイントあるふぁにとうちゃくー。これよりHMのPOP監視にあたります、どうぞー」


 Battle Odyssey Onlineでは、HMと呼称されるモンスターは常時出現しているわけではない。

 討伐されることもあれば、出現から一定時間が経過することにより消えてしまうこともある。

 一度、消滅したHMはランダム時間で再出現するシステムとなっている。再出現までの間隔はHMにより違いがあり、より強いHMほど再出現まで時間がかかる傾向にある。

 これまで経験してきたHMの再出現間隔から、おおよその見当をつけて監視に当たってはいるが、それが1分後なのか、1時間後なのかは実際に見てみないと分からないのである。

 そのため、HMを討伐できるような上位ギルドには、監視とともに少しでもHMの情報を引き出せるスキルをもったプレイヤーが必要不可欠である。


 Beyond the horizon居住スペース


 サツキからの連絡を合図として、いつでも動けるよう20人が待機していた。

 本来、HMの出現ポイントで全員が待機すればいい話なのだが、そうしないことには意味がある。

 大人数で動くことは、ライバルギルドに新HMの存在を知らせることになってしまうのだ。それを防ぐために、隠密系スキルを保有するサツキが監視にあたっているのである。

 

 リビングルームでは、準備を整えた14名の戦闘チームに加え、サポートチームのクラフター6名が武器防具、アイテムの点検に余念がない。

 

 「前衛の皆さん、今回、皆さんの武器にはミスリル加工が施されています」


 そう話し始めたフーゴの表情には期待と不安が入り混じっている。

 それも仕方のないことである。これまで、HM戦での武器強化はカグツチが行ってきたが、今回、初めてフーゴが全面に出て対応したのである。

 不安の無いはずがなかった。

 しかし、その情報は使い手に伝えねばならない。

 カグツチが方向性を示したとはいえ、武器強化を具体的に立案し、実施したのはフーゴである。


 「本当はミスリルから丸々一本の武器を作れれば良かったんですが、残念ですが、まだミスリルはそこまで安定供給されていません。そこで、ミスリル鉱を粒状にし、武器に塗布をするコーティング処理を施しています」


 この強化には弱点もあった、それを正確に伝えることで、起こりえるリスクをコントロール下におく必要がある。

 

 「簡単に言ってしまえばメッキです。10回20回打ち付けたところで剥がれるようなものではありませんが、耐久に限界があるのは確かです」


 これまで、魔法耐性をもつHMに対してとってきた主な戦術は、直接打撃武器の純粋強化であった。

 魔法アタッカーである、ソウジ達も魔法による打撃を捨て、前衛アタッカー陣のサポートに魔力を使用してきた。

 だが、今回、初めて、武器による魔法耐性の直接的な打破を試みることになる。

 

 「ですので、前衛の皆さんと後衛の皆さんの連携がカギになります。よろしくお願いします」


 なんとか説明を終えたフーゴに笑顔を向けるカグツチやクリストフらベテランクラフターたち。

 そのクラフター仲間の笑顔から、無事に、自分の仕事が終わったことを自覚したことで、ようやくフーゴの肩から力が抜けた。

 

 フーゴの説明に興奮を覚えつつも、面に出さないよう努めるものがいる。のだが、あっさりと見抜くものもまたいたのである。

 イオリは半眼の不敵な笑みをソウジに向け、こう言うのである。


 「ソウジ、俺がしっかりお膳立てしてやるから、感謝しろ?」


 内心をイオリに見透かされ舌打ちしたい気分になるソウジであるが、いつもの掛け合いでもあり、軽くいなしている。


 「ケツ拭きはやってやるから、しっかり自分の仕事をしておけ、メッキが剥がれる前にな」


 そんな二人のいつもの掛け合いを微笑ましく見ているナツメであったが、手元の通信機から受信コールが響いた。

 室内のメンバー全員にも同様の受信があったようである。室内から一斉にコールが鳴り響いていた。


 「あーあー、こちらぶらぼー、そちらちゃーりーですか、どうぞー」


 「サツキか、こちらナツメだ、沸いたか?」


 「ヤツがわきました、全員しゅーごーでおねがいします、どーぞー」


 サツキのPOP(出現)報告を確認すると、ナツメは即座に行動に移る。

 ギルドメンバーを見渡し、問題ないことを確認すると、一つ頷いてからメンバーに宣言する。


 「これより、HM『ダブルヘッドドラゴン』討伐に向かう!HMが出現したジレット荒野の転移ポイントまでテレポートを行う。現地到着後、一旦待機!」

 「ソウジ、マリア、ウズメ、テレポートを開始しろ!」


 ナツメの号令の下、テレポートを習得したマジシャン3名によるメンバー輸送が開始された。


 一方、ギルドメンバーがHM出現エリアに向かう最中、現地で監視しているはずのサツキの顔は引き攣っていた。


 「みつかったー、やばいよねー、やばいよねー!!?」


 ギルドにPOP(出現)報告をした後、興味本位でHMに接近を試みたサツキであるが、不意にHMの感知範囲に入り込んでしまい、隠密スキルを見破られていた。

 HM・ダブルヘッドドラゴンは、巨躯を揺らし立ち上がると、大きな二つ首が辺りの様子を探り出す。

 暫く周辺を探っていた二つ首であるが、ついに動きが止まる時がきた。

 

 ダブルヘッドドラゴンの深紅に染まった四つの目は、その視界にサツキを完全に捉えたのである。

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