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風に揺られる草の音に乗せ、花の香りが舞う。
西の地平に沈む太陽が空を茜色に染め、流れる雲が世界をどこまでも広げていく。
夕暮れの草原に、レキは一人佇む。
考え事をしている内に、いつの間にかこの場所へとやって来た。
景色に見覚えはない。
だが、この『場所』の事は良く知っていた。
ナダルガル平原――黒騎士である父が果てた戦場の跡だ。
「随分と、遠くに来ちゃったな」
牢獄での一件のから、レキはずっと考えていた。
ヴェロニカもまた、リリスのように、ゼノビアのように、オディールのように、人には語れない重大な使命を帯びているのではないか? 秘密を抱えているのではないか? それで苦しんでいるのではないか? だから裏切るしかなかったのではないか?
レキは、ヴェロニカを赦せる可能性を必死で考え、考え、考えた果てに――
「……駄目だ。幾ら考えても結果は変わらないや」
自嘲気味な笑みを張り付かせながら、緋色の瞳に死神のように冷徹な殺意をたたえる。
敵だったから、命令されたから、作戦だったから、将来に禍根残すから――
これまで様々な理由で多くを命を奪って来た。
そう。自分は〝暗殺者〟だ。
カルネギアで最も多くを殺して来た殺戮者だ。
だから、
「ヴェロニカ。僕は君を……殺す事に決めたよ」
言葉にする事で誓いとするかのように、レキは指が白くなるほど拳を握りしめた。
と、その時。
「探しましたよ、レキ君」
カサリと草を踏み分ける音がして、いつもの鎧を纏うマリアが心配げな表情で現れた。
「……マリアさん」
「隣、いいですか?」
風に揺れる髪を抑えながら、マリアは言った。
「僕は大丈夫です。気遣いは無用です」
レキはマリアから目を逸らすと、再び沈みゆく太陽を眺めながら答えた。
「大丈夫な人は、そんな辛そうな顔をしていません」
「………………」
「おこがましいかもしれませんが、レキ君を癒すのは私の務めだと思っています」
マリアはレキの横に並び立つと、握りしめたレキの拳をソッと優しく両手で包み込む。
「どうか胸に秘めた思いを解放して下さい。月並みな台詞ですが、誰かに話す事で楽になる事もあります。そして、私にもレキ君の悲しみを背負わせて欲しいのです」
どこまでも透き通るマリアの声と、その温かな手の感触に、ふいに目頭が熱くなりレキは慌てて目元を拭った。
マリアが側にいるだけで、荒れてささくれ立った心が柔らかでなもので満たされていく
「運命の相手……か」
「え?」
「真に必要としている時に側にいてくれる者が、運命の相手だと、オディールが言っていたのを思い出したんです」
レキの遠まわしであるが、心の底からの感謝と、深い愛情を籠めて言った。
マリアは照れるようにはにかむ。
二人はしばらくのあいだ手をつないだまま、西の地平に沈む太陽を眺めた。
草原に吹き抜ける風がセラスの花びらを舞い上げ、黄昏の空を飛ぶのは巣に帰る鳥の群れ。
「昔の話を……聞いて貰えますか?」
と、レキはぽつりとつぶやいた。
「はい」
マリアは力強く、真摯に頷いた。
レキは右手を真っ直ぐ前に掲げると、その手に一本のヴァナルガンドを浮遊させた。
「僕の称号の力は、酷く不安定なものなんです。〝暴食の悪狼〟はその名の通り、少しでも制御を誤れば主であろうが牙を剥く危険な力でした。当然、力の扱いには慎重になり、六大凶殺に入隊した頃でさえ、僕は称号の力を満足に使いこなせずにいた」
「自己の領域を、壁を乗り越える切っ掛けがあったんですね?」
「はい、僕の称号の力を覚醒させたのは、ヴェロニカなんです」
「!」
レキの言葉に、マリアは驚いたように目を見開く。
