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プロローグ

 全長16メートルにも及ぶ巨体が、一人の青年の前に立ちはだかっている。

 青年を睥睨するその巨体の持ち主は土龍、ファンタジー世界において『アースドラゴン』と定義されるモンスターである。

 ドラゴン、それはファンタジー世界の頂点に君臨するモンスターであり、人間種の敵うべき存在ではない。必然、アースドラゴンもそのように理解しているのであろう、その視線は獲物を前にした捕食者のそれである。


 だが、どうしたことか、この獲物であるはずの矮小な人間種は逃げる素振りを見せない。

 それどころか絶対的強者に対して悠々たる視線を向けているではないか。


 弱者たる人間種の、その不遜な態度に気が立ったのか、アースドラゴンが咆哮を上げると大地に地響きが走る。

 龍の咆哮、それ自体に攻撃力は皆無であるが、咆哮を浴びたものに、恐慌や麻痺の状態異常を引き起こす。咆哮を浴びせたアースドラゴンは、麻痺して動けなくなった獲物にその鋭い牙を向ける。


 しかし…


 「龍の咆哮か、残念だが俺にその技は効かない」


 青年は向かってくるアースドラゴンの側面にワンステップで回り込んで避けると、目標を見失ってしまったアースドラゴンは首を大きく左右に振り、消えた獲物を探し始めた。

 見つけた先は自身の左脇の下。これに怒り狂ったアースドラゴンは、その怒りのままに、鍛え上げられた尾を振り上げ青年を狙う。

 ドラゴンの鱗は鋼の剣すら通さない硬度を有している。その塊とも言える尾の一撃は、まさに凶器であり、ドラゴンの攻撃の代名詞であるドラゴンブレスと並ぶ必殺の一撃である。

 青年もその攻撃に対応するように、剣を構えドラゴンの尾を迎え撃つ。

 そして、まさに必殺の一撃が、剣と交差するその瞬間、青年が呟く。


 「バーストオンソード」


 突如、青年の持つ剣から破裂音にも似た甲高い爆音が辺りに響きわたり、それと同時に鋼以上の高度をもつはずのドラゴンの尾が宙を舞っていた。

 青年は必殺の一撃であるはずのドラゴンの尾を防いだばかりか、完全に切り飛ばしたのだ。


 これにはさすがのアースドラゴンもたまらず、激しい咆哮を発しながらのたうちまわっている。

 

 「これで終わりじゃ試しに来た意味がない、もうちょっと頑張ってくれよ?」


 青年の言葉に反応したわけでもないだろうが、尾を失ったダメージから多少は立ち直りかけたアースドラゴンが、最後の一撃に賭けようとしていた。

 アースドラゴンの巨体が黄土色から黄金色に変化を始める。これはドラゴンブレスの予兆変化である。

 この変化に気付いた青年は、今度こそはその両手で剣を構えた。

 

 「そうこないと面白くない。こっちも新技を試させてもらう」


 両手に構えられた、その刀身は美しく、陽に光にあたって鋭い輝きを放っている。

 青年は、息をふっと吐き、集中を高める。

 そして、「バーサークレベル2」と小さく呟くと、青年の体から赤いオーラが噴き出し始める。

 

 準備万端整えた青年の見据える先にはアースドラゴン。

 そのアースドラゴンもまた最後の一撃を放つ準備ができたようである。

 前傾姿勢から、狂暴な大きな顎を開くと、奥には獄炎の炎が揺らめいているのが確認できる。 

 その時である、アースドラゴンが周囲を圧する雄叫びとともに、ついにドラゴン最強の一撃を繰り出した。

 

 爆炎の炎が青年に向けて一直線に向かっていく。

 その火力の前には生半可な金属は融解し、強固な城塞の外壁すら吹き飛ばしてしまうであろう。


 青年もまた、同時に一つの技を放とうとしている。


 (上位ジョブの新技だからな、ドラゴンブレスくらいは打ち負かしてくれないと困るよな)

 (それじゃ合わせるか)


 「いくぞ」


 「音速剣」


 「ソニックブレイド!」


 一瞬のことである。

 青年が剣技を放つと、剣先より光の屈折が一直線にドラゴンブレスを迎い撃ち、ブレスを拡散してしまう。さらに剣撃の勢いは衰えることなくアースドラゴンの巨体を貫通し、その遥か先まで続いた。

 ドラゴンはその巨体を大地に沈める。勝敗は決したのである。


 (さすが ExtremeFighter で習得するスキルだけあって大した威力だ)

 (期待してなかったと言えば嘘になるが)

 (この威力ならソウジにドヤれるな)


 などと物思いに耽っている青年の背後に忍び寄る影があった。

 青年に気取られないよう真後ろまで迫ると、その闖入者は不敵な笑みをたたえながら、青年の耳元で声をあげた。


 「さっすが、いおりっち!アースドラゴンを一撃だったね!」


 「あぁ、期待通り、中々の火力だったな」


 「ありゃ、驚いてない、もしかして、いおりっちボクが見てたのに気付いてた?」


 「サツキほどじゃないが、オレも一応隠密系スキル習得してるからな、そもそも、お前も本気で隠れてなかったろ」


 「えへへ、明日から本気出す!」


 「最後まで本気出さないやつの言い草だな」


 この掴みどころのない、サツキと呼ばれた闖入者は、どうやら青年・・・イオリとは顔見知りのようである。


 「そだ、いおりっち、マスターから伝言だよ。次の討伐HM決まったってー、作戦会議やるから、23時にギルドにしゅうごー!」


 「了解、腹減ったし、一度ログアウトして飯食ってくる、時間までにはログインするから、ナツメに伝えておいてくれ」


 「分かったよ、ふふふ、いおりっちのセリフかっこよかったからマスターに教えてあげよーかな、『いくぞ、音速剣、ソニックブレイドぉ!』」


 「・・・忘れろ」


 「えー、かっこよかったのにー ニヤニヤ、盗賊のカギの素材集め手伝ってくれたら忘れられそうダナー、ニヤニヤ」


 「自分でニヤニヤ言ってるじゃねぇか、分かったよ、今度手伝ってやるから」


 「やったー、さすがいおりっち!、じゃあまた後でねー ドロン」


 そう言うと、煙玉で周囲に煙幕を張るサツキであるが、煙幕が流れ去った後にはもうその姿は消えていた。

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