二月五日
二月五日
今日は、日記を書くまいと思っていた。
だが、どうしても記しておきたいことができ、今、筆を取っている。
午前九時四十分。二月四日までの日記を読み終えた私は、コンビニの駐車場にきていた。
最後に、どうしてもここを見ておきたくなったのだ。
駐車場には誰もいなかった。当然、未来の姿もそこにはなかった。
だが、いつも未来が座っていた車止めの前に、小さな箱がひとつ置いてあるのを見つけた。
私は、その箱を開けた。
懐中電灯の光で中を確かめると、丸いチョコレートケーキが入っていた。
上面に、ホワイトチョコで何やら文字も書いてある。
私は、注意深くそれを読んだ。
『おじさん おたんじょうび おめでとう みく』
未来から私への、バースデーケーキだ。
私は、ケーキを丁寧に箱に戻すと、家に持ち帰った。
家に着き、再び箱からケーキを取り出した。
おや? 箱の底に手紙が入っている。コンビニでは暗くて気づかなかったのだ。
未来からの手紙は、以下のように綴られていた。
『 おじさんへ
この手紙がおじさんの所に届くのか不安だけど、読んでくれると信じて書いています。
猫たちは、とっても元気です。ミーもクーも元気ですが、おじさんが一番元気です。それに、おじさんが一番甘えん坊です。ずっとお母さん猫の近くにいて、離れようとしません。
お母さん猫は、お家につれてきたら、何でも食べるようになりました。何故、あの時は食べてくれなかったのか不思議だけど、それがあったからおじさんと出会えたんだし、まぁいいかな、と思っています。
病院を出てたった二週間でしたが、私は、たくさんの初めてを経験しました。
初めて外の風を受けて、初めて道路を歩いて、初めて猫に触って、そして、初めてのお友だちができて……。
まるで夢の中にいるような毎日でした。
あ、そうだ。ケーキを作ったのも初めてです。
ママと二人で、「おいしくな~れ」って言いながら作りました。
おじさんのおかげで、私は、ケーキを食べることができました。
本当に、ありがとう。
私が初めて作ったケーキ、おじさんも食べてみてください。
もし、月が落ちてこなかったその時は、またお話ししましょう。いつものあのコンビニで、猫たちと一緒に待っています。
最後に、私の初めてのお友だち、おじさんへ。
お誕生日、おめでとう!
未来 』
未来からの手紙を読んだ後、私は数年振りにケーキを食べた。
もっと甘ったるい味を想像していたが、決してそんなことはなかった。いつの間にか、食わず嫌いになっていたのかも知れない。
現在の時刻は、十一時。
これから私は、睡眠導入薬を飲み、眠りにつこうと思っている。
だが、死を迎えるために眠るのではない。再び目を覚ました時のために、英気を養おうと眠るのだ。
日記を読み返さなければ、こんな心境になることはなかっただろう。
今、私の心は、凪ぐ海の如く穏やかだ。
私には、まだやりたいことが山ほどある。
飯尾君と仕事がしたいし、卵と牛乳をくれた酪農経営者の夫婦にお礼もしたい。
そして、たとえ月の衝突が間近に迫っていても、命あることを喜び、精一杯生きるのだと教えてくれた未来に、もう一度会って「ありがとう」と言いたい。
願わくは、明日もこの日記に、変わることなく文章が刻まれていることを……。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。直井 倖之進です。
本人が、純文学のつもりで書いた純文学。本当は、純文学とは呼べないものなのかも知れない純文学。いかがでしたでしょうか?
私が、純文学を書くようになったきっかけは、今から10年以上前。まだ、小学校の教壇に立っていたころのことです。
当時、何となくパソコンに向かい、何となく完成させた短編小説。何となく小説賞に応募してみたところ、最終選考候補作となりました。
それは、私が生まれて初めて書いた小説。その時のジャンルが、純文学だったのです。
「おや? これはひょっとしたら、そのうちに受賞なんてことになるかも」そんな妄想に近い淡い期待を胸に、私はその後も純文学を書き続けました。
そして、その中で誕生したのが、この度読んでいただいた『ムーン・インパクト ~月が落ちる日~』です。
結局、『ムーン・インパクト』もその他の作品も、現在に至るまで受賞を逃しております。
しかしながら、私に小説を書く面白さを教えてくれた、生涯の趣味を与えてくれた、それだけでも純文学には感謝しているのです。
これからも、折を見ては純文学を書いていくつもりです。
さて、次の作品ですが、ジャンルは大きく変わって“ハイファンタジー”。タイトルは『魔界への誘い』です。この最終話を投稿後、『魔界への誘い』のプロローグを載せますので、そちらもよろしくお願いいたします。
なお、Seesaaさんでブログも書いており、そちらでは小説の更新情報や日々の生活を綴っております。マイページにURLを記しておきましたので、よろしければご覧ください。
それでは、次作『魔界への誘い』でお目にかかれることを楽しみに、失礼いたします。