「ヴェロニカの称号《審判の矢を射るもの》の力は、〝燎原の火〟と名付けられた『爆発』を自在に操るものなんです。彼女の前では、どんな堅牢な鎧も、分厚い金属扉も、触れるだけで消し飛びました。最強の矛に相応しい強大な力を持つヴェロニカですが、同時に欠点もあったのです」
「称号の担い手に課せられた試練……ですね?」
「そうです。〝燎原の火〟は、触れている対象にしか審判を下せないんです」
「強い力であればあるほど、その力に見合った制約がかけられます。女神の加護は万能ではありません。私達、称号の担い手が常に戒めねばならない事柄です」
マリアの言葉に、レキはコクリと頷いた。
レキの称号の力が主にまで牙を剥くように。
オディールの称号の力は彼女に大きな試練を与えた。
ゼノビアの称号の力は常に彼女の死を映し。
リリスの称号の力は彼女自身を呑み込もうとする。
そして、マリアの称号の力は、あまりに強大な『双翼の青』は、否が応にも彼女を血塗れの戦場へ駆り立てる。
最後にサーシャは――(ん、彼女は、お腹が減るぐらいか?)と、レキは首を傾げ、少しだけほっこりした気持ちになった。
「触れるものにしか発動出来ないヴェロニカの称号の力は、遠距離からの攻撃を主体とする〝猟兵〟にとって致命的な欠点でした。ですが、『とある武器』にとっては最大の利点だったんです。それが、『龍砲』と呼ばれる古代兵器でした」
《終末の獣》による〝大崩壊〟で一夜にして滅びた聖王国オルディラン。
各地に残る聖王国の遺跡からは、彼の王国で使用されていた様々な兵器が出土する事がある。
その多くは筒状の物体で、先端部分から火を噴く事から『龍砲』と名付けられた。
カルネギアでは国が危険物として管理し、個人で持つことは許されていない。
「神聖具や神滅具とも全く異なる理論で組み立てられた、火と鉄の時代の遺産ですね。セイントアークでも幾つか保管していますが、現代では再現不可能な技術の結晶だと聞いています」
今より遥かに進んだ技術によって作られた古代兵器が廃れた原因は諸説あるが、『女神の加護』が最大の要因ではないかと古い文献に記されている。
古代兵器に対しては、五守護女神の加護が働かないのだ。
人類の宿敵である上位の魔獣や、瘴魔などは、神意を纏わぬ刃では傷一つけられない。
「それでもカルネギアでは長年、古代兵器の研究が続けられてきました。その成果が――」
「彼女と、いうわけですか」
「はい。神意を纏えないはずの『龍砲』と、触れる事でしか発動できない称号の『力』が組み合わさった時、恐るべき古代兵器が現代に蘇ったのです」
「審判の矢……。この身で体験して初めて、あの神技の恐ろしさを理解しました」
空を貫く閃光と群青色の劫火を思い出し、マリアは表情を硬くする。
「雷鳴の如く飛来し、死の気配すら感じさせずに相手の命を刈り取る。ヴェロニカが被害を気にせず神技を放っていたのなら、街一つが消し飛んでいたでしょう。僕はそんなヴェロニカの神技を『真似る』事で〝暴食の悪狼〟の力を覚醒させたのです」
「詳しく教えて頂けますか?」
「ヴェロニカは称号の力を制御出来ずにいた僕に、本来は機密のはずの龍砲の『構造』や『仕組み』、『扱い方』や『整備』の仕方。さらには〝燎原の火〟によってどういうメカニズムで龍砲が『可動』しているかまで教えてくれたのです」
レキはマリアへ説明した。
『龍砲』を『弓』に例えるなら『弾丸』と呼ばれるものが『矢』に相当し、矢を加速させる弓の『弦』にあたるのが『爆発』である。
チャンバー内に装填された燃焼物質が、爆発という高エネルギーに変換される事で、弾丸を高速で押し出し銃身から撃ち出す。現在の技術では再現不可能なこの部分を、ヴェロニカは爆発を自在に操る〝燎原の火〟により可能とした。
