スティーグの必殺技
ゴーレムのいた場所に戻った俺達を待ち受けていたのは何十体もの魔物達だった。
人型、獣型、虫型。多くの魔物がひしめき合っていた。
こいつら一体どこから現れやがったんだ。
そして、ゴーレムも今まさに壁を打ち壊し、外に出ようとしていた。
クレアが魔物の多さに引きつった笑みを浮かべる。
「い、いっぱいいる」
それほど強力な魔物はいないようだが、これほど多くの魔物は見たことがないだろう。
なんといっても以前ダンジョンに行って遭遇したゴブリンやスライムが初めての相手だったのだから。
アティシアがそんな二人の生徒に活を入れる。
「恐れないで。あなた達の実力は十分上級冒険者の域に達しているわ。自信を持って。ただし、油断はしないでね」
「は、はい!」
「もちろん」
「お兄様。魔物は任せてください。ご武運を」
俺は頷く。
ミューリが弓を引く。
「それじゃあ、始めるわよ!」
ヒュンと開幕の一射を放ち、獣系の魔物の脳天を見事に打ち抜く。
弾かれるように魔物がこちらに襲い掛かってきた。
俺は魔物を縫うように躱しながら斬り付け突進を開始。狙うはオリハルコンゴーレムのみ。
「gooooooooooooo]
ゴーレムもこちらに気づき、声なき声を上げる。
俺は精神を集中させ剣を構えた。
狙うは一撃必殺の剣。命力を極限まで高める必要がある。
が、それを簡単に許すゴーレムではなかった。巨体で前傾姿勢を取りタックルを仕掛けてきたのだ。
俺はそれを躱すが、ゴーレムは器用にバックナックルを振り回す。
「おおっと!」
ジャンプして拳の上に乗るとそのまま拳から肩へと走り顔面めがけて思いきり蹴りを叩き込んだ。
ぐらりと巨体が揺れ、ゴーレムはずぅんと音を立てて転倒した。
「いってぇええ!」
蹴った方の足が滅茶苦茶痛い。片足を上げて思わずぴょんぴょん跳ねてしまった。
******
「うわー、あの巨体を蹴りで倒すなんて相変わらず滅茶苦茶・・・」
クレアはスティーグの方を見て呟く。
だが、いつまでもスティーグを見て呆けている場合ではない。
巨大な虫型の魔物が地を這ってこちらにやってきた。
「虫は嫌いです!」
地を滑るように振るわれた大剣が虫型の魔物を切り裂く。
返す刀で獣型を二匹同時に打ち倒す。
これで十体目。
アティシアの言う通り、油断さえしなければ自分の力は十分通用する。
と、ここで大型の魔物が現れた。トロルだ。
だが、クレアは焦らない。
精神を集中して剣を振り下ろす。
「崩断!」
トロルの巨体を持っていた棍棒もろとも一刀両断に切り裂いた。
「う・・・」
崩断を使った後はまだ少し体が重い。
と、今度は頭上から鳥型の巨大な魔物が空襲を仕掛けてきた。
身構えるクレアだったが、その前にヒュンという音がしてミューリによって放たれた矢が鳥型の魔物を打ち抜いた。
ミューリはこちらを見て軽く頷く。
「さすが!」
セリスの方を見ればアンデット型の魔物を聖なる加護を帯びた拳でタコ殴りにしていた。
その動きは俊敏にして無駄がない。かつての判断に迷って動きが固かったセリスが懐かしい。
アティシアが合図を送り、全員を集める。
「みんな、伏せて」
アティシアの魔法、風の刃が全方位に放たれる。
やはりトリプルAの冒険者の資格は伊達ではない。剣と魔法どちらも達人の域だ。
「今のであらかた片付いたかしら?」
周囲を見渡しながらアティシアは確認を取る。
全員は油断なく周囲を見渡す。大丈夫のようだ。
「後はお兄様に任せましょう」
「で、でも、大丈夫かしら。相手はオリハルコンゴーレムよ?」
ミューリが心配して聞き返す。
アティシアは頷く。
「よく見ていてください。お兄様の命力を使う場面はめったに見れるものじゃありませんよ」
「そういえば」
「見たことないかも」
クレアとセリスは顔を見合す。
「お兄様。どうぞ、ご存分に」
******
倒れたゴーレムの腹に俺はダメ押しで踵落しを叩き込む。
ゴーレムの巨体が地面にめり込んだ。
くっそ、やっぱり足が痛い。滅茶苦茶固いな。わかってたけどよ。
めり込んだゴーレムは中々地面から抜け出せず、身動きが取れない。今がチャンスだ。
俺の命力技はクレアのような一撃必殺タイプ。
それも溜めが必要なので、使い時が難しい。
そもそも俺が命力を使わなくてはならない相手などそう滅多にはいないのだ。
腰を落とし剣を水平に構え、精神を集中させる。
ありったけの命力を引出し、全身にみなぎらせる。
「おぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
天が揺れ、大地が鳴動する。
まだだ。まだ足りない。もっとだ!
クレアとセリスは背筋が震えた。
「ち、ちがう。あたし達の命力と全然違う!」
「練度が桁違い。すごく力強い!」
ミューリに至っては何が起こっているかわからず口をパクパクさせている。
アティシアは自慢げに解説する。
「命力は体の鍛錬はもちろんですが、重要なのは意志の力。何よりも強い意志力が命力を高めるの。あれだけは誰の加護でもない。お兄様の本当の力」
「先生の」
「本当の力」
クレアとセリスは生唾を飲み込んだ。
ゴーレムがゆっくりと起き上がった。
俺を見るとすぐに攻撃するでもなく、どこか縮退しているように見える。
「怖いか、俺が?」
俺は獰猛に笑う。
ゴーレムにどれだけ自分の意思なんてものがあるかわからないが、こいつは今恐れを抱いているのは間違いないだろう。
「gfffffffff」
恐れを振り払う為か、声なき声を上げてタックルを仕掛けてきた。だが、もう遅いぞ。
俺は極限まで高めた命力を一点に込め、剣を突き出す。
これが! 俺の必殺技!!
「カラミティーブレイドー!!」
命力を込め突進突きしたダーウィンスレイブが見事オリハルコンゴーレムを貫通、その後、力の余波でゴーレムの巨体を粉々に粉砕した!




