第一章
授業終了のチャイムが鳴り響く。チャイムと同時に奇声を上げて勢いよく教室を飛び出す生徒たちを注意する先生の声を聞きながら、上宮 遼は欠伸を噛み殺しながら、教科書とノートを机にしまっていく。
前の席に座っている短髪の女子がこちらを振り返る。
「眠そうだな」
女子にしては少し低めの声。遼の机で頬杖をついて、遼の顔を覗き込む藤室 悠。
「ん……ちょっと寝不足で」
「遅くまでゲームでもしてたのか?」
確かに田橋から借りたゲームに熱中しちゃったっけ。どうしてもフルコンしたくて何度もリトライしてしまった。
だけど、原因は別だ。
……話しても仕方がない。
「んー、そんなところ」
笑って曖昧にごまかす。すると、悠はすっと目を細めて、じっと見てくる。見透かしたような目に、一瞬どきりとする。
「どうかした?」
「……別に」
悠が目を逸らして窓の向こうを睨む。
あれ、ちょっと機嫌が悪い?
どう声をかければいいか悩んでいると廊下から慌ただしい足跡を響かせながらツンツン頭の男子、田橋 健太郎が教室に入ってきた。ホクホク顔でこちらに近づいてくる。
「上宮ー、藤室ー。飯食おうぜ!」
5、6個のパンを抱えた健太郎が、遼の隣の席に腰掛けて机にパンを展開する。二人の返事も待たずに、早速、買ってきた惣菜パンの袋を開けて噛り付く。
「おい、コラ田橋!俺の机勝手に使うなよな」
机の主に蹴られてもへらへら笑いながらすまんすまん、とチョコスティックパンを一本渡す。すると「うむ、苦しゅうない」あっさり態度を変えた。健太郎とゲス顔で握手を交わしたあと、彼は男子のグループに戻っていった。
「なんだあれは……」
健太郎たちのノリについていけず、呆れた様子の悠。
遼も苦笑を浮かべながら、鞄の中から弁当を取り出す。得意ではないが、これでも毎日自炊をしているので手作り弁当だ。
中身は……昨日の残り物と簡単な物を詰め込んだだけ。
ふと、前に健太郎に「買った方がよくね?」と言われたことを思い出す。
うん、確かにそうだね。でも、やらないと上達しないだろ?
そのうちきっと上手くなるさ、と前向きになりながら蓋を開ける。
…………寄ってる。見事に傾いて中身が更にカオスになっていた。
……大丈夫、胃に入れば一緒だ。
そう思いつつ、作ってくれる人が欲しいなと弱気になる遼だった。