「女神の力――そのメカニズムを科学的にイメージしろ。これはヴェロニカの言葉です」
レキはそこで言葉を切ると、手のひらに浮遊させていたヴァナルガンドに神意を纏う。
バチリと、赤い雷光が炸裂した。
「今、僕の手の中には『龍砲』が描かれています。あの構造を模倣し、刃を操る力を弾丸に見立て、力を制御するのに強烈なイメージを集中。あとは、トリガーを引くように神意を起爆させる」
直後、雷鳴を轟かせながらヴァナルガンドが射出され、赤い軌跡を描きながら大地を真っ二つに断ち割る。
炎が一直線の道を描き、草原が紅に燃え上がる様は、まさに燎原の火であった。
「凄い……」
「一度、コツを掴めばあとは慣れるだけでした」
レキの手には、いつの間にか先に撃ちだしたヴァナルガンドが戻って来ていた。
「ヴェロニカのおかげで称号の力を覚醒させた僕は、やがて皆に認められて六大凶殺のリーダーになり、誰一人として失うことなく今日まで生き残ってこれました。その意味では、マリアさんに出会う事が出来たのもまた……ヴェロニカのおかげかもしれません。僕は彼女に大きな恩を感じている。彼女が困っているのなら、僕は全力で助けようとしたでしょう。ですが、彼女の口から語られるのは、どれも僕を殺意を駆り立てるものばかりでした」
暗殺者として相手の嘘を見抜く訓練を受けたレキには、ヴェロニカの語る言葉が全て『真実』だとわかってしまうのだ。
と、その時。
マリアがレキの隣から前に進み出ると、夕日に背を向けるようにこちらへ振りむいた。
逆光に照らされるマリアの姿は、黄金色に染まる平原に降臨した女神そのもので、風に揺れる髪をそのままに、慈愛に満ちた表情で優しく微笑む。
レキの心臓がトクンと音を立てた。
「ねぇ、レキ君。一度、考えるのを止めてみません?」
「え?」
「思考する事は大切です。見落としていないかを考え、自分の行動の正否を問う。戦場では考える事を放棄した者に明日はありません。ですが、時にはどれだけ悩み抜いても答えが出ない問題もあります。己が進むべき道に迷う事が。私はそういう時『ある事』をすると決めているんです」
「ある事……ですか?」
マリアはコクリと頷くと、天に手を掲げ神槍ゲルヒルデを召喚。
巧みな槍捌きで風を斬ると、最後に両手で持って、レキに差し出すように前へ掲げた。
「――――迷った時は槍に聞け」
それはセイントアーク最強と謳われた《白騎士》の言葉であり、これまでマリアを導いて来た教えである。
「レキ君と出会ったあの瞬間から、日を追うごとにレキ君へ惹かれていきました。でも、恋を知らない私には、胸の高鳴りの正体がなんなのかわからなかった。理解出来ないから戸惑い、悩み、どれだけ考えても答えが出なかった。だから、レキ君と戦ってみよう。この槍に聞いてみよう。そう、決めたのです」
レキとマリアはミーミル士官学校の演習場で刃を交え、技をぶつけ合い、互いの想いを炸裂させたのだ。
「迷った時は槍に…………」
レキがそう呟き、マリアが差し出す槍に触れる。
次の瞬間。
夕暮れの草原に一陣の風が吹いた。
それは同時に、レキの心にかかる暗雲をも吹き払う。
「クッ」
こみ上げてくるのは、どうにも抑えられない笑い声。
「ああっ! どうして笑うんですか!? 酷いですよ、レキ君ッ!!」
マリアはぷんすかと頬を膨らませるが、レキの笑いは止まらない。
むぅ~、と唸っていたマリアだが、やがて釣られるように笑い出し、夕暮れの草原に二人の笑い声が木霊する。
二人の距離は自然と縮まり、手と手を取り合ったレキはとマリアは、互いの額をコツリと突き合わせた。
鼻先が触れ合うほどの距離で、熱く見つめ合う。
「不思議です。あんなにも虚ろだった心に、希望と喜びがあふれ出して来る」
レキはマリアを愛しそうに抱きしめた。
マリアもレキの想いに応えるようにその背中に両手を回す。
「どんな時でも、どんな場所でも、私の心は常にレキ君と共にあります。忘れないで下さい。レキ君の背中は私が守っている事を」
「ありがとう、マリアさん」
影っていた胸の中の炎が、再び燃え上がっていく。
熱く、灼熱する恋の炎が。
マリアを抱きしめるレキの身体から、神意が放出され炎髪がふわりと揺らめく。
周囲に紅の雷花が咲き乱れ。
次の瞬間。
レキの周りを囲むように、鋼の音を響かせて一斉に十本のヴァナルガンドが群れを成す。
「レキ君、なにを?」
「見ていて下さい。これは僕の意思表示です」
レキはそう言って、左手でマリアの腰を抱き、右手を前に掲げた。
「――――バレルを形成。飛翔体とのラインを確保。シリンダーに全弾装填。チャンバー内に神意を充填。ライフリング開始」
聖なる言葉のようにレキが朗々と唱えると、宙に浮かぶヴァナルガンド達が、それぞれ帯電しながら回転し始めた。
最初は静かに、だが、徐々にキーンという音を奏で、やがて大気が震えるほどの高速回転状態に至ると、帯電は放電となり、刀身は真っ赤に灼熱し、おぞましい量の神意がそれぞれに収束していく。
さらにレキは双剣を引く抜くと、眼前に掲げ――
「出ておいで、フェンリア、フェンリス」
と、囁き、神滅具の封印を解く。
双剣から歓喜と共に凄まじい炎が吹きあがり、レキの手から自然と浮かび上がった。
フェンリア、フェンリスと名付けられたヴァナルガンドの姉妹剣は、レキにじゃれ付くように周囲を旋回する。
そして、
「自由に舞えッ! ――――死を招く十三の恐怖!!」
軍団に突撃を命じるかのように、レキは凄烈に叫んだ。
百の雷鳴を束ねたような爆音を轟かせ、十二匹の赤狼達が、夕日に染まる茜色の空を、紅蓮の炎で真紅に染め上げた。
本来ならそれは、魂が震える恐ろしき光景であっただろう。
だが、今だけは違った。
神話の時代の龍を葬り、ユグドラシルの塔を焼き払い、数多の敵を屠って来た十二匹の赤狼は、草原を走り回る子狼のように楽しげに空を駆け巡るのだ。
「こ、これは……」
「死を招く十三の恐怖。僕が使える最強神技の一つであり、神を喰らうための牙です。マリアさんには一度見せた事がありますよね?」
「いえ、あの……その……」
マリアは頬を赤く染め、空を駆け巡る十二匹の狼達――
その上に跨る十二人『戦乙女』達を見やる。
確かにマリアは以前、王都を襲撃した龍を殲滅する際に、レキが放った神技を目撃した事があった。だが、あの時はこのような『人の形』をしてはいなかった。
なにより、マリアを困惑させるのは、人型のどれもが『マリア』にそっくりな点であった。
胸の大きさといい、腰の細さといい、その容姿といい、まるで合わせ鏡に映る自分を見ているようだ。
「ああ、彼女達の事ですか?」
レキもマリアの困惑に気が付いたのだろう。照れ臭そうに頭をかく。
「帝都に襲撃をかけた時には『ああ』なっていたんです。これまで僕の中ある力の制御のイメージが、きっとマリアさんで塗り替えられたしまったのでしょう」
レキはさらりと言うが、その言葉にとんでもない意味が籠められていた。
称号の担い手にとって女神の力とは、その加護とは、己の根幹をなす重大なアイデンティティーだ。数々の試練を乗り越え、神との対話を経た先に、自己の領域を拡大して、与えられた女神の力を洗練していく。
それが階位を上げるという事だ。
故に、一度根付いた『根幹』は決して揺らぐ事はない。
だが、レキにとって称号の力を制御するためのイメージは、今、マリアの姿を形作っている。
それが意味する事は、ただ『一つ』だ。
マリアはレキに抱きしめられ、その腕の中で赤面させるしかなかなかった。
レキは何も言おうとはしない。
これ以上の言葉は不要だというかのように、今も黙したまま、茜色の空を駆け回る赤狼と戦乙女のロンドを見上げている。
『あなた色に染まる』――という、恋の言葉がある。
好きな人の色に、愛する人の色に、意識か無意識かに関わらず、変化していく人間関係をさすものだ。
実際、マリアもレキと出会ったから、随分と変わった自覚がある。
悪夢に魘され眠れなかった毎日が、レキと出会ったからは一度も怖い夢を見なくなった。
何度も身体を清めなければ落ち着かなかったのに、レキの匂いを感じるだけで、不思議と心が落ち着くようになった。
これまで誰の目も気にならなかったのに、レキの視線だけはどうしても気になった。
レキが他の女性を見るだけで、心が騒めき不安になった。
部隊の仲間に化粧を習い、服装に気を払い、下着にまでこだわるようになるなんて、『血塗れ聖女』と云われたあの頃には想像もしなかった。
他にも、人には絶対いえないような『悪癖』まで覚えてしまう始末。
青き双翼の戦乙女は、すっかりレキの色に染め上げられてしまった。
だが、レキはどうか?
レキは、とても、とてつもなく、ちょっとどうかと思うほど異性に好かれる。
故に、マリアは不安であった。
こちらの色に染まってくれとはいわない。ただ、ほんの少しでもいい。圧倒的で揺るぎない少年の格に、一切の淀みを許さない鮮烈な紅に、自分の色を与えたい。そう思っていた。
だが、
(これは染まるなんて、生易しいものではありませんッ!)
今日、この瞬間、マリアの不安は欠片も残さず燃え尽きた。
神の加護を偽る事は出来ない。
空を紅に染め上げるあの神技は、レキにとってマリアが、本来なら絶対に揺るがないはずの根幹を、根こそぎ塗り替えるほどの存在であると、これ以上ないほど示しているのだ。
少しでも色を与えたいと思っていたら、自分と同じ姿の戦乙女が十二人も出て来たのだ。
レキが示した技は、マリアにとって最高の愛の告白であった。
この大きな愛に報いるには、マリアもこれ以上の愛を示さねばならないだろう。
マリアの胸に、熱い闘争心が燃え上がる。
(レキ君の事をもっと知りたい。レキ君の技をもっと見てみたい。なにより、レキ君ともっともっと戦いたい!)
マリアは心の中でレキへの想いを昂らせる。
そして、
「――――レキ君、私と修行をしましょうッ!!」
頬を紅潮させ、蒼い瞳をキラキラと輝かせながら、マリアは叫んだ。
名案だと思った。
どうしてもっと早く思いつかなかったのだろう。
修行なら、これまで以上にレキと戦えるではないか。
「修行……ですか?」
突然のマリアの願いに、レキはきょとんとした顔になる。
「はい、修行です! 修行しましょう、レキ君!」
レキと出会った事で、マリアは恋する乙女となった。
だが、ただの乙女ではなかった。
マリアは乙女の前に『戦』が付く生粋の武人であり、愛の言葉よりも魂の籠った『技』にときめく最強の『戦乙女』である。
そして、
「やりましょうマリアさん! 僕はもっと強くなりたい!」
レキもまた、マリアに負けず劣らず、『馬鹿』がつくほど生粋の武人であった
こうしてレキとマリアは時が経つのを忘れて修行に励んだ。
あまりに励みすぎた。
襲撃事件のあとなだけに、王都では夜になっても帰らないレキとマリアを心配した家の者が、ニーベルンゲン騎士団の詰所に駆け込み捜索隊が結成され、六大凶殺の少女達にも協力が要請される大騒ぎとなっていた。
ナダルガル平原で戦うレキとマリアが発見されたのは、深夜遅くになってからだ。
二人の身を案じていた関係者にこってり怒られたのは、言うまでもない事である。